Ep.4 好奇心には抗えず
そこに知影探偵が面食らって、理由を聞いていた。
「よ、四人って何でそんなことが分かるのよ……!」
なんて聞いていたところで、春日井が警察に呼ばれて、その場を去った。残るは事件のことに対してのもやもやだった。僕も何だか気になっているし、知影探偵の方は首が元に戻らなくなるのではと思う位に傾けていた。
彼は一体……最初にあってほしくない話だけ聞いておく。
「まさか、彼、探偵じゃないでしょうね。知影探偵の探偵仲間的なそういうものじゃあ……」
「違うわよ。まぁ、確かに事件について関わって、こうやって知り合ったってのは確かなんだけど。これは今どうでもいいわね。別に……頭がずば抜けてっていう子でもなかったし……一体、何があったのかしら」
分からない。何故、四人に限定したのか。そもそも四人の容疑者がどういう人かも知らない。
困っているところでちょうど良く手伝わされていた赤葉刑事が戻ってきた。僕の姿を発見し、不思議がっていた。
「氷河くん……帰らなかったの?」
「ああ……いえ、さっきの少年が知影探偵の知り合いだったみたいで。話したくて、残ってたんです。そこで、まぁ、彼が変なことを言ったせいで気になってしまって仕方ないんです。犯人があの四人の中にいるって本当なんですか?」
「……えっ? 何、その情報」
刑事も先程の情報は初耳だったよう。警察の見解は春日井が説明した通り、強盗が乙骨さんを殺していったと考えているとのこと。
しかし、そのまま強盗の犯行だとしたら、違和感がある。僕は今、何を不思議に思っているのか。
すると、寺の方から話している声が聞こえてきた。声やちょっとなよなよした口調からすると、長髪の男のものだと考えられる。
「何で……。確か、ぼく達には忙しいから帰るって言ってたよね。何で残ってたんだろうね。一応、墓を参って……そうか! 彼女はやっぱ、自分一人で彼のことを参りたいってことでぼく達にはバレないように墓の方へ行ったんだね……でも非情だよ」
「はぁ?」
女性の声がする。このイントネーションから、彼の言っていることに疑問を持っていることが聞き取れる。
「だって、折角、彼女がその気になってと言うか……自分のやったことを後悔していて、一人でもう一回墓参りをしていたのに、そこで強盗に襲われ殺されちゃうなんて……運命は非情だよ!」
「……運命じゃなくて、そもそも彼女が非情だと思うの。今までそんなこと一言だって言ったことある? 死んだ人のことを悪くは言いたくないけど、絶対そんなことしないよ。一度ねじ曲がった性格は戻らない……」
「そんなことないよ。きっと、戻ったんだよ。でも、今までやってきたことを考えて申し訳なくなって言えなかっただけなんだよ。自分が正しいって言ってもみんな信じてくれないし。きっと、これは彼女の最期の良心だったんだよ」
「……そうね。そういうことにしておきましょう」
その会話の一連からピンと来た。そうだ。おかしいのはこのことだ。
彼女の性格からして、やはり二回目の墓参りはしないと思うのだ。それにもし、申し訳なかったとして。バケツに水を入れて墓の前に持っていくだろうか。一回は洗われた墓石だ。もし墓参りに戻ったとしても、墓の前で手を合わせるだけだと思うのだが。
不自然に用意されていた水の入ったバケツ。もし、強盗犯がいたとしても普通であれば、自前の凶器か殴り飛ばすかが普通だろう。そこから考えると、溺死と言うのも引っ掛かる。溺死には相当な時間が掛かるはずだ。包丁で刺すようにほんの数秒で殺害できようものなら、水泳選手は皆死んでいる。長い時間を掛けて殺した。たまたま墓参りする人が来なかっただろうから犯人にとっては好都合だったものの、本当なら見つかってもおかしくない。
それでもバケツの水を使っての殺害に及んだのは何故だろうか。
考えられるものに一つ。
この事件が復讐によるものであった場合だ。事件などで犯人が「うちの大事な人をアイツが事故と言って餓死させた。だから、密室に閉じ込めて同じ思いをアイツにさせてやったのよ」なんて言うことはよくある話だ。犯人が被害者に対して、こういう苦しみを与えてやると決めていたパターン。これならば、今回の件で何故水による殺害を選んだのかも説明はつく。
十七年前の水死事件。もしも、乙骨さんが事故を引き起こした原因だと犯人が恨んでいたら。今回の殺害方法を選んでも、不思議ではない。
そこまで思考を進めてから、もう一度疑問を持った。
僕は今ので三人に疑いが掛けられる状態は説明ができた。事故に関わってた人達だから、だ。ただ、何故春日井が四人の中に犯人がいると考えたのかは理解できていない。
そもそも四人目は誰なのか。もう一人容疑者と考えられそうなのは、お坊さんだ。第一発見者として怪しいと考えたのか。しかし、復讐という観点で考えたのならば四人というのはおかしい。いや、普通に怪しい三人と第一発見者をくっつけて、四人の中に犯人がいると考えたのか……?
いやいや、その前提がおかしい。春日井くんは溺死した事情など、知らないはずだ。まさか、事件が起きる前から三人のことを調査していた訳ではあるまいし。僕が十七年前の事故を知ったのも、知影探偵が凝り性もなく調べたからだ。
「で、氷河くん」
「あっ……何ですか?」
隣で僕が神妙な顔をしていることに気が付いたらしい赤葉刑事。彼女は僕の思考から何をすべきか問うてきた。
「陽子刑事にはバレないように、情報集めてくるから。どんな情報が欲しいのか、言って。取り敢えず、知影ちゃんに容疑者の基礎的な情報は伝えておいたし。聞いといてね。それ以外で、何か」
今、欲しい情報か。やはり、容疑者達が居酒屋に来るまで何をしていたかであろう。それがあれば、犯人も絞り込めるかもしれない。
「では、容疑者達。墓参りしてから居酒屋まで来るのに、ちょっと時間がありましたよね。正確には一時間半。墓参りの時間とここに来るまでの時間。寺から居酒屋までは五分足らずの距離ではありますから……そこを考えても来るのに時間が掛かってます。何か空白の時間があったんでしょう」
彼女に命令した後、我ながら最低だと悔やんでいた。警察を顎で使い、結局僕は探偵として動いている。それで傷付く人がいると言うのに……。
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