Ep.10 被害者は企んでいる

「だから、おかしいんですよね。何故、人のプライバシーを他の人に漏らしてしまうようないい加減な被害者が部長を呼び出す時は誰もいない場所を指定したのか」


 知影探偵は僕の話を理解し、コメントをする。


「そうよね。普通にトイレで話してしまえば、いいはず。わざわざ、達也くんに……」


 そこから彼女に意見を求めてみることにした。一応、頭の中にぼんやり別府教授の目的が見えるが、自分だけの考えなのか、それとも他の人も分かることなのか。確かめたい。


「誰にも聞かれないように工夫してまで二人で話し合いたいってことって、何を考えます?」

「恋愛の話……じゃないわよね。犯罪の話かしら。ただ、被害者の別府教授が相手に自首を勧めるために人気のない場所へ誘い出すような、相手のプライバシーを考えてくれる性格だとは思えないから」

「そうですよね……で、犯罪って言っても、相手の犯罪ですよね。自分の犯罪を言う打ち合わせを他の人がいる場で大きな声で話すと言うのは何かおかしいですし。よく響く声と言うのは、自信があるから出せるんです」

「ええ。たぶんだけど、誰かを脅してってなるかな。他の人にバレちゃったら口封じのためにってお金を要求できないし」


 彼女から僕が求めていた解答が飛んできて、満足だ。となると、会ったばかりの部長からお金を取ろうと考えるだろうかと疑問に思えてくる。部長は堂々とストーカーするような確信犯でもある。別府教授はそんな彼からお金をゆすろうと思えるか。たぶん、「金をくれ」と言っても、悪いことをしている気のない部長は「ええ……オレのやってることは正しいことですよ!」と言うだろう。そもそも高校生を脅して幾ら貰えるか。脅したことを後で告発されたら、自分の立場が危うくなるはずだ。それなら真面目に大学教授の仕事を続けた方がよっぽど金になる。

 そこまで考えて、更なる疑問を呟いてみる。


「でも、脅していた相手がいて。相手が部長じゃないってことで仮定して。何を望んでいたんでしょう? 結構、儲けていそうじゃないですか?」

「あっ、確かに。自分が研究室を見た時は相手を見下すようなものが置いてあるなぁ、って。バズりそうなものも結構見つけたわよ。金をむしり取るなんてことのため……かな」

「他の目的かもしれませんね。ううん」


 彼女の体をチラッと見て、言っていいのか分からなくなった。ただ、彼女の方はハッキリ言ってくれる。


「女性に無理矢理交際を迫るとか、体目当てとか、そういうことなら金より価値があるわよね! で、何でワタシをチラッと見て自信失くすのよ! 大学生女子の体なんて、特に知影の体はあんまり求めたくないなぁとかって思ってる訳?」

「そ、そういうことじゃないです! 誤解しないでくださいっ! で、話を進めましょう! ここまで分かったなら、その女子が脅されるような何をしたのかについて、調べればいいじゃないですか!」

「ああ、そうよね。って、あれ? 男子トイレで別府教授は約束をしてたのよね。女子でいいの? 脅されてる対象」

「ううん……そうですね。たぶん、それでいいと思います。今のところ、草津さんの証言から約束をした時点で男子トイレにいたのは別府教授と部長と草津さんのようです。ただ、草津さんは事件時にアリバイがありますし、部長には脅す意味がないと思います。つまり、別府教授の話相手は」

「相手は……?」


 そう。僕はクイズの問題を答えるように、言葉を紡ぎ出した。


「たぶん、壁の向こう。女子トイレにいる相手だと思います。女子トイレの方にも男子トイレの音が聞こえるという特性を利用し、別府教授はきっとそっちに会話をしたのでしょう」

「と言うことは、達也くんは無視されてたってこと?」

「考えるとそうですね」

「でも、それだと達也くんは自分に話されてると思うから……脅された相手と達也くんが一緒に来ちゃうってことは」

「いえ。たぶん、部長は別府教授の五分前行動の件については言われてないと思います。別府教授の頭の中にはもし部長が来たとしても、脅している本人と話すことに夢中ってことで部屋に鍵を掛けるか何かして入れない予定だったのでしょう」

「……何か、本当性格悪いわね。被害者……」

「死んでいいって訳じゃないですけどね」


 ここまで話して、犯人は壁の向こうで脅されている人物の可能性が高いと考えた。後、その人が脅されるような理由があるのかも調査してみたい。

 白百合探偵に見つかるから、校舎の中では聞き込みができないと思う。外でできることを優先して考えよう。

 そこで彼女に「赤葉刑事に状況を聞いてみる」ことにすると話してみた。


「知影探偵は大学内の方やSNSで一応、調べてみてください。脅されそうなこと」

「う、うん。でも別府ゼミ自体のことだと調べきれないかも……」

「そのために僕は容疑者に話を聞いている警察の見解や別府ゼミの人の過去について、尋ねてみます」


 そう言って、すぐに赤葉刑事と連絡を取った。彼女は有馬さんのアリバイ確認のため、御砂糖電気にいるのだとか。

 バスで正味十分の場所にあるらしき、そこへと僕は向かう。

 ここで有馬さんのアリバイが分かる。そして、もう一人の女子、草津さんのアリバイが成立するとなると、犯人は別府ゼミの中にいないことも考えられる。そうしたら、どう調べようか。

 頭を回転させながら歩いていると、電機屋のレジ前に来ていた。そこで赤葉刑事が店員に聞き込みをしている。


「で、この子が来たことは間違いないんですよね?」


 赤葉刑事が聞くと、男性店員もぶっきらぼうに答えていた。


「ええ! ええ! その人を担当したのが自分です。困っているところをお話したら、『別に構わないでしょ』ともう不機嫌極まりない様子でいっらしゃいまして」

「そっか。その時間はレシート通りで間違いないのよね?」

「そうですね。37番の商品です」


 そう答えていたため、番号を覚えた僕は好奇心で家電の前まで動いていた。


「これ……か」


 有馬さんが買ったと思われる商品と同じものが箱に入って売られている。そこに記載されている幾つもの情報が目に入った。

 自動餌やり機で留守中もペットにご飯をあげられる。

 スマートフォンで監視可能。カメラもついて、飼い主の思い通りの時間に餌を出すことができます。

 声を掛けることもできます。

 一昔前と違って、だいぶ便利なものが世の中に出ているんだな、と高校生ながら思った。そのまま他の商品を眺めていると、僕の存在に気が付いていた赤葉刑事がこちらのコーナーへとやってきた。


「ああ! 氷河くんね! さっき言ってたよね? 容疑者の情報が欲しいって」

「ええ」

「一応、警官が後から取り調べや調査した結果から、また面白いことが分かったわ」

「ほぉ?」

 

 

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