Ep.14 遺書公開
ただ頭の中が真っ赤に燃えている人もいるようで。近くの壁を勢いよく叩いた人物がいた。それが弁護士、宮和探偵だ。
「何で!? 何で!? ちょっと待って! 何で!? そんなの知ってるの!? 何で!?」
知影探偵に先程から押されていることに対し、かなり論理的な思考を失っている。僕も止めなくてはと宮和探偵に注意する。
「宮和探偵……落ち着いてください……真実は真実……知影探偵の話も聞くべきですよ」
「で、で、でも……!」
今までの大人ぶっていた彼女の様子が変わっていく。「何でそんなの言えるの!?」と僕が静止させようとしても従ってくれない。
「いい加減にしないと、退廷させますよ……」
彼女は知影探偵を指差したまま。固まったまま。
「でも、何でそんなこと知って……」
「それを今から聞きますから。知影探偵、どういうことか説明してください」
知影探偵は知影探偵で宮和探偵の姿を見たからか。目を閉じて何だか言いづらそうな顔をしている。だけれども、言わねばならないと分かっているのか。
口元を一回手で抑えてから、モニターに一冊の小さなノートを映し出した。
「これが宮和順二さんの家にあった手記です」
「どういうこと……それに何て書いてあるのよ! 何でそれが兄貴が犯人になるの……!?」
彼女はこの裁判をひっくり返す。
「これは彼の遺書であり、彼がひき逃げをしたことについて書かれています。つまるところ、これは彼が警察の尋問に追い詰められたことによって自殺した訳ではなく、被害者を死なせてしまったことで自殺したってことを証明します」
そこで一つの謎が解けた。
犯行を認める遺書があった。だから宮和順二の母親は息子が罪を犯した前提で話をしたのだ。それでも否定する人もいるだろうが。きっと母親は被害者遺族のことも考えていたに違いない。逆の立場だったら加害者を許していただろうか。遺書があってもヘラヘラ笑ってうちの息子は犯人じゃないと言っている親を許せるか、と。
宮和探偵はそれに嫌悪感を向けるだけであったけれども。知影探偵はその違和感から家を探って、見つけたとのことだろう。
宮和探偵は騒めきの中、威圧的に反論した。知影探偵を睨みながら、だ。
「何でよ……何で……そんなものが今になって出てくるって訳!? 当時、警察は家宅捜査もしたでしょうに!?」
その言葉に連鎖して人々の声が法廷内に
「捏造かな?」だとか「警察も忙しかったからな」だとか疑いや各々の推理が語られる。
経緯が知影探偵の口から放たれた。
「お母さんの話によると、このノートが入った本を高校時代の友人に無理矢理貸していたらしいのです。まぁ、その友人さんにも確認を取りましたが。宮和順二さんの死後、そこに気付いてお渡しして。その頃には事件のこともすっかり世間が忘れ去られていたって形ですね。だから調べられなかったらしいですね。警察も流石に一見事故にしか思えない事件を同級生全員に事情聴取をするって訳じゃありませんから」
「でもでも……何でそんな真似をする必要があるの! そんな理由なんてない! きっと捏造よ!」
捏造を疑われたためか、
「いいえ。この手記の中には結局『爺さんが死んで、受験も失敗して何もかも嫌になった。だから道連れにしようとしてやった』って」
「聞きたくない! 聞きたくない!」
彼女は耳を塞ぐも、きっと空を伝って聞こえていると思われる。
「この遺書に書かれているものを見ると、無差別殺人になるってこと」
「だから、何!? そんな訳が……! あの優しい兄貴がそんなことする訳……」
「この遺書を友人に渡した理由ですが、たぶん本当の理由を残したかったんだと思います。しかし、家宅捜査の時に無差別殺人ってことが公表されたら、どうなると思います?」
「そりゃあ、バッシングを……」
「そう。それは本人だけじゃなく、無差別殺人者の血が入っている親とかって言われて、世間から親族までもがバッシングされます。もしかしたら、貴方すらも世間に叩かれていたかもしれません……」
「あ、あたしも……?」
「貴方を守るために。この事件を交通事故に見せかけたんですよ……そもそも、事件を起こさなければってことではありますが……。きっと宮和弁護士の言う通り、きっと……彼にも最期の良心というものが残っていたんでしょうね……」
宮和探偵はそのまま壁にもたれかかっていく。
「そ、そんな話ってないよ……兄貴が結局犯人ってこと? この裁判でそれが分かったってこと……いや、逆に晒しちゃったってこと……兄貴の醜態を……」
「ごめんね。遺書が偽造されたものだとかも考えて話さないようにはしてたけど……今回の裁判を聞いているうちに……やっぱ本物だったんだって分かってさ……」
遺書が偽造だったか、どうかか。最後にそちらがどうかを知るべきだと思った。そうでないと有罪判決は下せない。
だから聞いていく。
「知影探偵、ちなみにどういうところで本物だと……?」
「ああ……まぁ、モニターに映る中身を見ていただければ、なんですけど……ほらっ……子供が近くで犬の散歩がしているように見えたってところもあって……この子を狙おうとしていたけれども……そのまま突っ込んだら川の中に車が入って行きそうだから……って書かれている」
「なるほど……それがさっきの話で証明されてたって訳か……」
「ちなみにもう二人の存在も実は書かれているみたい。何人かいて、車以外の何かで襲おうとしたけど、気分的にやめたって……」
「そうですか……で一番力のない飛び出てきた子を轢いたと?」
「ええ。アクセル全開で走って飛ばしたそうよ。そのままスピードのまま家まで逃げ帰って……書いてあるわ」
宮和探偵の方はその話を聞いて、もう動かない。犯人らしい相手である波佐見達を追い詰めようとしても意味がなかったと理解したのだろう。
抵抗はせず、動かない。
決まったことだ。完全に検事の勝ちだ。
「宮和順二は有罪だったことが明らかになりました」
ここにいるのは皆事件には無関係の人達だ。だから歓声が沸く訳でもない。静かに学級裁判の幕は下りていく。
結局、無罪を突き詰めようとして有罪に至ってしまった。
宮和探偵は忙しく動く中で一人、トイレの中に入って出てこなかった。知ってしまった真実の重さに潰されているのだろうか。
信じていたものに裏切られたショックは何よりも重いものだ。しかし、それで躍起になってもいけない。
そう思いながら片付けを終わらせ、皆と別れの挨拶を済ませておく。見てくれた人達、協力してくれた人達に感謝だ。
皆がいなくなったところでやっとトイレからバタリと出てくる宮和探偵。
「やぁ……」
僕は最初に声を掛ける。
一緒に残っていたのは知影探偵だけ。どうやら強く言ってしまったことを一人で謝りたかったらしい。
「さっきはごめんね……折角、裁判って場所で開いて……」
少しは宮和探偵も落ち着いたらしく。
「いいです。それが真実……なんですから……! それがっ……!」
顔に浮かぶ涙がこぼれ落ちそうになる。額を伝って、そのまま顎から落ちる……その前に僕が言う。
「いや、真実じゃないでしょ。僕達は単にあの遺書に操られてるだけだろ」
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