File.18 回り巡るは腐る縁   (回転寿司館殺人事件)

Ep.0 ある女子高生の会話ログ

 夜も深まり、全てが闇に包まれる時刻。結った髪を解いた少女は机に向かい、慌てた様子で電話を掛ける。

 コール音はほとんどなく、通じた相手は一発欠伸をしてみせる。ただ少女はすぐ本題を語り掛ける。


咲穂さきほ! ヤバいヤバいヤバい! 結構ヤバいかも!」

『何なの……? そんな慌てて……』

「うちのクラスに来た宮和江咲って子知ってる?」

『ん? あの探偵の子が……? 探偵……?』


 腑抜けていたはずの声はいつしか、芯のあるものへと変わっていく。まるで少女達の中では探偵を恐れているかのように。


「あの子が今日、ワタシに接触してきたのよ……。もしかしたら……あのことに勘づいているかもしれない……」


 その先で電話を受けた相手も記憶の中にある、一つの黒歴史が蘇っていく。すでにお淑やかさは消え失せて、荒げた声で電話主を問うていた。


『はぁ……!? それであのこと、話したんじゃないでしょうね!?』

「そ、そんな訳ないじゃん……あれがバレたら、将来が滅茶苦茶になるんだから……」

『だ、だよね……ごめん』

「うん……バレる前に何とかしないと……宮和さんをどうにか……」


 考えても普通の発想ではどうにもならない。

 最初は仲間うちに入れたり、交渉で誤魔化したりとの手も出たが。そのどちらもが無理だとも判断していた。

 だからこそ、か。少しずつ闇の深い話題となっていく。


『じゃあさ……あの子を殺すってのはどう?』

「こ、殺す……?」

『そうするしかないわよ……それに探偵ならちょうどいいじゃん……だって、探偵が事件のことを調べて行方不明になりました……ってのなら誰もが納得しちゃわない? よく捜査中に崖から足を滑らせてってのも聞かない話じゃないし』

「そ、そういうニュースあったね……しかも崖下で見つかったのは二年前の遺体だったっけ?」

『そう。事故った上で崖崩れに巻き込まれて……ね。宮和さんにはそれで死んでもらうってことでいいんじゃない?』

「で、でも……」


 殺すとの言葉に少女の方は押し黙る。本当にそんなことをやっていいのか、と。しかし、咲穂と呼ばれた少女は止まらない。


『いい? この世はやるかやられるか……よ。うちの親だっていろんな店を潰して成り上がってきた。その中では自殺した人達だっているし……実際、アタシ達だって……』

「わ、分かった……分かった……じゃあ、あの宮和って子を……」

『そう。宮和って子は事件を捜査して行方不明になった。そういう筋書きよ』


 その話になる前にふとある少年の顔も浮かんでいた。


「ちょっと待って。でも、うちのクラスにもう二人いる……けど」

『確かカップルみたいな子達だっけ? でも女子の方は事件の捜査中に行方不明になっちゃったみたいじゃない……。どうせどっかで死んでるんでしょうけど……問題は男の子の方か……』

「いっつもすんとしてるし……たぶんワタシ達のことに関しては興味ないと思うんだけど……宮和さんがいなくなったら、それを探してくるんじゃない?」

『厄介ね。一応、そっちも結構殺人事件を解いてるかもしれないし……仕方ないか。そっちも殺そっか!』

「えっ?」


 今はまだ無実の人を手にかける。そんな発想ができてしまう咲穂に少女は少なからず不信感を覚えていた。

 本当にそれでいいの、と思うものの。咲穂には逆らえない。会社の重役である親の影響もあり、学校の中のカーストもあり。反逆の意思を向ければ、自分の人生はどん底だ。


『どうしたの?』

「い、いや……でも事件とか……場所とかどうするの?」

『任せてよ。今度、うちの親の会社でさ、山奥の別荘で会合をするんだと……そこに脅迫状が来た、なんて相談すれば間違いなくあの二人はやってくるんじゃないかな……』

「えっ? あっ……うん」

『だから脅迫状、出しちゃおう……! 社長宛に殺すとかでいいかな……』

「警察来ちゃうんじゃ……!」

『そこはうまく誤魔化しておくから……安心して!』


 少女、なぎはこの計画がうまくいくのか。サッパリ分からぬまま、躍進する心臓の鼓動の数を保ちつつ、回転寿司館へと誘われていく。

 そこが想像を超える惨劇の地だと露も知らずに。

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