Ep.17 もうすぐ最後?
赤葉刑事からの電話を取る。そこで聞いたのは、倉庫の中に落ちていたものの正体だった。
『知影ちゃんから受け取ったものを解析してもらったんだけど、一つ目は知影ちゃんも元々正体に気付いていたみたい。教えてもらって、そのことを参考に調べてみたら……すぐ出てきたの』
「えっ? 何だったんです?」
『猫の餌、よ』
「うん!? 猫の餌、ですよね? 何でそんなものが倉庫の中に!?」
『あり得ないと思うよね? でも、知影ちゃんは壁に付いた傷からも猫がいた可能性が高い。そこから、連想できる、落ちていたものの正体と言ったら、キャットフードなんじゃないかって』
「キャットフード……ありがとうございます」
落ちていた正体不明の玉の謎が一つ解けたところでまた謎が一つ。一体、何のためにキャットフードが落とされていたのか。何故、事件現場に猫がいたのか。
ただ、ここまで意味不明な状態が続くのも何か僕に見えていないものがある証拠。その中に部長を助けられるものが絶対に存在している。
そう信じて、もう一つの証拠についてた確認した。
「あっ、そう言えば、真っ赤な液体の正体についてはどうですか? 血じゃなかったんですよね」
『そうそう。あれは血じゃないって。成分の解析にはまだ時間が掛かるみたいだけど、何か話によると発火性のある樹脂とか何かだって』
聞いていて、フラッシュバックしたのが美伊子との掛け合いだった。以前、彼女から教えてもらったことがある。赤い液体の正体は、それだ。
となると犯人として考えられるのは……あの人か。そう思うも違和感に襲われる。
「いや……でも、もし、そうだとしたら、とっくに警察が聞き込みで分かってるはずなんだけどなぁ。警察はちゃんと大学生とかに聞き込みしたんですよね」
『そうだけど……』
「特に変わった人の話については聞いてませんよね?」
『うん。事故って怪我した白百合くん以外は、ね』
「なるほどです。では、引き続き調査をお願いします」
『分かった……でも、君、かなり事件の核心に触れてない?』
「今回の赤葉刑事の勘ははずれですよ。全く以て、部長を助ける術が分かってません」
『そっか』
彼女は残念そうに呟いていた。スマートフォンを片手に思考する。
猫がいた。
部長はそれを見た。
もしも、その事実を言えない理由としたら、何だろう。猫が……。いや、待て。この事件に深くかかわっているとしたら……。部長が僕の信じている通りの人なら……。
僕は咄嗟に赤葉刑事へ質問を投げかけた。
「あの! 部長がいた時、あの人も一緒にいませんでした?」
『あの人?』
僕はその名を告げる。
今の今まで何故気が付かなかったのだろう。大きなヒントが何度も目の前にあったのに。
『あっ、うん! いたよ! それがどうかしたの!?』
「ありがとうございます……もう一つ。探偵じゃない身として頼みにくいんですが、僕のお願いを後で聞いてくれますか?」
『分かったよ! やっぱ、大事なことに気付いてたんだね!』
「い、いえ。別に。今、パッと思い浮かんだだけで……では」
僕は謙遜しながら電話を切った。
胸騒ぎを抑えながら、夜の闇へと歩いていく。この推理が正しいとしたら、最悪の事態が起こるかもしれない。
そんなことになる前に梅井さんにも、あることをお願いした。
彼女への連絡が終わった頃に、別の人物からお知らせが来た。
「あっ……美伊子!」
いなくなってしまった彼女。何故かVtuberにされてしまった彼女。彼女が個人で僕に話したいとのメッセージだった。
僕も同じ気持ちで、専用のアプリを立ち上げた。
「美伊子……!」
『忙しいところかもしれなかった? プライベートチャットをごめんね?』
「そんなことないけど。どうしたの?」
『伝えたいことがあるんだよ! 急ぎでね』
「急ぎって何?」
こちらもある意味急いでいるという状態かもしれない。何故か彼女は事件のヒントを握っている。彼女が今、そのことを僕に伝えてくれるのではないかと期待して、心臓を高鳴らせていた。
『……もう少しでお別れ……かもしれない』
お別れ。
一瞬、頭の中がショートした。思考回路が一度、切れたのだ。
意味が理解できず、意味もなく笑って答えていた。
「お別れ……って、何だよ。はは……? はぁ……? えっ?」
『これで最後かもって、話が出たんだ』
「話って何だよ。美伊子の裏に誰がいるんだよ! いきなりすぎるだろ!」
『覚えておいて。人生の中で伏線があるなんて、事件のこと位なんだよ。探偵として伏線をたくさん掴まないといけない君は受け入れにくいかもだけど。だって車の事故だって、災害だって突然起きるんだよ。受け入れるしかないんだよ』
「えっ?」
『ねっ、受け入れよ……きっと全てを、世の中の本質を受け入れることで、君は新しい真実を手に入れることができる!』
彼女との通話がぷちっと切れた。
ただ、受け入れるという言葉だけが印象に残った僕は、その場で突っ立っていることしかできなかったのだが。時間が経つごとに、今のがヒントであったことを知っていく。
受け入れる。
本質を受け入れる。
この気持ちを彼女は伝えてくれたのだ。
「……そうか、そうだったんだ。なら、今ならアイツの気持ちが分かる。動機もたぶん……あれだ」
僕は、とある場所に一本の連絡を入れる。
「あの……すみません。気になることがあって電話をしたのですが。あっ、はい。その人の知り合いで、今手が離せないから聞いてほしいとのことなんですが……はい」
相手からの言葉は思い通りのものだった。
「ありがとうございます。そういうことだったのですね」
後は第一の事件の証拠だけだ。
それさえあれば、この事件の幕を閉じられる。部長を助けることができる。僕はすっと指を顎に当てた。こつん、と付いたところで不意に新たな可能性が浮かんできた。
「この状況なら、今の証拠で行けるはず……! 待って行ってください。部長。僕の言葉で全て終わらせます。全て……全てを終わらせて、貴方を必ず助け出してみせます!」
誰かを信じ抜く。
僕はこの事件の中で信じることの覚悟を学ぶことができた。今、それを存分に発揮してみせる時だ。
とても大事な人。目の前からいなくなったら、酷く悲しくなってしまう人の命を守るためにも、ね。
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