Ep.8 証拠の宝さがし

「氷河くん、何かボォーっとしてるけど、どうしたの?」

「いえ……ちょっと寺に確かめたいことがありまして。知影探偵は来ますか?」

「行くに決まってるでしょ!」


 一旦、知影探偵と共に寺の方に戻って再調査。陽子刑事にバレないように、こっそり忘れ物を取りに来たかのように。

 そこにちょうど、お坊さんがいた。聞きたいことがあったため、少しだけ時間を取らせてもらう。


「あの……ちょっとお話があるんですが……」

「何だい? 事件のことなら刑事さんに口止めされてるから話せないよ」


 彼はニコニコしながら、そう答える。まぁ、刑事が外に捜査情報を漏らさないようにしているのは想定済みだ。


「別にそんなことはどうでもいいんです。さっき、寺の近くを近寄った時、コロッケの臭いがしたんですが……お坊さんが手作りしたんですか?」


 手作りしたものではなく、島鉄ストアのものであることを知っている。調べたかったのは、どういう形で保存されていたか、だ。それによって、僕の推理が正しいかどうかが判明する。


「ああ、匂ってたんだね。それは申し訳ない。と言うか、それはあの三人にぶつかった時に嗅いだんじゃないかな。実は買ってきたけど、食べられなくて。余ったコロッケがあってね。買った分を自分の分だけ取って、パックのまま渡しちゃったから……」

「なるほど、です。モヤモヤしていたものが解消されました」

「と言う割には、顔色があんまり良くないけどね」


 それは、そうだ。僕はまだ事件の知るべき真相を手に入れていない。このまま、犯人に挑んだら、証拠不十分で逆に僕が名誉棄損で訴えられてしまう。

 知影探偵がこちらに来て、もう一回僕の様子を指摘した。


「どうしたの……?」


 一回、お坊さんから離れて相談をしてみた。


「いや、犯人が分かったんですけど、証拠がないんです」

「えっ……えっ?」


 彼女は大きい声を出して驚こうとしていたところを自身で止めていた。陽子刑事に見つからないよう努力した結果だと言うことは認めておこう。


「ううん……証拠、証拠……」

「ワタシに犯人話してみなさいよ」

「いや、知影探偵。聞いた瞬間、SNSで流しませんか?」

「……危ない! 犯人って書かなきゃいけないところに自分の名前を書いて相談しようとしちゃった! これじゃワタシが殺したみたいじゃない!」

「自分の考えが当たってい過ぎて怖いですよ。事件のことは外に流さないでくださいっ!」

「ごめんごめん! でもまぁ、状況だけだし。安心できるフォロワーさん達だし」


 SNS探偵は言い訳するも単に目立ちたいだけではないのかとツッコミを入れたかった。しかし、そんな漫才をやっている暇はない。

 無言で考えていても、なかなか良い発想は出なかった。ただただ会話が聞こえてくるばかり。


「そういや、空き巣が入ったって話知ってる?」


 墓地を囲う塀の向こうから流れてくる。おっとりとした言葉の主は葉加瀬さんだろう。そこに檜鼻さんの声で応答する。


「ああ……何が目的だったんだろうな……そういや、盗まれるものって言ったら、プレミアのカードがあったよな。あれ、結局何処行ったんだっけ?」


 赤羽さんが最後に喋る。


「あれは……あそこでしょ。泥棒は取っていかないわよ」

「そうだ。忘れてた……」


 ここで思い切り証拠についての話がされれば、良かった。例え僕が推理しなくとも、「あっ、こいつが犯人じゃん!」って言葉が出るだけでも良かった。

 ふと僕の懐にあるスマートフォンが揺れた。

 何かと思ったら、Vtuberになった幼馴染からの連絡だ。彼女が何故か、何処からか事件の手掛かりを調べてきて捜査の答えをくれる。不思議な話だ。辺りにいるかも、と思うのだが、探してみてもその幼馴染、美伊子らしき影は何処にもいない。画面の中で美伊子が喋っているだけなのである。

 いきなり配信をするのか、と思っていたら、ただ宣伝動画が流れただけである。


『次にやるのは「ピラミッドの秘宝を探せ! ファラオ王の伝説」って言うゲームだよ! みんな、楽しみにしていてねっ!』


 こういう何気ない行動が事件のキーワードになっていることが多い。今回は「ゲーム」。彼女には悪いが、全く真相に辿り着けそうにない。

 ピラミッドが、ファラオが何だと……。

 僕は考えるよりも先に動いた。知影探偵が夜の闇に紛れた恐ろしい墓場の中に入っていくのを「あっ、そっちは」と止めるも、僕は走るのをやめない。

 事件現場の近くによって、容疑者三人を確かめた。予想通りのものを発見。近くでは怒鳴っている陽子刑事がいるが、胸の高鳴りの方が大きすぎて何も聞こえやしない。


「おい! 何しに来た!」


 怒ってエネルギーを使っている陽子刑事には申し訳ないが、これだけしか僕の耳に彼女の声は入っていない。推理を組み立てることに集中している僕。墓場から出てきて、待っていたのは春日井だった。

 彼は恐ろしい形相で僕を睨みつけてきた。


「おい……何をふざけている……さっきからコロッケだの、スフィンクスだの……何をふざけているっ!? ここで人が死んでんだぞ……」


 それは重々承知。ただ彼にそれを伝えても伝わるだろうか。今にも「ふざけるんじゃねえよっ!」と怒鳴られ、殴られそうな圧を掛けられている。こいつが墓場を守るステージのボス敵だと言われても、信じ込んでしまいそうな威圧感を覚えている。

 どう答えるべきか。

 今は違うことを思考して、推理を忘れたくはないと言うのに。そう残念がっていると、知影探偵が興奮して言葉を吐き出した。


「竜くん! 大丈夫。この子は全然ふざけてなんかない。事件のことを誰よりも案じてる。犯人のことも、被害者のことも……そりゃあ、静まった場を和ませるために少しは笑い話をするよ。例え自分の心が参っていたとしても、ね。他の人を心配する子だから」


 知影探偵の真摯な発言に春日井は一回下を向く。そこでふっと溜息のような、呆れ笑いのような音を出すと、僕の横を歩いていった。


「仕方ない……ちゃんと自白するか……警察のところに行ってくる」


 彼を説得したはずの知影探偵。打って変わって、冷静を欠いていた。僕の肩を掴んで、先程のかっこよさは何処へやら。


「えっ……竜くんが犯人だったってこと!? えっ!? どういうことっ!? ねぇ、氷河くん! 彼が犯人だってことなの!? 嘘……よね!?」

「今の彼の発言は嘘じゃないでしょうね」



 


 

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