Ep.3 人見知りな少年と
身を翻そうとする前に知影探偵の顔を窺った。きっと彼女はここで捜査することにこだわるかもだから。
そう思うも、実際は違った。彼女は僕の判断に納得する。残念そうな顔はしていたものの、僕の気持ちを汲んでくれたのだ。
「仕方ないよね。でも、あそこまで言う必要あるかなぁ……」
僕は容疑者を引きつれ、居酒屋から出て行く陽子刑事の気持ちをフォローしておいた。
「僕がしつこすぎるのがいけないんです。いろんな事件で彼女の前に出て、刑事でもないのに偉そうなことをやってしまいましたから」
「でも、実際は事件をほとんど解いてるんでしょ? だったら、警察よりも活躍してるじゃない!」
「しかしですね。警察だけなら出なかった被害を僕は出してると思います……」
「そう言うなら……」
彼女も陽子刑事の考えを認め、この場を離れていく。少々帰り道に事件現場の近くを通ることになるが、気にしない。
寺の近くで赤葉刑事は「自分は事件の方を協力しないと」と非番の辛さを訴え、立ち止まった。それから僕と知影探偵に対し、暗い道に気を付けるよう告げた。
「ちゃんと人のいる場所を通るのよ。そして、電話はいつでも……と言うかしてた方が相手も近づけないから、電話構えてるのもいいかも」
防犯のアドバイスももらい、もう帰る気分であった。知影探偵もそこまでは僕のことを考えてくれていたに違いない。
アイツが現れるまでは、ね。
彼女は寺の前にいた、体格の大きな少年を目にして固まっていた。僕が「早く帰りましょうよ」と言っても、微動だにしない。
「知影探偵……?」
「あっ、ごめん……! ちょっと待ってて!」
彼女はすぐさま、その少年の方に飛びついた。少年の方は一息のような一言。
「あっ……」
「
誰だろう。この体格からして大学の同級生か誰かだろうかと首を傾げている。ただ、そのまま知影探偵が一方的に話をしまくって、謎は解けないまま。
近くに寄って話を聞いてみるしかなさそうだ。彼女の話が一旦止まったところを狙って、声を掛ける。
「あの……その人は……」
すると、ひゅいと彼が知影探偵の後ろに隠れてしまった。ショックと言う程ではないが、何だか気になった。この見た目、なかなか人からは「話し掛けやすい位可愛い」とか言われている。いや、可愛いことに自信は持っていないのだが。話しやすいと言う顔なのには少々自信があった。それがあったからこそ、事件の関係者から普通に話を聞けていた訳だし。
変な感じがするなぁ、と思っていると知影探偵が彼を擁護していた。
「ご、ごめんね! 氷河くん。彼、君と同じ高校一年生なんだけど。すっごい人見知りなんだ。あんまり親しくない人とは話をしないってだけで、別に氷河くんが嫌いってことじゃないからね! 仲良くなれば、普通に話せるし」
今のところ、知影探偵しか喋っていない気もするが。そこはツッコまないとこにして、話を進めていく。
「そうだったんですね……って、あれ? そうなると、どうして知影探偵とこの子が繋がるんですか? 近所の人とか?」
「違うのよ……それはね……」
と言おうとすると、彼がようやく口を大きく開けた。
「言わなくていい」
それだけ言うと何処か明後日の方向を見て、黙り込んでしまった。何か彼の強い意思を感じる。まぁ、例えペンフレンドだろうと恋人だろうとどうでも良い。そのことは気にしないことにした。
知影探偵は手を合わせて、彼の態度について謝ってきた。
「ごめんね!
「分かりましたよ。まぁ、久しぶりの再会みたいですね」
「だからごめんね。話もしたいし、ちょっと待ってて!」
夜道に一人彼女だけ帰らせるのも問題だ。彼女の気の済むまで待っていようと思う。ただ、その中で聞こえてしまう事件の情報があった。
お坊さんが透き通る声で刑事に事情を話しているがために、事の発端が嫌でも耳に入ってくる。
「驚きましたよ。墓の方を見回りに行ったところ、倒れていた彼女を発見して。大丈夫かと聞いても返事はない。先程まで墓参りをしていた彼女は息をしていなかったんですから。そうですね。もう来た時には亡くなってました」
その対応をしていた男性警官の声も大きくて、情報が駄々洩れになっていた。僕にとっては本当に迷惑なことである。
「死亡推定時刻はまだ出てないんですがね。手掛かりになるのが、貴方と先程の少年の証言ですね」
ふと気になってしまった。何をお坊さんと春日井が喋っていたのか。またも自分の嫌いな探偵特有の好奇心が発動してしまう。
頭を抱えている最中、知影探偵がこちらをちょこっと見てから、彼に事件のことを尋ねていた。
「ねぇ! 事件現場で何を見たのか、教えてよ。時間が分かるっての、どういうこと? 生きてるのを見たってこと?」
彼がボソリと言うのを、知影探偵がまぁまぁなボリュームで復唱する。
「なるほどね。やっぱ、あの人の墓参りを……そこで君がその女性が墓参りしてるところを見たんだね。お坊さんもすぐ数分後に入ってきて、それを見届けたと……」
ニヤリと笑ったところを見ると、どうやら僕の手助けをしてくれたらしい。ふふんと笑っている。何だか上から目線なのが、癪に障るけれど……。
彼女はその後も彼から情報を聞き出していた。
「で、バケツによる溺死……で、スマホや金品が盗まれていたことから、警察の見解としては、被害者が墓の中で強盗に遭遇、そしてパニックになった強盗に殺害された……と」
他にもこんな話をしていた。
「で、警察は本当に被害者が財布や金品を持っていたのか、確認するために……あの一緒にいた三人を呼んだ……えっ、呼ばせたが正しいって……そんなのどっちでもいいわよ!」
度々、見せてくるニヤリとかははーんとかの表情は正直いらない。まあ、感謝はさせていただこう。
本当に強盗の仕業であれば、僕がこれ以上犯人を探せるはずもない。事件から手を引かなくては。今なら事件から逃げて現実に戻ることが可能だ。
そう考えていた。だが、春日井がポツリと呟く。僕が自身の好奇心から逃げようとしているところを妨害した。
「おれは……警察の見解とは違う……あの乙骨とやらを殺害した犯人は……あの四人の中にいる」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます