Ep.20 偽りの先に

 白百合探偵は黙り込む。この間に僕が考えた事件の詳細について語っていこう。


「目撃証言があったが、アンタが女子トイレに入るのもそれなら納得だ。第一の事件について戻るが、女子トイレに入るのは普通のことであるアンタは男子トイレにいた別府教授と話をしていた相手だろう。それで別府教授がいる時間を知って。部長が来る前に殺害した」


 そこで白百合探偵はやっと口を開く。


「……本当にそう思うんですね。有馬さんや箱根さんから違うという話は聞きませんでしたか?」


 そう返されても、今は対処法が分かっている。

 自分の推理を信じているから、迷わない。


「有馬さんは共犯者、そして箱根さんの性格からして、有馬さんの意見に頷かなければいけないと思ったんだろうな。まぁ、他の人にも自分がそんな性質だと外にバレると……とか言って口封じをしたみたいだが。梅井さんやそこで聞き込みをしていた人は知らなかったところを見ると、大学生全員に聞き込みをすれば、アンタの行動を見ている人がもっと多くいるだろうな……。アンタの性質を知る人も、な」

「……ふぅん。わたしの秘密をそうやってバラすんだ」


 今度は白百合探偵が得意げになって、指を前に突き出した。

 そして、僕が恐れていたことを刑事に主張する。


「じゃあ、君の秘密もバラシてあげますよ。この指の怪我……誰のせいでこうなったか? 君はよぉく分かってるよね?」


 梅井さんはこちらの顔を見る。「もしかして……あのことを」と顔面蒼白で僕より恐れてくれた。叫んでもいる。


「そんなの言いたいなら、言いなさいよ! そんなの誰も信じないから。例え、それで氷河くんを捕まえたとしても、うちが追い詰める」


 そんな彼女の肩を持って、「大丈夫」とだけ言った。「えっ、でも……」と困惑する彼女に向かって、僕は言ってやる。


「大丈夫ですよ。本当に。白百合探偵が階段から僕の声で落とされ、今の今まで言えなかったって事実は……嘘ですから!」


 次の瞬間、白百合探偵は唇を吊り上げ、笑った。腹を抱えて下品にこちらを嘲笑う。美しい顔が台無しだ。


「あはは……! 自分から言いますか! 自分から言って罪を逃れようとしているみたいですが。君の犯行は大勢の人が聞いているんですよ。それとも、それが全部嘘だと……?」

「いや、嘘じゃない。アンタが作り出した偽りだ」

「はぁ? 偽りって、この怪我は……!」


 その怪我について、説明してみせよう。

 これで連続殺人にけりをつける。


「階段で突き指をした。でも、それは本当にアンタが階段を落ちた時にしたものか? 突き指と言うことは、落ちた時に床に手を出さないといけない。あの時、自分から地面を蹴って転がり落ちた。つまるところ、回るだけ。高いところから飛んで指から着地したか、壁に激突したなら分かるが。アンタが勢いをつけて、指と床を付けるタイミングは存在しないんだ! アンタはきっと、この突き指で僕を脅そうとした。そして、第二の事件で自分の犯行ではできないというトリックを作ろうとした……でも、その一番の目的は違う! アンタは別府教授の首を絞める際に抵抗され、勢いよく指に平手打ちか何かを喰らったんじゃないか!?」

「そ、そんなの……そういうことだってある。当たり所が悪かったんだから……!」

「そう主張するなら、その怪我を今すぐ解析させてくれ! 本当に床にぶつかってできる怪我なのか、それとも誰かの手が当たって突き指したものなのか! 分かるはずだっ!」

「う……」

「白百合、そして有馬。もう諦めて自分達の犯行を認めてくれ! そして、僕達の大切な人の名誉をこれ以上、汚さないでくれ!」


 糾弾した、その先に真顔な彼がいた。

 知影探偵も赤葉刑事も、梅井さんもまだ来るかもと緊張している。僕は終わらせたつもりではあるが、まだ言い訳が来るのか。

 そう思った途端、白百合探偵は泣いている有馬の肩を支えて謝罪の言葉を入れていた。


「すみません。貴方の依頼を最後までやり遂げることができませんでした……これは、わたしの負けです。そうです。わたしが別府教授を殺害し、有馬さんが草津くんを殺害しました。だいたい、その通りですが……一つ、不思議なことがあります」


 僕はただ黙って聞いていた。彼にとって予測不可能なことが起こったとのこと。


「氷河くんと達也くんの話を聞いていると、どうやら猫を殺したという話になってましたが……」


 そこで知影探偵が出てくる。


「何? 間違ってる? 達也くんが赤葉刑事に相談するところにわざわざ有馬さんをつかせて。達也くんが飼い主に気を遣って真実を言えなくなるように仕向けたのが間違ってるってこと?」


 彼はその話に関して、「それは合ってます」とのこと。続けて、違っている点を口にした。


「……実は猫に飲ませたのは睡眠薬だったんだ。本当は、そこを達也くんが通った際に起こしちゃって、段ボール下にあったリードが取れて。それで逃した責任で言えないようにしたんだけど……」


 そこで何か部長が口を開こうとするも、涙を拭いた有馬さんが先を越した。


「睡眠薬の量が多すぎたんだ……配分を間違えて……そんな……」

「まぁ、ということです。そこまで大きな間違いじゃないので、気にしなくてもいいです」


 話が終わったところで、梅井さんが動機について尋ねていく。


「……気になるんだけど。どうして、達也を罠に掛けたりしたの?」


 白百合探偵はふと僕を指差した。いきなりだったものだから、「な、何だ」と叫んでしまった。


「この辺りでは有名な探偵の大切な人、だったからです。今更こう言っても、あれなんですが……実はこの事件は別に解かれても問題はなかったんです。いや、本当は解いてもらいたかった……何、負け惜しみをって思うかもしれませんが、本当なんですよ」


 彼から、泣き止んだ有馬から、信念を感じた。今、真実を暴こうとしていた僕のものよりも、もっともっと大きなものが。

 彼等を殺人へと駆り立てた考え方が。

 僕は唾を飲んでから聞いた。


「何が目的だったんだ?」

「氷河くんが関わった最近の事件ではほとんどないケースみたいですね。自分は、二人を殺すことよりも、もっと大切なことがあったんです」

「大事なケース……。もしかして、それって……アンタ自身のことに関係してるのか?」

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