Ep.2 探偵が終わったら、始まっていく(終)

 春日井は僕が真実を見抜いていると思っているようだが。僕はまだその正体を知らない。

 今は知っているぞ的な雰囲気を通すべきか。でないと、春日井に何を言われるか分からない。

 隠し通すことにしよう。


「その顔を見る限り、まだ分かんねぇみたいだな。けっ……やっぱ、ねぇさんの探偵ごっことなんら変わりねぇじゃねえか」


 一瞬でその決意が無駄になったことを知った。ケラケラ笑っているだけ。


「お前なぁ……」

「おっ、やるつもりか? 喧嘩っぽいな探偵って奴は……」


 見えやすい挑発をしてくるも我慢を突き通す。探偵以外の奴に労力を向けても無駄であることは明らか。


「言ってろ……」

「ちっ、何の挑発に乗っても来ない奴……つまんねぇな」

「お前こそその捻くれた性格をどうにかしろよ」

「わりぃな……。ねぇさんをたぶらかそうとする奴にどうにかしたい性格を見せたいとは思えねぇんだわ」

「たぶらかそうとはしてねぇって」


 言い合いながら、「アイリス」の正体について考えていく。

 映夢探偵との関わっていた赤葉刑事や知影探偵が「アイリス」の可能性は低い。そもそも映夢探偵自身が知影探偵は違うと公言していた。

 更なる確認のため、春日井に打ち上げのメンバーを尋ねていく。


「何だいきなり……映夢探偵と荒山って人と浦川って人とだな……」


 以前の事件で知り合った僕や知影探偵の関係者だ。ただ随分癖が強かった記憶がある。類は共を呼ぶ、がそのまま行われた感じか。 


「まっ、お前達みたいなうるさい探偵や刑事共がいなくて良かったぜ……映夢探偵だけだぜ。話が分かんのは」

「はっ? 何かしたのか?」

「いや、まぁ、少しだけちょろっとな……」


 ふと思い浮かんだのが未成年飲酒、か。

 立派な犯罪だが、そこをちくちく言っても証拠がない以上無視するしかない。

 それよりも、だ。

 今の話で重要なことが分かった。


「映夢探偵以外、探偵や刑事はいなかった……と」

「ああ……んな話がどうかしたのかよ」

「アイリスの正体が絞り込めたんだよ」

「……話を持ってこなきゃ、良かったぜ……」


 映夢探偵が「アイリス」のことを口に出したのは、その飲み会にいないから、だ。口止めされているのにその人の前でヒントのようなことを言い出せるはずがない。

 今、僕が疑っているのはあの二人。

 影山刑事と宮和探偵の二人だ。あのどちらかにアズマと親しい人物がいる。

 男とは言っていたが。宮和探偵が映夢探偵に対しては男と名乗っていた可能性もある。だから彼女も「アイリス」かもしれないと考えている。

 美伊子が殺された際、僕の前にはアズマがいて。美伊子の前には別の誰かがいた。それが「アイリス」の可能性もあるのだ。

 真実を知るために、あの二人の正体を探らねばならない。

 そんな僕の前にまたしても惨劇が立ち塞がっていく。いや、僕だけではなく、影山刑事や宮和探偵を巻き込んでいく。

 僕が真相を知るための旅は地獄よりも険しいものになりそうだ。

 世にも狡猾な連続殺人に巻き込まれるのは、この数日後の話。


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