Ep.20 ロストワンの号泣
知影探偵が部長の発言が終わった後、すぐに大声で疑問をぶつけてきた。
「ちょっと! ちょっと!? その何が犯人に繋がるって言うの? たまたま無断転載の奴をお気に入りにしちゃってたってことが分かった位で」
分かった位……そんな彼女の言葉には大々的な間違いがあった。
「僕は、それが違う真実を表してるように思えてならないんです」
「えっ?」
本当にこの事実で合っているのかと自分で何度か疑った推理だ。間違っている可能性もあるけれど、ここは言ってみるしかない。
それが僕が月長を犯人だと決めた理由だ。
「考えるに、月長は『私と他の人を比べないで』の曲を知らなかったんだっ!」
僕の推測に予想通り、この場にいる全員が固まった。そう。刑事として来た赤葉刑事はともかく、梅井さんに関わってる他の人は梅井さんの作った曲を知ってると思うのが普通だ。
親友、そして、その曲を褒め讃えてくれるような人なら、その曲を知らない方がおかしい。そんな主観的な思い込みが、この事件の真実を隠していたのだろう。
一回皆が黙り込んだ後、今度は赤葉刑事が混乱する。そこでまず、今回の殺人が標的を間違えた事件だと言うことを語っていた。
「ええと、ちょっと待って。ええと、確か梅井ちゃんから聞いたけど、この事件は梅井ちゃんを狙おうとしてたものでしょ」
皆はすでに梅井さんから自分の工作したことを聞かれていたらしく、頷いていた。そのまま彼女の話は続く。
「本当は尾張ちゃんを犯人にしようとしてて偽装メッセージを作ったんだよね? その曲を知らないって言うのはあり得なくない?」
赤葉刑事の言葉に「そうだよそうだよ!」と月長は同調していた。
「冗談はやめてよ。知らない訳ないじゃん。歌えって言われたら、歌えるよ」
「そりゃあ、そうだろうな。今は、な」
「事件当時は歌えなかったみたいな言い方……しないでよ」
「だって、その通りじゃねえか。アンタは鼻歌検索でその曲を調べようとして間違えたんだ。鼻歌検索アプリのタブを消した後。その間違えた曲を調べて……後はタブを消すのを忘れて、尾張さんが示されてる目的の曲を探すために、梅井さんの曲を聞いたんだ。だから、赤葉刑事……言ってましたよね。『動画サイトについては色々梅井ちゃんが作った曲が視聴履歴に残っていた位で』って」
赤葉刑事は一つの証拠に「そ、そうだね……だから……」と納得し始めている。これはまずいと月長が思ったか。胸を叩きながら、僕に主張する。
「ちょっと待ってよ! その曲をお気に入りにしてたんだから、そもそも間違えるはずがないでしょ! そのメロディーを!」
その曲をお気に入りにできたのならば、メロディーを間違えることがない。彼女の意見に僕は言ってやった。
「それは違う!」
「なっ!?」
「お気に入りには動画のタイトルが見れる場所からもできる場合があるし、その動画の中でも可能だ。もしかしたら、広告の時に」
「ううっ!? で、でも、優花、ちゃんと聞いたよ。広告の後に!」
「ああ。聞いたんだろうな。尾張さんを示す曲が再生される前の……広告の後の広告動画で、『私を嫌わないで』の曲をな。アンタはきっと再生してすぐに何処か別の用でスマホの画面が見れない場所にいた。そこでたまたま同じ梅井さんの曲が流れた広告が出るなんて、とんでもないことが起きたんだ」
「はっ!?」
「だから、アンタはその『私を嫌わないで』のメロディーを、尾張さんがモデルになった曲だと勘違いしたんだっ! 一曲聞いた後は、三つ目の広告動画が流れてすぐに別の動画をタッチして再生したか、電話などの着信が来たか、他に音が聞こえない事情があったかで、本当の『比べないで』の曲を聞かなかったんだろうな……だから、アンタは曲を勘違いしたまま、犯行当日まで生きてきた」
「そ、そんなこと……」
「もう一度事件の日に起きたことを説明すると、アンタは『比べないで』の偽造メッセージを作ろうとしたが。その曲の名前を憶えていなかった。それは自分のスマホじゃなかったから、自分のお気に入り動画一覧もアカウントを登録しないと確かめられない。まぁ、自分のスマホを取ったり、そこでアカウントを登録したりしてると時間が掛かると思ったアンタは、鼻歌検索で音楽を出そうとしたんだ。でも、違った。鼻歌で出てきた曲が長いタイトルでないと不審に思ったアンタはインターネットでこれじゃないことを知って。すぐさま梅井さんの曲をどんどん流していって。自分が出したかった本当の曲を流したってところだな」
「ち、ちが……」
「後は梅井さんを呼び出すつもりで電話を掛けたんだ。電話の呼び鈴から、来ると思っていたアンタはドアの影に隠れて、バットを構えて待っていた」
「待ってよ! それが優花だって証拠はあるの!? プラムンは自分で作った曲だから知ってるだろうけど。そこの荒山は違うよねっ!? 優花と同じように間違えたのかも!」
荒山は「違う! 知っていた!」と表明するも、「嘘だっ!」と月長が否定する。
反論が来たこのタイミングが、無断転載のことを説明する時だ。
「そこまで考えて無断転載を見てるアンタが怪しいと思ったんだ」
「へっ?」
「荒山さんが言ってたんだが、収益化をしてない影響で本家のこの曲は広告が流れない。流れるのは、無断転載の動画なんだよっ!」
「だから、優花を……優花を犯人だと思ったの?」
「ああ。これが理由だ。そしてバットを構えた後は」
今後の形を説明しようとした。
そこで、だった。突如、月長の目から涙が零れ落ちたかと思うと、酷く辛い声を飛ばしてきた。
「酷いよおおおおおおおおおおおおお! それって、全部想像じゃん! そんなんで間違えるなんて、空想も空想、いいところだよ! 優花が知らなかったなんて、証拠ないじゃん! ないじゃん! それに何!? 優花は友達を、一生の友達を殺されたんだよっ! それなのに、優花が犯人とか、曲を知らなかったとか、言いがかりは酷いよっ! 酷いっ!」
こちらに勢いよく罵声を投げつけ、そのまま耳が震える位に大きな声で泣き出してしまった。
僕が推理をぶつけようにも声が他の人に届かない。彼女が落ち着くまで一旦、推理は終了するべきか。いや、そしたら彼女が何をするか分からない。証拠を握っていると思う僕を襲撃して、いらない罪まで被ることになる。
殺人犯は許せないけれど。おとり捜査でもないのに探偵が殺人犯に更なる罪を重ねさせようなんて許されない。今ここで推理を飛ばし、彼女に罪を認めさせて。赤葉刑事に逮捕してもらわないと、何が起きるか分からない。
「うう……」
それに、だ。泣かれると、心が……痛くなる。
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