Ep.17 探偵のくせになまいきだ
二人が別々の可能性を指摘したため、僕は各々の意見や推測の理由を尋ねてみることにした。そこにまだ、僕の知らない事実が眠っていると信じて。
まずは月長さん犯人説を唱える知影探偵の方から聞いてみよう。
「あの、ではすみません。知影探偵の方から。何で、そう思うんですか?」
「だって家の中で自由に動けるのって、プラムンさん以外に彼女だけでしょ? もし、彼女が熟睡してなかったら、犯人はそんな簡単に廊下を歩いたりできないし。それにずっと荒山さんは外にいたから……家の中にいたら一発で怪しまれちゃう」
「確かにその面で行くと、月長さんが一番怪しいですね」
そう彼女の話を納得していたところで、荒山さんが犯人と主張する梅井さんが否定した。彼女によると、月長さんに見られずとも地下室に行けるルートがあるらしい。
「後で警察に確かめてもらえば、分かるんだけど。トイレの窓が開いてたから、そこから入れたかも。トイレからこそっと出れば、気付かれないで地下室のスタジオまで行けるんだ……」
そこに僕が本当に可能なのか、質問をする。
「それってちゃんと人が入れる窓なんですか?」
「うん。以前、地下室に泥棒がいたんだけど……そのルートで入ってきたみたいだから。庭からトイレにひっそり入って。犯行をしてから、外に出て。あたかも今帰ったように工作したのかも……」
「なるほどです……そういうことがあったんですね」
僕が記憶の中に可能性を書き留めていると、梅井さんが更なる情報を出してくれた。
「後、犯人だと思ったのは……犯人だとは思いたくなかったけどさ。自分が被害者になってたかもって考えてたら、やっぱ彼に動機があるんだよね……彼、うちのことをずっと恨んでたみたいだし」
知影探偵が初耳の情報に「何で?」と大声を出して仰天する。僕の方は驚けなかった。確か、事件が起きた日の前日、彼は何となく似たようなことを口にしていたはずだ。
『騙されるなよ。あいつは人の心を惑わす魔女だからな……』
荒山さんが部長にした警告を思い返せば、彼が梅井さんに持っている感情が見えてくる。怒り、だ。自分が騙されたことに対するもの。
一体、何かと思うと、梅井さんは囁くような声で口にした。
「うちのお姉ちゃんのことかもしれない……ずっと、そのことを嫌味みたいに言ってきたからさ」
知影探偵がそんな二人のギスギスとした関係を知って、違和感を持った。
「ええ……それなのに二人はずっと歌の作成を……? あっ、何か失礼なことをごめんなさい」
そう言われた梅井さんが「今更、気にすることでもないよ」とフォローしてくれた。散々無礼な物言いをしてきた僕達にとっては大変頭の下がる発言である。
申し訳なく思っている間にも梅井さんは荒山さんとの関係性を語り出す。
「ま、まぁ。歌が好きって言うのと、ちょっとした復讐があった……ってのが、理由だよね……ここは、本人に来てもらった方がいいよね。そして、うちがいない方がいいし……」
少し喋ったかと思ったら、席を立つ。そして「知影探偵の携帯を貸してくれない」と頼み、そこから荒山さんを呼び出していた。
この舞台が準備されていたのか。ほぼ入れ替わりで荒山さんが現れる。関係性の重さを聞いた後だからか、二人がすれ違った時の無表情が際立った。
荒山さんは梅井さんが元いた席に座ると、何の恥も躊躇いもなく、店の悪口を言い放つ。
「何だ。この陰気臭い場所に呼び出して。確か、この店のコーヒーは毒のような味だとレビューにも書いてあったな……」
僕達二人が見る彼の印象がどんどん悪くなっていく。この店を追い出される前に早く質問を終わらせてしまおうと、圧倒されている知影探偵をおいて、僕が尋問をする。
「では、単刀直入に。何で梅井さんを恨んでるんですか?」
「ん? 探偵共か。探偵共は美樹の殺人について調べてるはずなのに、どうしてこちら側の勝手な事情を話さなければならない……」
どうすれば、話してもらえるかを真っ先に考える。今のままだと梅井さんの罪を彼に話さなければなるまい。ただ、今話すと荒山さんが梅井さんを告発するだけして何も話してくれなくなる恐れがある。
どう説明しようか、というところで思い出す。この事件に関しては、スマートフォンに残された音楽が手掛かりになる状況だと言うことを。
早速、それを理由にさせてもらった。
「スマホに残っていた尾張さんのメッセージです。その歌の解釈がまだ巧くできていなくって。作る過程のことを知っていれば、解読できるかもしれません」
「なるほど……な。じゃあ、話してやろう。まぁ、解読には関係ない可能性が高いがな」
「お願いします」
と、言うと、彼は梅井さんに対する怨念をハキハキと喋っていく。
「簡単だ。あの事故の前にアイツが出した曲。あれはアイツの姉に対しての侮辱だったんだろ……? 『比べるな』って歌詞は自分の才能と姉のちんけな才能を比べるなってことだろ? アイツに聞かなくても分かる」
「あっ、それは……」
「いや、何も言わなくても大丈夫だ。あの曲のことについては本当に苛立っている……!」
ただ、考えてみれば、勘違いしている節があるようだった。梅井さんは尾張さんを応援するために作った曲なのだろう。
そのことを発言したいが、彼がさせてはくれなかった。彼独自の領域を展開させ、勝手に話している。
「それで姉はわざと事故を起こしたんじゃないかって思ってるんだ。アイツが誰かに優しい言葉を掛けてるつもりだったとしても、だな。彼女が勘違いすれば、それは悪意になる……! それが許せないんだっ!」
その怒りに押されまくりで黙ることとなった僕。逆に落ち着いた知影探偵が今度はバリバリ攻めていく。
「そうなんだ。それなのに、一緒に組んでるの?」
「まぁな。それが復讐だから、な。あの姉に対する異常なまでの期待に対するアイツの両親に対するな」
「えっ、どういうことです? 組むことの何が復讐に繋がるんですか?」
まずは復讐の意図に関して考えた。すると、彼は突然スマートフォンを出して、梅井さんのアカウント経由で動画を再生する。そこには一応、荒山さん自身が付けたらしき高評価が見られた。
彼はそこで広告収入について語る。
「この動画、アイツの動画は全部広告が出ないようになってるんだ。で、お金が入らない」
「それって……」
「お金目的で娘に期待している親共に泡吹かせられるってことだ……それが復讐だな。一応、器具とかのお金は事務所が出してるらしい」
「……なるほどねぇ。で、そのお姉さんの話になります。お姉さんの復讐って……親はお姉さんに何をしたんですか?」
「何かしたんじゃねえ。何もしなくなったからだ。妹が有名になるや否や、期待されなくなってな……自分はそれで自殺したとも考えている」
「後……随分、お姉さんに関して執着的なんですね」
「……悪かったな。あのお姉さんに関して、気に入ってたところがあるからな。で、そこで生き残った美樹に何かを感じて近づいて、で。今度は彼女に執着された……ってことだな」
「そうなんですか……」
これで全てか。バッググラウンドを話し終えた彼は欠伸をして、何も頼まずに帰っていった。
楽しそうな歌の中にあったのは醜い憎悪の塊。復讐心。今、僕が味わっているコーヒーにもそんなものが隠されているのだろうかと考えていると、何だか
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