Ep.13 偏愛裁判

 流石の部長も僕の行動には違和感を覚えていたようだ。


「お、お前……」


 手が震えて、声が重くなっている。月長さんと同じ目を半開きにして、こちらの行為に対して不信感を持っている。ただ、彼は違った。


「お、お前はプラムンにどんな気持ちを持ったんだよ!? お前は純粋な気持ちでプラムンを好きになったのかよ!?」

「はいっ!?」


 どうやら、僕が好きで彼女の衣服を漁ろうとしたのだと勘違いしているらしい。そうではない。ある証拠がないか確かめるためにやったのだ。決して、梅井さんに好意を持ってはいない。

 部長の方は誤解を極め、僕を責め立ててくる。


「お前なぁ。美伊子というものがありながら、そういうフレンドも作りたいってか。いや、美伊子はどうでもいい」

「いや、妹のことをどうでもいいって言っちゃダメですよね!?」

「いや、今はプラムンの方が優先だ。プラムンに変な気持ちで近づいてみろ! お前を訴えてやるからな!」

「違いますから。落ち着いてください。そして、考えさせてください……」


 僕はもう一度、スタジオがある地下室に来ていた。赤葉刑事に梅井さんが心情を語っている。


「……本当に事件時は上にいて……それで、事件のことに関しては、関しては」


 知影探偵は隣で聞いていたようだから、どんな話をしていたのか、聞いてみることにした。部屋に足を踏み入れ、辺りを見回しながら、だ。


「どうなんです? 話は進んでます?」

「ううん……それがね。話は全然。黙っちゃったり、泣き出しちゃったり。今やっと落ち着いたところだけど、喋るのも詰まり詰まりで……やっぱ、怪しくない?」

「ええ、まぁ」


 そんな雰囲気のところで悪いと思いつつ、僕は壁に寄っかかった。その壁には照明のスイッチがある。それを押すために、わざと背中を擦り付けた。

 パッと照明が落ちる。予想通り、地下室なのだから、部屋中が真っ暗になった。そんな突然のことに知影探偵が指摘を入れた。


「ちょっ、ちょっと! 今、赤葉刑事が話を聞いてる最中なのよ!」

「す、すみません」


 すぐに電気を付けると、赤葉刑事は「気を付けてよ」と言って苦笑い。大事なことは確認できたから、そんなヘマはもうしない。

 後はついでに近くにいた梅井さんに質問をさせてもらう。当然、赤葉刑事に許可を取ってから。


「あの……赤葉刑事、一つ梅井さんに質問いいですか?」

「えっ、うん」

「梅井さん……たぶん、警察がスマホを持っているから隠し事はできないと思いますが、一つ。彼女のスマホの着信音は『運命』ですか?」


 彼女は突然違う話題に対する質問が飛んできて、困惑の意を示した。拳をぎゅっと握り、下に向けている。

 彼女は黙ろうとしているも僕の視線に負けたのか、おもむろに口を開く。


「そ、そう……だよ。一応、美樹と優花と同じ着信音にしようってことで……」

「そうだったんですか。突然、変な質問してすみません。で、あっ、彼女の事情聴取はどれ位で終わるんですか? 赤葉刑事」


 僕が不意に質問の対象を切り替えたからだと思う。赤葉刑事も驚いて目を見開いていた。彼女はすぐに答えてくれる。


「もう終わろうかなって。もっと気持ちが安定した時に聞いた方がいいし」


 僕は赤葉刑事に一礼させてもらい、あることを提案する。


「では、知影探偵、梅井さん。カフェにでも行きませんか? 気持ちが落ち着く場所、知ってるんですよ。凄いリラックスできるところ」


 知影探偵も僕の意見に賛成してくれたようで「そうだよ。そうそう! 行きましょう! 警察がたむろするこの家にいたいって言うのなら、話は別ですけど」と強めの口調で説得してくれた。ただ、本当に強い言い方だった。

 次に知影探偵が僕へとこっそり耳打ちをする。


「何かあるんでしょ? 何か赤葉刑事の前で聞き込みたいことでもあるの?」

「ああ、分かってたから敢えて変な言い方を。ええ、そんなところです。間違いだと、ちょっと困りますから、誰もいないようなカフェを……どっか、お勧め知ってます?」

「言い出しっぺがその場所を知らなかったの? てっきり、分かってるかと。まぁ、任せて。SNS映えそうなカフェとか一杯調べてるから、ついでにこそこそ話ができそうな場所も知ってるわよ!」


 赤葉刑事と別れ、一旦僕と知影探偵は何知らぬ顔で家を出させてもらう。部長や他の人がいると話がややこしくなるそうだから、ただただ平常に振る舞った。部長にも「ちょっと警察の資料を確かめたいから」と嘘を付いて。

 後はSNSで知影探偵が梅井さんを指定の場所へ移動させてくれれば、それで良し。彼女のおかげで呼び出すことにした。

 何というか、酷く古いカフェに、だ。蜘蛛の巣が頭上に張り巡らされ、ミステリー風味漂っている場所。下には何だか赤い液体が付いていて、この場所で殺人事件でも起きたのかと錯覚してしまった。

 待ち合わせをして入ったカフェの中で店員にテーブル席に案内される。梅井さんと僕が向かいに座ったところで、こちらの隣に来た知影探偵に文句をぼそり。


「あの……何で、こんな場所に」

「いやぁ、前はこんなんじゃなかったんだよ。もっとオールドチックな場所で……」


 こんな場所では梅井さんも緊張するだろう。そう心配していたのだが、彼女は顎に手を当ててふっと笑っていた。


「こういう怪しい雰囲気が好きなの、氷河くん、知影ちゃん、分かっててくれたんだ」


 結果オーライか。

 知影探偵に「ほらみなさい」と言われる前に「ありがとうございます」と感謝の言葉を告げておいた。

 さて、おふざけはここまで。これからが本題だ。


「梅井さん、何かここで美味しいものを食べる前に大事なことを……聞いてもいいですか? ダメなら強制はしません。僕が考えた話をそのまま警察に話します」


 そこで彼女はぐっと目を閉じる。少し考える時間が欲しかったらしい。少し時間を隔ててから、僕にこう言った。


「何が分かったの? うちが犯人ってこと? その証拠を見つけてくれたの?」


 頷かせてもらう。同時に知影探偵もうんうんと首を振ってから、ギョッとした目付きでこちらの肩に手を置いてきた。


「えっ、氷河くん分かったの!?」


 彼女を取り敢えず押しのけてから、言い放つ。


「ええ。分かりましたよ。梅井さんが犯人だと言うことが、ね。但し、殺しの方ではありません。この事件を滅茶苦茶にした犯人です!」


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る