Ep.8 カップラーメンの怪事件
「一票」
後ろから突然、知影探偵が意味が不明な一言を放ってくる。まだ映夢探偵が何を言い始めているのかも理解できていないのだが。
「何に投票してるんですか?」
一応、対話を図ってみるとそれなりの答えは出してくれた。
「いや、カップラーメンを半間さんが食べたまま、そのまま忘れちゃったか、誤魔化してるかに一票! それか本当はなかったけど、映夢くんが探偵ごっこをやるから付き合ってあげてるんじゃないかしら」
「……まぁ、そうですかね。でも、何で映夢探偵はいきなりラーメン消失事件なんて」
「殺人事件の謎を解きますなんて公表したら、警察にも他の人にも怒られるでしょ。勝手に事件のことを口外して警察の邪魔をするな、だとか……だから違う事件を出し、その中で自販機館に残る謎を見つけてくれって、君に言ってるんじゃないかな」
「ぼ、僕に……」
彼女は彼の狙いをすぐに察していたみたいだ。事情を僕に教えた後、突如として走り出した。
何かと思えば、彼女は事件を別の視点で調査すると言ってきた。
「今回の事件って全く動機が見えてないなぁって思って。半間さんか硯さんのどちらかにあれば、犯人を見つけやすくなるかも! 半間さんは広報の記者だから……まず、そっちを調べてくるっ! じゃっ! 氷河くんは映夢くんのライブ見てるのよ!」
彼女の姿が消え、僕はラジオの声に耳を傾けることとなる。それにしてもラーメン消失事件とはどういうことか。
すぐに映夢探偵の声で解説が入った。
『この女性が買ったラーメンが消えていた……買ったはずのラーメンが手元になかった。これは
今度は半間さんの少し曇った声が聞こえてきた。たぶん、音声を変換する機械が使われているのだろう。
『そうよ。あのラーメン。折角、家に帰って食べようとしてたのに』
次に硯さんの声も少々重くなって流れ出していた。ある意味、アニメによく出てくる犯人みたいな声だ。
『たまたま買うのを忘れていたってだけじゃないのかい?』
『そんな訳ないでしょ! ちゃんとこのラーメンだけはって言って、買ったんだから』
そんな二人が口論を始めた途端、映夢探偵は違うところを指摘した。
『確か玄関の方は見てくれている人がいたから……そのラーメンの自販機の後ろにちょっとある隙間。そこに窓もあって。ここから入ってきた何者かがラーメンだけを盗んでいった。そう考えるんじゃないか?』
そこで窓がバンッと開く音。映夢探偵が「あっ」と声を漏らす。窓の外に落ちているらしい。
『このカップ麺で間違いないですよね』
誰かが水を飲み、途中からラーメンなんかを啜るような生活音がするのだ。音声だけのライブでそこまで邪魔な音が入っているのに対し、映夢探偵は気にしていないらしい。
その音が途中で途切れ、半間さんが同意していた。
『そうそう! 何でこれ! あたしのラーメンが……!』
『ちょっと待って! 自分が窓を乗り越えてみてくる……』
窓から飛ぶと共に地面に着地した様子が音から察することができた。半間さんはそんな彼に質問をする。
『ど、どうなの?』
『完全に中身は空だ。カップの中には箸は入ってなくて、調味料は適当に開けられた痕跡だけが……気になるのはお湯が入った形跡もない……』
殺人事件が起きた場所で奇妙なカップラーメンの窃盗。どう考えても事件と結びつくことはないのだけれども、疑問にはなる。
何故にそんな変な食べ方をしたのか。
泥棒だとしても、家に帰って食べれば良い。せめて、家がなくとも公園で水位入れてから食べた方が……。
そう悩む間に知影探偵からメールが送られてきた。一度、ライブからメールの方へと移行する。
『一応、知り合いの刑事から情報が。湯切さんが死亡した場合、市や財団にお金が入るよう、なっているんだって。これが動機になるか、分かんないけど……』
そう言われてハッとした。硯さんは知り合いで金の貸し借り関係でトラブルが起きて、湯切さんを殺害する恨みはあるかもしれない。しかし、記者である半間さんには一見、金目当てという殺す動機があっても憎む動機はない。
ふと疑問が湧き出た。
『地獄に落ちるわね』
ラーメンの自販機前で半間さんが吐いた奇妙な言葉。あれは何か恨み言を呟く硯さんに呼応したものではなく、違うものに対しての発言だったのではないか。
だとすると、落ちるのは彼女。半間さん自身。半間さん自身が地獄に落ちるようなものではなかったか。
「このラーメンだけは」との半間さんは喋っていた。つまり、その自販機の目玉商品ともなり得るようなもの。地獄のような激辛は企業が挑戦的に作っているものがある。企業側から押し出され、目玉商品となっていても何の不思議もない。
でも、そんなことがあるのか。辛いラーメンが盗まれ、食べられるなんて。
盗まれたカップ麺が僕の予想通りのものか、メールの画面からライブの画面に戻り、チャットで尋ねてみた。「そんな馬鹿な、そんな訳があるはずない……」と思いながら。そうであってほしくないと願いながら。
『そのカップラーメンって辛いものじゃ……』
僕がコメントを送った瞬間、映夢探偵は『おおっ、ここで視聴者から事件に関しての質問だ』と言う。そして、何百人もいる視聴者の中から的確に僕のコメントだけを選び取った。
『ああ。見るからにまさに燃えそうなパッケージ。まるで半間さんのような細い女性が食べて大丈夫なのかと思える程に辛そうな激辛ラーメンだな……』
「嘘だっ!」。
心の中にいるもう一人の僕が叫んでいる。
たまたまカップ麺があったとしよう。それを何故、盗んだ瞬間に食べたのか。たまたまやってきた泥棒も普通は渋るはずだ。どうせ食べ物を盗むのであれば、他のラーメンでも良いはずだ。
何故、激辛だけを……? 何故、お湯、水すらも入れずに食べる必要が……?
「意味が分からない……何でそんなことをする? 殺人事件はたまたま絡んだものだったのか……? それとも殺人事件に……?」
いや、関係しているのであれば、更に不可解だ。犯人が狂っているレベルどころの話ではない。もし、三人の中に犯人がいるとして。
アリバイも作って安心している奴が何故にこんな奇行に走るのだ!?
「訳が分からなくなってきた……!」
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