Ep.5 無意味なアリバイ調査?

 赤葉刑事が聞き込みに走っている間に僕は犯行をできる人間の条件を絞ろうと考えた。


「ええと、つまるところ、生きてるのが分かったのは……」


 知影探偵が春日井から聞いたらしき、時間を教えてくれた。


「ええと、今から一時間前って。そこで一回参ってるのを見て。で、お坊さんがその後、数分後に見て。その後の見回りで死体を発見だって」


 そこでもう一度、状況を思い返してみる。あの三人が居酒屋に来たのは、今からだいたい一時間と数十分前ではなかったか。


「と言うことは、三人ともアリバイがあるじゃないですか」


 僕の発言に「あっ、そうか!」と気付く知影探偵。彼女は前よりも更に春日井の証言を不思議がった。


「えっ、どういうこと? 春日井くんが無実だってのを証明してるのに……それなのに、疑ってるの? ええと普通に考えて、あの三人が何時間前に居酒屋に入ったかなんて分からないよね?」

「まぁ、お坊さんに聞いたとしても行くって事実が分かってただけですし。空白の一時間半がありますから……時間は分かっていないでしょうね。いや、今のように分かってなかったとしたら、お坊さんとしては墓参りしてから、そのままずっと居酒屋にいたって認識になる。普通にアリバイがあるって考え方になりますね」

「どうだったんだろ? その辺りの認識も聞いておくべきだったね」

「はい。春日井って子が戻ってきたら、そのことも聞かないとですね……今のところ、彼もまた捜査をかく乱させようとしている容疑者って考えもできちゃいますから」


 そんな僕の冷たい意見に反論するかのように知影探偵が言葉を吐いた。


「あ、あんまり信じたくないけどね。それに行動がほとんどお坊さんと一緒だし。本当に彼の生きてるって証言が違っているってことはないと思うわ。まぁ、一番疑うべきはさっきの『四人の中に犯人がいる』って証言の方かもね。もしかしたら、氷河くんをからかっただけかも」

「ですね。その視野も入れて考えてみます」

「そういう子じゃないと思いたいんだけどね……」


 話の中でまた疑問が芽生えた。二人の関係性についてだ。


「今、話してたお坊さんと春日井なんですが……二人に何か関係性があったんでしょうか?」

「ん? どうしたの? 別に何も……」

「いえ。あれ、って思ったんです。お坊さんと春日井の行動が一緒ってことって聞いて。ええと一時間前でしょう? それだったら、お墓参りに来て。そのまま帰っちゃうじゃないですか。その数分後。もし、お坊さんが彼とすれ違っていたとして。その時はまだ彼女も死んではいないんだから、警察に連絡するためにって互いに連絡できる状態にする訳ないじゃないですか」

「そ、そうよね……?」

「何で証人として、順調にここに呼ばれたんでしょうか」


 春日井への疑惑が深まる中、知影探偵は何度も首を捻っていた。どうやら彼女は彼女で春日井を犯人でないと思いたいらしい。偶然の可能性を挙げている。


「たまたま同じ集まりに入っていたとか。春日井くんがたまたま忘れ物を取りに戻ったところ、事件が起きていたとか」

「まぁ、あり得ますけどね……ちなみに連絡先とかは寺に登録されてたりは……」

「ないと思うわよ。連絡先を例え登録してあったとしても、それって身内の人達への連絡先でしょ? 墓にいるのは身内じゃないし。春日井くんの身内も違う墓地よ。お坊さんが幾らそういった帳簿を開いたとしても、彼の名も連絡先も出てこないわね」


 事件を知れば知る程、謎が解けていく。本当に全ての真実が明かされるのか、時々不安になってくることがある。この謎は全て解けないのでは、と。しかし、そんな恐れがあったとしても僕は動いてしまう。

 早速超スピードで戻ってきた赤葉刑事の方に向かい、僕は歩いていた。


「お早いお帰りで。で、どうでした?」


 彼女は警察手帳を出し、小さい声で説明をしてくれた。


「ええと、まず名前ね。髪が長くおっとりしてる人が、葉加瀬はかせさん。髪が短く、ちょっとクールっぽい人が檜鼻ひばなさん。で、女性が赤羽あかばねさん。三人の行動をまとめてきたよ」

「ありがとうございます」

「ええと、葉加瀬さんは一時間半前の行動だけど」


 今、知影探偵が教えてくれた情報からすると、あまりいらない情報だったかもしれない。最初はないと思って赤葉刑事に調査を頼んだのだけれど、後から三人にアリバイがあることが判明してしまったのだ。

 ボソッと「そこはやっぱいいですよ。あんまり事件に関係ないですから」と言ったのだが、赤葉刑事は気付いていない。いや、僕は声に出したかったものの、気付かせたくなかったのだ。彼女の努力が無駄になるのは悲しい。


「では、赤葉刑事お願いします」

「今、何か言った? まぁ、いいよね。葉加瀬さんはお墓参りが終わった後、赤羽さんと乙骨さんとしばらく話をしてから、一旦、歩いて家に戻って思い出の整理とか何かをやってたんだって。家族はいないそうで、ここでのアリバイはないって」

「なるほど。で、次に檜鼻さんは?」

「彼が今回、車を運転して法事に赤羽さんと被害者の乙骨さんを連れてきたって。で帰りに関しては、一人で運転。他の三人とは別に、ね。で、適当にドライブしてから居酒屋に来たんだって」

「なるほどです。では、赤羽さんは……今の話をまとめると、乙骨さんと葉加瀬さんと残ったみたいですが」

「赤羽さんは葉加瀬さんより先に外へ出て。近くの洋品店に買い物へ。売り切れちゃう小物があるからってことで、急いでたみたい。そこからは、ぼちぼち遠回りをして待ち合わせをした居酒屋へ向かったって」

「そういうことなんですね。三人共その時間のちゃんとしたアリバイはない……と……」


 そこのアリバイがどうこう言ったとしても、問題ではないのだよな。そう思ったところで赤葉刑事はもう一つ情報をくれた。


「氷河くん! 後、事件に関係するか分からないんだけど……」

「何ですか?」

「居酒屋で十七年前に亡くなった男の子の話したでしょ? ちらっと他の警官から聞いたんだけど、その男の子の家に空き巣が入ったって話をね。まぁ、本当、さっきその男の子の話があったから、一応伝えとかなきゃって思って」

「ありがとうございます……物騒ですね」


 もし、この事件が報復であったら。犯人はその空き巣に対しても殺意を向けるのであろうかと考えていた。

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