Ep.15 証拠が全て
宮和探偵がビクリとこちらに首を回していた。
「な、何よ……それってどういうことなの!?」
そしてそのまま僕の肩に
「何……? ワタシの調査結果に文句がある訳? 捏造したとでも言う訳?」
僕は首を横に振って、彼女の不満を否定した。
「いえ。僕は知影探偵を信じてます。ちゃんと順二さんの親も友人も知っているみたいですし……そういう悪いことはしないと思いますよ」
「そう? それが分かってるなら、いいけど……ってことは、元々ワタシが捏造されてたものを見つけちゃったとか? 誰がそんな捏造を……」
筆者が順二の母でないことはまず明白。内容があまりにも危険すぎる。今回は知影探偵を信じて情報をくれたが。
この遺書に書かれていない限りは自分の血筋に無差別殺人の人間がいることなど書かないだろう。
また母が犯人でなければ、友人であるのも変だ。母であれば、息子の筆跡を知っている。変に書き写されたものだと気付くはずである。
例えその友人が宮和順二に何か恨みがあったとして。それだったら、借りた本にこんなメッセージが入ってたとSNSや何かで情報掲示をするはず。
そもそも、だ。順二しか知らないようなことばかり書かれている。
「状況的に考えて、たぶんこれを書いたのは宮和順二で間違いないと思うんだけど、たぶん、それこそが偽書だと思うんです」
宮和探偵が目を見開いて、反応した。驚くのも無理はない。
「ってことはつまり……兄貴の遺書は兄貴自身がした偽装ってこと!? どういうこと!?」
「こればかりは自分の完全な推測の域になるけど……聞いてく?」
最初に言っておく。今回に関しては証拠がほとんどない。可能性だけ、だ。だから話は完全に二人の心のうちにとどめてほしいと考えている。
証拠が全ての法廷では言えなかった、僕の推理だ。
知影探偵も宮和探偵も「ええ!」と了承してくれた。
「じゃあ……まず、何故この遺書が偽装だと思ったのかを説明するけど……まず、他の子供達の存在が書かれていること……だな。宮和探偵があの三人を証人として考えているってことは被害者の女の子を除いて、あの場に子供はいなかったと考えていいでしょうね」
「うん……あたしの調べでは……そうね」
「でも、さっきの今場さんの話を聞く限りは、まず今場さんは山道の途中で転んで動けなくなっていたはずだ……そして、波佐見の方も実際事件を見ていた訳ではない……」
となると、疑問が出てくることに気付くはずだ。特に知影探偵は。
「あっ……何で? そのままアクセル全開で帰ってったってはずだから……? その子達がひょこっと出てこない限りは波佐見くんは分からないけど、今場ちゃんの存在は分からないはず……」
僕はすぐに今場さんの存在が分かった理由について、語っていく。
「たぶん……宮和順二は知っていたんだ……今場さんがいたことを……その目で倒れているのを見たのか……となると、どうして知っているのか。それはたぶん本当はアクセル全開で家に帰ってなんかいなかったから……」
宮和探偵は首を傾げていく。
「何で……? 家に帰ってないの? 事故を起こしたら、ひき逃げ犯だったら急いで帰るでしょ」
「たぶん、それは彼がひき逃げの犯人じゃなかったから、だ……僕はこう思うんだ。ずっと現場に残っていたのは、自分が捕まるため、だったんだ」
「兄貴が捕まるために……? ひき逃げの犯人じゃないのに!? どういうこと!? 分からないんだけど!? どういうこと……!?」
僕は考えた。こんな可能性はあり得ないという邪念を拭い去って、新たな推察を頭に思い浮かべてしまったのだ。
「犯人を庇ったってことですよ。ちょうどあの場には、秘密基地に置いてあった木材もある……よくグラウンドの整備に使われるトンボの要領で、自分の足跡も犯人の足跡も消せたからちょうど良かったんだろうな」
今度は知影探偵が知りたがりの本領を発揮する。こちらに顔を勢いよく近づけ、犯人のことを尋ねてきた。
「一体、誰……!? 誰を犯人だって考えてるの? あそこに他にひき逃げ犯なんていたのかなぁ……? あそこに大人の人なんて……」
「たぶん、大人が犯人だとしたら……宮和順二は庇うなんてことはしなかったと思いますよ……」
「へっ? その口ぶりからして……」
そろそろ、僕は犯人の名を言わなくては。
絶対に外には出せない推理。ただただ宮和探偵が納得するためだけに作られた僕の幻想なのかもしれない。
「犯人が今場さんと考えるのは難しい……彼女は慣れない靴を履いていた……たぶん車の元まで走るのは時間が掛かります……少女もたぶん走り去っていることでしょうから」
その発言に二人の目の玉が異様に揺さぶられていた。なんてったって、僕はとんでもない可能性を口にしている。
「で、たぶん川の方にいて……少女を挟み撃ちにしようとしていたのか……樫木は……犬を連れていたと宮和順二も証言している……これはたぶん揺るぎのない真実だとすると……まぁ、犬を連れて車から走り去るのは難しいでしょう……」
となると、宮和順二が庇うべき人物は一人。
「犯人は波佐見……波佐見が少女を轢き殺した犯人になるってことなんだ……!」
知影探偵が開口一番僕のことを心配していた。
「ちょっと待って……! それって君の友人でしょ!?」
「友達だからと言って、犯人じゃないって考えられれば良かったんですけどね……」
「あっ、ごめん。そうよね。ごめん、話の端を折っちゃって」
「大丈夫ですよ」
宮和探偵は僕の言いたいことを整理していく。どうやらかなり珍紛漢紛な状態で理解するのに時間が要るのだろう。
「……え? つまり、あの時、幼稚園児が小学生も間もない彼が車を運転して……その少女を轢き殺したってこと!? どういうこと!? 何で……そんなの、あり得るの!? 車を運転って!」
僕は記憶の中にある情報を呼び覚まし、可能性を提示する。
「外国とかでも結構子供が運転してしまったって例はあるから……そこで偶然事故は起こらなかったのかもしれないけど、今回はそれで事故が起こってしまった……そう考えられちゃうんだ……あんまり考えたくはなかったけど……でも、その可能性を考えるといろんな謎が解けるんだよ……この事件の中に隠されていた謎の答えが見えてくるんだ!」
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