Ep.14 んっえっえっ。
僕の告発に対し、まず知影探偵が体を前に押し出して梅井さんに尋ねていた。
「それって本当なの……!?」
そんな圧迫感溢れる知影探偵の反応に梅井さんはものともせず、「何のことかしら?」とだけ喋っていた。
しらばっくれているつもりであるのなら、僕は厳しい言葉を叩き付けなければならない。
「知らないふりをしても無駄です。この事件は梅井さんがややこしくしてるんです。一つ目は知影探偵も知っているでしょうが、救急車への連絡です」
隣でその違和感に気が付いていた彼女は僕の話に同調し、梅井さんに訴える。
「そこ……どうなんです? ワタシの通報の前に貴方からの通報があったって救急隊員の証言もあるんですよ」
一瞬、梅井さんが苦虫を嚙み潰したような顔をした。そこを僕達素人探偵に見抜かれるとは思っていなかったのだろう。
まだまだ彼女にとって予想外と言える状況証拠が頭の中に入っている。遠慮なく伝えていくことにした。
「梅井さん言ってましたよね。尾張さんが荒山さんに対して、文句を言ってたって……どんな内容なのか、覚えてますか」
彼女は素早く首を横に振った。
「そ、そんなの覚えて……あっ」
そこで大いなる失言に気が付き、口を止めたであろう梅井さん。そこに言葉の弾丸を撃ち込ませてもらった。
「そもそも覚えることはできないでしょう。彼女は口を利くことができないんですし、彼女のスマホはパーティーの途中で紛失してしまってるみたいなんです。無理なんですよ。荒山さんのことに対して文句を言うのは」
「うっ……それはうちのスマホで……」
「わざわざ人のスマホを使ってまで、荒山さんの文句を言いますかね……そこがどうも引っ掛かりますよ」
「ううっ……」
あの夜、荒山さんは尾張さんの意図を指で分かっていた。しかし、彼女は言葉として聞いたと言っていた。何故、こうしたことが起こったのか。可能性として、彼女は自分と出逢った時点でまだ誰かに殴られていなかったことを主張したかったと考えられる。
梅井さん自身が殴られた尾張さんの第一発見者になろう、としたのだと推測する。第一発見者で怪しいとなれば、犯人として疑われる。
「みんなに誤認させようとしたんですよね。先に何らかの理由でスタジオに行った貴方は梅井さんが倒れているのを知った。そこであることを企てた。自分がスタジオに来た瞬間で尾張さんが倒されたことにしよう。尾張さんが自分に倒された、と思われるようにしよう、と。まぁ、その工作も心配した貴方が先に救急車を呼んでしまったことでバレてしまったんですが」
彼女は項垂れ、黙り込む。反論が来ないのであれば、一方的に喋らせてもらう。
「じゃあ勝手に憶測で喋らせてもらいますね。何のために犯人になろうとしたのか。自分の経験則で仮定しますが……きっと、貴方は誰かを庇いたかったのかもしれないかと考えました」
知影探偵が隣で「何のために? 仲が良いからって、殺人の罪まで被ろうとする?」とぶつぶつ呟いている。僕が今出した仮定なら。そこに答えを入れることができる。
「知影探偵、あの時はまだ殺人じゃなかったんです。尾張さんが亡くなったのは病院に運ばれた後。だから、わざわざ怪しいふりをしたんだと思います。まぁ、結局、殺人の今になっても、最初に決めた誰かを庇おうと言う考えを変えることができず、自分が怪しいと思われる行動をしたり、自首したりしたんでしょうけど」
「あっ、そっか。最初に庇おうとしてたのは、殺人の罪じゃなかったのか。でも尾張さんが亡くなった後は、守ろうという気持ちが強くなって、取返しがつかなくなった、と」
まだ梅井さんは瞼を小さく動かしてはいるものの、酷くは動じていない。彼女としてはまだ一番隠したいことが明らかにされていないから、であろう。
僕が何故庇おうと思ったのか。その理由と共に彼女が隠した真実を暴いてみせた。
「そして……何より、梅井さんは自分のせいで尾張さんが亡くなってしまったことを気負っているのでしょう! だから、自分が悪いと考えて犯人になることで、その
僅かに梅井さんの眉が下がる。きっと僕が何を考えているのか、分かったのだ。口も動き始めた。
「ちょ、ちょっと……庇うって、いや、そんな、ことは……うち。美樹は……彼女自身の行いのせいで恨まれたんだよ……! なんで、うちがそんなことでショックを受ける必要があるのかなぁ!?」
「ふむ?」
僕が声を出すと、彼女は「美樹」を大声で連呼し始めた。
「美樹は美樹として死んじゃったんだよ! 美樹とうちは関係ない……いや、うちが美樹の行動を恨んだだけ! 美樹は、美樹は……美樹は……」
大量に呼ばれる彼女の名前。まるで彼女の歌みたいだ。ふと、彼女の『私と他の人を比べないで、私は一人で私、他の人も一人で他の人、全然違うのだからちゃんと見分けてよ。パパ、ママ』なんて曲のタイトルが頭に
全てではないが、不明瞭な部分が明らかになっていく。梅井さんの動機が理解できていく。動機からして、自分の推理が間違っていないと自信を持つことができた。
僕は冴えわたった頭脳を駆使し、真実を語る。
「そうですか。でも、過去は取り消すことができません。尾張さんは梅井さんと間違われて、殺されたんです。そうですよね? だから、貴方は自分のせいで尾張さんを殺してしまった犯人を庇おうとした。たぶん、自分は殺されるべき人間だったから仕方ない。間違えてしまった犯人を自分が犯人になることで守ろうと!」
「そ、それは……」
「貴方がそういう価値観を持っていることは何となくですが、分かっています。あの長いタイトルの曲の比べないで……あれって、もしかして。自分と他の人が比べないで。貴方には自分にはない才能を持ってるなんて解釈……で合ってますかね」
「その解釈が何なの!? ねぇ!?」
僕は目を閉じる。瞼の裏にある闇の中で、様々な文字列が流れていった……気がした。目を開き、大声で告げた。
「あの曲を要約すると、自分のせいで悩まないでってことになるじゃないですか。つまり、貴方は尾張さんは尾張さんとして。自分とは関係ない理由で殺されたってことにしたかったんですよね? その際に自分を恨んでた犯人も犯人。自分のせいで悩んでしまわないで、と許すことにして。尾張さんを殴った責任を自分が背負おうとしていた。そうじゃないんですかっ!?」
彼女の眼が突然、僕を拒絶するものとなった。こちらを見つめているかと思ったら、逸らすような動き。その中で彼女は言った。
「……ねぇ……その前に考えてよ。おかしいでしょ。うちと尾張ちゃんじゃ、全然後ろ姿が違うよ。犯人も殺人を犯す前に間違っている、なんてこと、普通気付くはずじゃない? そうでしょ……?」
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