Ep.9 SNS探偵の本領発揮

 結局、いそうな場所を探したとても猫探し初心者の僕達に見つけられることはなかった。それに猫探しを提案してきた本人は野良猫のたまり場で猫じゃらしを振って遊んでいる。


「おーよしよし、よぉしよし」

「知影探偵……」

「きゃあ、可愛い! 写真写真! で、アップアップ!」


 そして猫が顔を洗っているところをスマートフォンで撮影し、SNS上にアップしているらしかった。そんな彼女に本来の目的を思い出すよう、怒ってみせた。


「知影探偵!」

「あはは、ごめんごめん! でも、ちゃんと意味があるのよ!」

「意味って?」


 僕がきょとんとした様子を見せると、お得意の滅茶苦茶推理を披露してくれた。


「そりゃ、この子達に話を聞いてその猫を見なかったかって聞くのよ!」

「……探偵じゃなく、童話作家にでも転身した方がいいんじゃないですか?」

「いやいや、動物の話を聞けるってSNSのフォロワーさんがいるみたいだから、その人に動画を!」

「ただその人は可愛い猫の写真や声を求めてるだけじゃないですか! フォロワーに振り回されないでくださいよ……」

「いやいや、その人ちゃんと動物の言葉が分かる人なんだからっ!」

「本当なんですか?」

「テレビで見たことあるでしょ?」

「ええ。でも、それって飼い主の心理ケアがうまい人だと思ってるんです。飼い主が一番心に来そうな言葉を選んで、動物の言葉を代弁したように喋っているって。別に僕はそれが悪いことは思ってませんけどね。実際に助かってる人もいますし」

「えええ!? 夢がないー!」

「探偵の推理に夢は必要ないと思いますよっ!」

「ええ……」


 霊的なものはどうしても信じられない質なのである。というか、そもそも目の前の探偵の存在すら信じたくない。立派な探偵になると言いながら、妄想や戯言を言いすぎなのである。もう少し慎重に、現実的に推理してもらえないだろうか。

 知影探偵は縮こまっている間に僕は一つ質問をする。


「あの。猫がいそうな場所を探すって方法を使ってますけど……白百合探偵のSNSの方は確認したんですか?」

「ううん、あっ、忘れてた! そこから情報を奪っちゃえばいいのね!」


 提案もしてみて、彼女も納得してくれたみたいなのだが。実を言うと、本当は期待できない。探偵がSNSで調査結果を明らかにしていない場合がほとんどだ。少しは何か呟いていることを願うことしかできない。


「どうです?」

「ううん……ないわね。ページを辿ってみるけど、行方不明になる前までの呟きに関係しそうなものがないわ」

「そうでした……か」


 予想通りだった。希望はなかったものの、やはり残念だと肩を落とした。その代わりにと彼女が情報を口にする。


「で、でも……まぁ、白百合探偵が大手の化粧会社の社長の顧客がいるってのは分かったわ」

「それがどうかしたんですか」

「どうもしないわよ。さっきから、変な情報しか提供できなくて、ごめんねー!」


 彼女は僕にべーと舌を出している。そこに文句を言おうとしたところ、ようやく彼女がポツリ重要なことを漏らしていた。


「不満があるなら、被害者の情報についてはいらないわよねぇ。ちょうど今、凄いメッセージがたくさん届いたんだけど」

「えっ?」

「ここの学生ってアカウントに色々連絡を取ってみたのよ。被害者の別府教授がどんな風に恨まれているかって、警察が調べてるから情報をって!」


 今度は何故か彼女が僕に謝ることとなる。仕方なく、丁寧に頭を下げさせてもらった。それから情報を要求しておいた。


「すみません。見せてください。早く見せてください!」

「わ、分かったよ。何かその謝罪、しっくりこないけど」

「ああ……生意気言ってすみません。ありがとうございます!」

「まっ、いいわ! よしっ!」


 彼女がスマートフォンで次々とメッセージを提示していった。確か白百合探偵も評判が悪いと公言していた。

 他の人達も同じことを思っていたようで、彼等の思いが知影探偵のスマートフォンに映し出されている。


『マジ、あの教授の授業、かったるい。自分は遅刻するくせに生徒には五分前行動を必ず守れとか言ってくるし、最悪な印象しかない。遅刻したら、何十分もぶち切れるくせに自分がそうすると棚に上げて逆ギレする』

『私達へのセクハラが酷い。死んでなかったら、いつかセクハラで訴えてやろうと思った。後、個人情報の管理も杜撰ずさんで信用ならない』


 よくこの年まで逮捕されずに大学教授をやっていられたなぁ。それだけ生きるのが巧い人だったのだろう。

 彼女は他のメッセージも教えてくれた。


『亡くなった人は悪く言いたくはないけど、結構差別主義者だったと思う。男にはたいして興味なさそうな話をして。女には甘い。で、周りの男を不愉快にさせることが多かったと思う、でいて、権力が一応強いから逆らえない』

『気に入らない人がいると、すぐにいないことにする。俺なんて一週間空気扱いだったよ』

『恋愛の相談なんてできたものではない。したら辺り構わず、講義のネタにされることもあるし、人の前で喋ることもしばしば。恋愛に詳しい人なのに、全く人のことについて考えてる様子はなかった』


 彼女はここまで正確に悪い評判だけが来るとは思わなかったのか、少々顔を青くして黙っている。すぐさま「役に立たなかったよね」と言って、画面を閉じようとしている。

 そこを僕は否定した。


「いえ、本当にありがとうございます。おかしいことに気が付きました」

「えっ?」

「これで部長のやり取りにまた一つ矛盾が生じました」

「やっぱ! そうだよね。達也くんが犯人だなんておかしいし」

「いや、犯人説を一気に否定はできませんが」

「いやいや、ワタシは信じてるから! 無実だって! こういう矛盾が出てくるのは、彼が犯人じゃない証拠なのよ!」


 彼女の顔に日差しが当たると共に眩しい笑顔を見せてきた。ニコリと笑ってから「どういうことどういうこと!?」と何度も尋ねてくる。

 じれったいのはなしにして、今は説明してみせよう。


「おかしいことがあるんですよね。草津さんの証言は知ってますよね?」

「聞いてるわよ。トイレで約束をってことよね」

「ええ。でも、部長は別府教授の研究室に来るよう言われていました。そして、あそこは自分が来た時はしんとして、研究室の周りは誰もいませんでした。静かで誰にも聞かれない場所へ呼んだんですよ。別府教授が、部長に……」

「……えっ、何で?」


 知影探偵もSNSで集めたメッセージと彼の行動に関する奇妙な点に気付いたのだ。疑問に思うのは当たり前。

 僕はそこをしっかりと解説する。


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