Ep.19 Q!

 尾張美樹殺害事件の真相、たぶんこの手の中にある。犯人も真実も分かった。一つ、そんなことがあり得るのかと疑問を抱くところもあるが、推理ショーを始めてみるしかない。


「さて、あの夜にいた皆さん、お集りいただき、誠にありがとうございます!」


 事件が起きた日と同じ時間に、梅井宅のリビングで皆が集う。一日捜査をして、くたくたになった知影探偵と部長、赤葉刑事が椅子に座って休んでいる。一方で呼ばれた月長さん、荒山さんはリビングで待っていた梅井さんと共に困惑していた。

 何が起きるのか。今から何を告げられるのか。三人は気が気でならないのだろう。犯人当てだとしたら、この中の誰かが必ず犯人となる。友人の中に殺人犯がいる事実に戸惑ってしまうのは当たり前。

 ただ一人だけ違う感情の人物がいる。それが犯人だ。自分の罪がバレていないと思いつつも、もしかして……と思うことがあるはずだ。きっと手の中は汗でぐっしょり濡れている。

 荒山さんが名前の通り、荒々しく叫ぶ。


「何なんだよ! 人を呼び出しておいて。刑事が呼ぶものだから集まったが。本当に素人の探偵が警察も分からない事件を解けんのかよ!」


 不安になるのも分かっている。こんな自分達よりも若い人間が謎を解けているか、分からないのだから。間違えて冤罪にされることが怖いのだと思う。

 しかし、安心してほしい。間違っていない。

 僕は唾を飲み、堂々と言い放った。


「ええ。この事件の犯人を示す準備が整いました」


 月長さんが一言。


「一体……」


 梅井さんがもう一言。


「誰がっ!?」


 知影探偵も「誰なのか、早く教えてくれない?」と真実の開示を心待ちにしている。ただ、一つだけ知っておきたいことがある事情を告げる。


「あの……その前にええと、赤葉刑事。梅井さんにスマートフォンを返しましたか?」

「うん!」


 赤葉刑事は昼間、お願いしたことをやってくれたのだ。梅井さんはもう自身のスマートフォンを操作できる状況となっている。

 さて、準備ができた。一つ、アリバイのない容疑者三名にお願いしたいことを話す必要がある。


「あの、すみません。被害者が残したことについて一つ一つ意見をうかがっておきたいことがあるんです。まだメッセージの意味がきちんと分かっていなくて……」


 そこでまた荒山さんがツッコミを入れた。


「おい! 真実、分かったって言ってなかったか?」

「す、すみません! 確信がないだけです。スマートフォンを起動して、動画サイトのお気に入りから『私と他の人を比べないで、私は一人で私、他の人も一人で他の人、全然違うのだからちゃんと見分けてよ。パパ、ママ』うんぬんって、長いタイトルの曲の再生をして、話してくれませんか? ええと、荒山さんは高評価してましたよね? その曲に高評価した動画の欄からいけますよね?」

「ああ。それで本当にメッセージの意味が分かるんだな? 分からなかったから、帰るぞ?」

「えっと、必ず分かりますっ! ええと、月長さんも梅井さんも曲はお気に入りとか、高評価している欄からいけますか?」


 月長さんが「優花、いけるよー!」と。梅井さんは「自分の出した動画一覧からいくね」と。

 後は次の命令をした。


「えっと早くしないと推理の内容忘れちゃうんで三人同時にいきましょう。知影探偵は月長さん、部長は荒山さん、赤葉刑事は梅井さんを見ててください。特にスマホを。あの動画って、長いタイトルで勘違いしやすいですからね。違う動画を再生されていないか確かめるためにも。色々すみません」


 知影探偵はメモ帳。部長はノート。赤葉刑事は警察手帳に聞いた内容を書き留めておくらしい。

 三人共「準備万端!」と言ってくれた。これが最後の指示だ。


「では! お願いします!」


 梅井さんは慣れた手つきでスマートフォンを操作し、音楽を流し始める。


「できたわ! で、この曲を作った意図を話せばいいのよね」


 荒山さんも終わったよう。


「じゃあ、これについて……お前に語んのか。面倒だな……言って何んなるんだか」


 月長さんが「これで良し!」と再生する。その時だった。


『君にこの謎が解けるか! 僕が一気に一千万円を積み上げた謎っ!』


 彼女は不測の事態にテンパって、知影探偵に「待って待って!」と言っている。知影探偵は優しいからこう言った。


「待ちますから、早く広告を飛ばしてくださいね」

「助かる助かる!」


 僕はそんな隙を与えない。すぐさま月長さんのスマートフォンを手から叩き落とす。曲から解釈を聞くという指令しか知らない知影探偵は「何で!?」と僕に怒鳴り出す。

 しかし、僕は構わない。そのまま月長さんのスマートフォンを奪い、広告の画面をストップさせる。

 

「話が早くて助かった。確信を持つための実験をしたくてしたくて……でも、巧くいくかは分からなかった。でも……何とかなったな」


 僕の奇妙な発言。

 誰もこちらを向いたまま、意味が分からないと困惑の表情を顔に浮かべている。誰も喋らないから僕は話を続けさせてもらった。今の僕が言いたいことは一つ。


「月長優花。アンタだよ。アンタが尾張美樹を殺害した、真犯人だっ!」


 月長の告発だ。

 当然、僕が何の目的で今の実験をやったか分からない人がいると言うか……全員分かっていないだろうから、説明しなければ。


「今させていただいたのは、実は歌の解釈を聞くためなんかじゃありません。犯人が、月長が、自分の使ってるフォームから、梅井さんの出した動画とは違うものを再生するか、どうか確かめるためのものだったんだ」


 そんな指摘に意味が分からないと最初にツッコミを入れたのが、月長を見張っていた知影探偵だった。


「だって、えっ、今の動画、ちゃんとプラムンさんの動画を……」


 本当に彼女の動画、か?


「彼女の名前がそこにあるんですか?」

「えっ、概要欄もちゃんと彼女の名前があって。投稿者も……えっ? 『バラバラ大探偵さん』? 誰です? プラムンさん、こんな名前だったんです?」


 梅井さんは首を横に振って、即座に否定する。


「そんな名前知らないっ! その動画はちゃんとうちのアカウントで配信してるんだから……!」


 すると動画好きの部長が今度は発言した。


「おい、氷河……それってまさか、てんさい……だよな?」

「ええ。てんさいです」


 僕の答えに分かっていない赤葉刑事が「天才って何!? えっ!? 頭がいいってどういうこと?」となるも、違うことを皆知っている。

 部長は赤葉刑事に巧く伝わらなかったと言い直す。


「天才じゃなくて、転じて載せる方の転載。無断転載のことです。氷河……月長さんは無断転載の動画をお気に入りにして見てたってことになるんだよな……?」

 

 

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