Ep.18 常闇の中で

「なぁ、本当のことを教えてくださいよ。それとも、何ですか? 教えられないとでも言うんですか?」


 闇の中から声が流れてくる。同じ肉声が現実で再生される。


「ねえ、その場所を教えないと……何をするか分かる? その尻の穴にうちの鍵穴をぶち込むよ?」

「そ、それはやめてくれぇえええええ!」


 そんな悲痛な叫び声と同時に僕、知影探偵、梅井さん、赤葉刑事、そして刑事の皆さんが小屋の中へと突入した。

 懐中電灯の光で、奥にいた白百合探偵と縄で手足を拘束された部長が照らされる。部長は縄をほどこうとして何度も何度も暴れつつ、こちらを見て「氷河!」と僕の名前を呼んでくれた。


「部長……! 良かったです!」


 やっと発見した彼の一応無事な様子にホッと一安心。している間にも白百合探偵は顔を引きらせながら、こちらの事情を尋ねてきた。


「な、何をしてるんですか? 皆さん」


 ふざけた反応に梅井さんは遠慮なく、言葉を叩き付ける。


「白百合くん達の犯行を明らかにしに来たのよ! 達也を今すぐ返しなさいっ! こんなところに誘拐監禁してたのねっ! こんな山奥に彼をっ! 絶対許さないからっ!」


 白百合探偵は「何だそんなことか」と至って平然な表情に戻って、言い訳をしてきた。


「あの、残念ですが、わたしは今ここで達也くんを発見したところなんです。今までの経験からして、犯罪者がこういう場所に逃げてるんじゃないかなぁって。怪しいなぁって思って、この辺りをうろついていたら。いきなり襲ってくるものだから、仕方なく一発殴って抑えて縄を……」


 知影探偵は眼光を輝かせ、ふざけきった言い訳を断ち切った。


「はぁ? 何を言ってんの? 今さっきの会話、ちゃあんと赤葉刑事、録音してるのよ。犯人を捕まえたんなら、通報が基本よね? それなのに、何で拷問なんかしようとしてたのかしら?」

「あっ、いや、それは……」

「さっきから達也くんは酷く暴れてるみたいだし、縄もかなりすり減ってると思うわ。それを確かめれば、今さっき捕まえたか。それとも今朝から捕まっていたのか……分かるわよ!」

「くっ……!?」


 知影探偵の推理に怖気づいている間に僕が出た。ここで、全てを終わらせるために推理を披露する。


「この誘拐は必要だったんだろ? みんなを部長が犯人だと思わせるために。アンタが自分が犯した殺人を誤魔化すために、な」

「氷河くん……殺人って、草津くんも別府教授も殺したのは……彼じゃあ」

「違います。貴方です。貴方が罠を作ったんですよ。まずは、貴方は元から知っていた別府教授が研究室にいる時間に、彼の部屋へ訪ねて、彼が油断している間にポットのコードで絞殺した。そこから、アンタは部長が来て、事件現場を見ているのに通報しないというトリックを作り出したんだ」


 わざわざ外に通話できない電話を置くことで、絶対通報できたはずの状況を作る。それによって、様々な人から部長を怪しい人として認定させたのだ。


「でもさ、氷河くん? ちゃんとわたしは後でその誤解をちゃんと刑事さん達に言いましたよ。通話できないのはSIMカードを入れ忘れてたからって」

「それが目的だったんでしょう?」

「はぁ?」

「第一の事件で必要なのは怪しく思わせることだけだったんです。被害者とトラブルがあった。被害者が研究室にいる時間を知っている。そして、通報しなかった……ただ、この疑いが強すぎてもアンタは困ったんだ。第二の殺人の際、怪しすぎて警察に拘留なんかしてしまったら、部長のアリバイは確実。部長に罪を擦り付けることができないからな」

「はぁ?」


 僕は第一の状況を説明し終え、第二の事件についての解説を始めていく。


「第二の事件では第一の事件が起こった日の夜、昨晩、梅井さんを装った手紙で部長を呼び出した。そこにはきっと『重いものが持てないから助けて。倉庫の二階部分に運ばなければいけないんだけど』とでも書いといたんだろう。ですよね。部長」


 確認してみると、彼は梅井さんとの会話を交えながら教えてくれた。僕の推理通り、だ。こちらの顔が意識せずとも緩んでしまう。


「ああ。そうだ。ああ、プラムンごめんな。違ったんだよな」

「うん。うちの手紙と他の手紙と間違えないでよ!」

「あまりにも筆跡が似てたから……ほんとっ! すまんっ! で、呼び出されたオレはリュックサックみたいなのを運んだんだ……警察の人達もほんと、すんません……ここからはあまりの状況に、言えねえんだ。いや、今も……言いたくないんだ。傷付く人がいるから」


 傷付く人がいて、彼は黙っている。やはり、そうだった。今朝、最初に部長が赤葉刑事と話した時もきっと同じく傷付く人が同席していたから、部長は真実を言えなかった。ダンベルを運んだことすら、言えなくなる程に困惑したのであろう。

 そんな中で白百合探偵が否定をした。


「いや、ダンベルを運んだ方法が分かったとして。振り下ろすことってできる? そもそもわたしと草津くんじゃあ、力も違うのに。この怪我した状況ですよ? 殴ろうとしても素手で反撃されてお終いだと思いません?」

「ええ」

「ええって……?」


 僕はその意見に賛成だ。今の発言だけは全く間違っていない。

 だからこそ、もう一人の犯人が示唆される。その正体こそ、部長が真実を話せない理由でもある。


「倉庫の中で白百合探偵もいた。たぶん、白百合探偵が何かで呼んだ草津さんを待ち構えて。草津さんの前で話をする役割だったんだと思う。それでその気を引いているうちに、ひっそり現れたんだ。現れて、リュックサックの中からダンベルを取った。それで勢いよく草津さんの頭をぶん殴った!」


 赤葉刑事の持った懐中電灯が白百合探偵から横へと逸れていく。

 僕は動く光の先を見つめながら、言葉を紡いでいった。


「女の力だったから。一発では殺せないと思い、三発殴ったんだ……この推理で、間違っていないよな? 有馬! アンタがもう一人の殺人犯だっ!」


 光の先に現れた共犯者の姿が僕達の視界に映り込む。手で顔を隠そうとする有馬。彼女はすぐさま犯行の関与を否定した。


「ちょっと……あたしは単に白百合に誘われてここに来ただけっ! 勝手に連れてこられて、何が起きてるか理解できなかったの! 白百合が勝手にやった誘拐や監禁にあたしを巻き込まないでくれるっ!? 証拠もないのに!」 

 


 

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