Ep.19 言葉にできない、したくない

 彼女は共犯である白百合探偵が勝手に自分を巻き込んだと主張している。白百合探偵は驚きを顔に出していないみたいだが。内心、酷く落ち込んでいることだろう。

 そんな裏切り者に対して、僕が制裁する。


「関わっていないとは言わせない。この犯行を見抜こうとする際、アンタの姿が見えてきたんだ」

「はぁ? 何よ、証拠は……」

「証拠はアンタが赤葉刑事に渡したレシートだよ。猫の餌やり機のな」

「猫の餌やりが何に関係してるって言うのよ!?」


 僕はそう聞かれて、答えていく。部長が見たはずであろう光景を。


「アンタ達はきっと猫をあの二階で縛っていたんじゃないか? キャットフードと猫の爪の痕があった。きっとアンタ自身の猫か、それに似た猫かは分からないが」

「はっ!? はぁ……!? な、何、その勝手な推測!?」

「きっと、そこで猫を飼うために自動餌やり機を買ったんだ」

「何を言ってるの!? 餌やり機は普通に猫をおびき寄せるために……! よくペット探偵の調査の仕方を知らないの!?」

「じゃあ、何で自動に?」


 僕は大きな矛盾に関して言ってやった。すぐに彼女の顔が固まって、言い訳の精度が鈍っていく。


「そ、それは……」

「だって、あり得ないでしょ。幾らスマホで操作して出せる戻せるから便利と言ったって、意味がない。そこに猫を仕掛けるなら普通の餌やり機や皿でいい。何で自動を選んだか、それは既に猫の場所を知っていたから。倉庫の高いスペースに縛っていたから、じゃないか!?」

「そんなの適当な憶測でしょ!?」

「……ここまで人に言わせたいか。本当の真実を!」

「はぁ!?」


 憶測ではない。縛っていたという証拠はない。ただ、衝撃の真実を知っている人はいる。


「状況から考えるに、猫は死んでた。部長、繋がれたまま死んでたんじゃないんですか?」


 部長は項垂れる。一回僕に「こんなことを言わせて、ごめんな」と頭を下げてから、真実を話してくれた。


「ああ。いたよ。昨日、警備員の部屋の中で見せてもらった猫のポスターとおんなじ姿の猫が死んでて……それで今朝、調査の中で有馬先輩がいたから……彼女が知ったら、どんなに絶望するかって思って言えなかったんだ……! 後で氷河には言うつもりだったんだけどよ。その前に捕まっちまってな」

「やはり、そのために部長を監禁したんですね。これを喋られたら、部長の容疑が晴れてしまいますから」


 部長に確認を取っている最中、「そ、そんな! 何で!? えっ!? 何でぶちちゃんがっ!? 寝ているのを連れてっただけじゃないの!? その場所をさっきまで聞いてたんだから!」と泣き崩れていく。

 何を言っているのか分からない。ただ泣いて訳の分からないことを話していれば、追及はされないと思っているのか。そんなはず、ある訳がない。

 僕達は全力で白百合探偵と有馬の罪を立証してやる。


「この計画を立てたのは白百合探偵だよな。白百合探偵が部長を陥れるためにこの作戦を思い付いて、語った。で、有馬はそれを承知して従ったんだ。自動なのを買ってきたのは、きっと猫を殺すために入れた毒餌を他のものに食べられないようにするためと部長が来た時に毒餌を食べさせ、死んだばかりと思わせるため、だろう?」


 白百合探偵は拳を握って、こちらに反論した。


「とうとう、わたしを猫殺し扱いもしますか? まだ殺人の容疑は分かります。自分もまぁ、犯人と似たような行動をとったので疑われる理由もあるでしょう。しかし、ありもしない勝手な罪をわたしに擦り付けるのは、本当に如何なものですか……? このへぼ探偵がっ!」


 一瞬、何よりも恐ろしい覇気を感じ取った。まるで今の推理に嫌悪感を抱いているような顔。いや、普通に焦っている表情と見間違えただけだ。それか、彼が僕を動揺させるために、わざとそんな雰囲気を作り出したのだろう。

 僕はほんの少しだけ失くしそうになった自身を取り戻し、推理を語る。


「実際、猫は死んでたんだ。毒餌によって確かめられる。猫から毒の餌が出てきたら完全に立証されるだろうな。その中にアンタらの指紋が付いてるかもしれない」


 それと同時に知影探偵はSNSを見ながら、推理の補足を喋る。どうやら、フォロワーさんからの言葉のよう。


「動物を飼ってるフォロワーさんが教えてくれたわ。どうやら、一匹一匹ふやかし方も違う。毒餌を食べてたってことはそれは飼い主が適量を知って、餌を用意したから、じゃないかしら。間違いなく、有馬さんが事件に関わってることは間違いないわね」


 次に僕が白百合探偵もそこに関わっているだろう証拠を示唆させる。


「たぶん、白百合探偵……アンタは有馬が勝手にやったことだと言えるかもしれない。でも、違うんだ。アンタもあそこに猫がいることは知っていた証拠がある」

「な、何それ……」

「部長、さっきは言わないでくれてありがとうございます。僕達のことを考えて、喋らなかったんですよね。猫の死体を隠した場所」


 部長は駆け寄っていった刑事に縄をほどいてもらいながら、グーサインを出す。


「そうだぜ! お前らが手掛かりに使うものを犯人達に消させるかって思ってな。猫の死体は見つからないよう、大学の裏のちょっとした山に……ううん、法律的には分かんないが……まぁ、後で幾らでも処分してくれ」


 赤葉刑事は「まぁ、証拠になるみたいだし。そこんとこはきっと大丈夫よ」と適当なフォローをしていた。

 部長が教えてくれた猫のこと。

 そこから僕は、あることを証明できる。


「たぶん、白百合探偵。アンタは猫に引っ掛かれたんだ……」

「ううん? 体の何処に引っ掻き傷があるか、教えてくれませんか?」

「いいえ。引っ掻かれたのは肌じゃない。身に着けていたものだ。そして、それこそがアンタの本当の姿を証明するものである」

「はぁ?」

「この事件を色々悩ませていたものこそ、それだよ。何故アンタが第一の事件で教授が研究室にいる時間を知ることができたのかも、関わってくる」

「何なんですか? それ?」


 彼が警察や僕達には隠していた真実。


「真っ赤なマニキュアを引っ掻いたんだ。だから、その破片が床に落ちていた。それも、そのマニキュアはただのマニキュアじゃない。オーダーメイドの完全なものだ。白百合探偵、アンタしか持っていないもので……そして、アンタの心を証明する者でもある」

「心?」

「アンタは男の性別を持ちつつも、心は女ってことだ。それをアンタはこの犯行に利用したんだ! 違うか!?」

 

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