Ep.16 アイツを探して三千里
今は立ち止まっている時ではないと足を踏み出した。
同時に有馬さん達が追ってきた。まだ見張りを続けているらしい。彼女達に見られていては大学内の捜査もできない。今は外でできることを優先しようと大学の敷地内から出ることにした。
それ以上は追う必要もないらしく、敷地内と外ギリギリの場所で立ち止まっている。
今後、彼女達が何をするか。もし事件に関わっているとしたら、ふとした瞬間に尻尾を出すかもしれない。そう考え、逆に梅井さんに見張ってもらうよう頼むことにした。
「梅井さん……彼女達を見張ってほしいんです」
「うん。やっぱ彼女達も怪しいよね」
「ただ、一人だと危険かもです。もし、相手が二人で来たとしたら……誰か頼れる人はいませんか?」
「だったら……荒山くんに頼んでみるよ。彼なら暇してそうだし」
ここで彼女の音楽仲間である彼の名が現れた。結構、ぶっきらぼうで失礼な面がある彼であるが、受けた仕事を必ずやり遂げる人らしい。責任感はあるとのこと。
「では、お願いします。僕は部長のことについて確かめてみます」
「無事が分かったら、早く教えてよ!」
「分かりました。見つけたら、一番先に伝えますから」
荒山さんが来るまで僕は部長を電話で探す。まず、出ない。友人宅のところへ逃げていることも考慮して、知り合いに電話で連絡を取るも、誰も知らないとのこと。
とっくに警察も同じ調査をしているだろう。無駄だとは分かっていた。だが、自分なら少しでも手掛かりがあると期待してしまっていたから、この徒労は少しショックだった。
思い上がりだったと反省していると、荒山さんが到着していた。こちらを「何で呼び出したんだ」とでも言うかのような微妙な顔付きの彼に頭を下げる。それから立ち去った。
目的は部長の家。石井家ならば、手掛かりがあるかと思った。もし何かに巻き込まれているのであれば、彼は家の誰かにメッセージを残していたかもしれない。
そう思い、早速向かうものの誰もいない。部長のことで警察に呼び出されているのか、駐車場にあった車も消えていた。
「……後は聞き込み、だよな。部長の様子を見てれば……ヒントがあるかもだし。部長なら、近所の人に
部長の家が見える御宅を少しずつ確認していく。
以前、部長とキャッチボールをして窓を割った人の家。
美伊子と犬を触るために入らせてもらった家。
知り合いの二軒に聞き込みをしてみるも、部長の姿は見ていないとのこと。
諦めつつ、やっていた聞き込みだけれど……。三軒目になって、やっと目撃証言を掴むことができたのだ。
「あの、部長……石井達也先輩のことなんですけど。行方が分かってなくて。何処に行ったか、知ってますか? 昨日の晩か、朝、どっかに駆けていくのとか、見てませんか?」
インターホンからそう言うと、出てきた初老の男性が教えてくれたのである。
「あっ! おおっ! アイツの顔は見飽きてらぁ! 不幸なことに今日も見たなぁ」
「えっ?」
「何か、ラブレターみたいなものを貰ってたみたいでな。ちぇっ、こちとら浮いた話もねぇんだよ。来るのは督促状位で……きぃ……羨ましい話だぜ」
「す、すみません」
「お前が謝る話じゃないぜ。すぐに飛んでったぜ。アイツ」
「……ありがとうございます!」
ちなみにこの家は部長が小学生の時によくピンポンダッシュをしていた。今も尚、恨まれてるみたいだ。
それはともかく、何か手紙を受け取っていたと言う情報が手に入った。
すぐさま電話で梅井さんに確認だ。
「梅井さん、手紙は出してませんよね?」
『まだ……見つかってないんだね。手紙は出してないよ? やっぱ、何かあったんだね』
「ええ。昨日ラブレターを貰っていたみたいで、ね」
『もしかして、その手紙の内容が達也が、何も言えない理由に繋がってるかもしれないの?』
彼女は瞬間的に理解をしてくれたようだ。こちらも応じていく。
「そうかもです。そこから倉庫に呼び出されたと仮定しましょう。赤葉刑事にも言えなかった話……。殺した以外に言えないことって何がありますかね」
『何だろうなぁ。エッチなこと? メイドが好きってのを隠してたみたいだし』
……確かに部長なら、そうなるか。というか、最近できた恋人にも趣味がバレているとは。
「でも事件の場合は言いそうです」
『じゃあ、何だろ……』
「一応、ダンベルを上へ運んだことも考慮しましょう。梯子に指紋は付いていましたし。持っていける力があるのも彼しかいない以上、そう考えるしかないです」
『ううん……でも、よく上れたなぁ』
「上れた?」
『だって片手でダンベルってのは難しくない?』
「ううん、たぶん。両手が使える……何かリュックサックみたいな背負える何かに入れて……あっ、そうか!」
『どうしたの?』
話している流れの中で新たな推理が思い付いた。部長がもし、何もやっていなかった場合で考えれば、辻褄が合う内容のものだ。
「もしかしたら部長は上へ運んだのをダンベルだって知らなかったんじゃないですかね? だとしたら、警察にダンベルを運んだ? と聞かれても、答えられないし」
『えっ?』
「元々リュックサックか何かを倉庫か警備室か何処かに置かれていたんだと思います。で、手紙……きっと中身は見ないで上へ運べって内容だと」
『つまり違う女のラブレターにそそのかされて?』
「ううん、内容がそこまで分かりませんが。部長を純情なものと考えれば、まぁ、きっとその手紙の主は梅井さん、貴方を騙ったものなんじゃないかと」
『じゃあ、その手紙か何かでうちが困ってると勘違いして。倉庫にあったリュックサックか何かを梯子の上に持ってったと……』
部長らしい騙され方だと思う。彼ならたぶん、困っている人をすぐに助けようとする。
であれば、何故そのことを赤葉刑事に言わなかったのか。
ここが一番の疑問点だ。
「取り敢えず、そこで何か言えないことが起きてしまった……刑事には言えないことが。自分はここにいなかった方が良いって思えるようなことが……」
『一体、それって何? 死体があったら、必ず通報してるはずでしょ?』
「ええ。部長は最初の事件でもちゃんと義務は果たしてます。きっと、違うもの」
『彼が優しいから……優しいから、言えなくなるもの……』
考えても考えても手掛かりは見えてこない。その時、赤葉刑事から電話が来たので一旦切らせてもらうことにした。
「すみません!」
『いいよ! 氷河くんのおかげですっごくいいところまで来れたし! きっと部長も』
「ええ! 絶対に部長を助けてみせますよ」
なんて言ってたら、男の嫉妬か。向こうから荒山さんの「そう言われて、草場の影で達也も喜んでるぜ」の声。
ほぼ同時にみぞおちに何かが当たって倒れた音まで聞こえてきた。何があったか察しているうちに梅井さんは「じゃあね!」と言って通話を終了した。
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