Ep.9 推理は膨らんでいく
しかし、その話通りになると奇妙な話だ。ディフェンサはストライカーの「犯人を殺してやる」宣言をトイレで聞いているはずなのだ。それなのに殺人をした際、奪ったものをうかうかとポケットに残しているだろうか。
別にディフェンサがここで菓子を食ってから、死にたいような様子をしている訳でもない。今更だが、覆面をしながら菓子を貪る強盗犯の姿は非常にシュールだ。そんな奴からは死にたい人特有の暗さも感じない。
と言っても、完全に僕の主観だ。本当に死にたい人がどんなことを考えているかは分からない。
一応だけれど、ストライカーのいないうちにディフェンサへと質問してみる。
「このレシートって……」
「気付いたらポケットに入っていてのぉ……」
他の人の名前を言う訳でもない。ディフェンサの言い分としては何も知らないよう。
僕はこそっと映夢探偵にも伝えていく。
「バレないようにポケットに入れることならできると思うんだよな。ディフェンサのズボンのポケット結構大きいし」
「しかし、それだったら真犯人は何故ディフェンサが犯人だと告発しないんだ?」
「……言おうとしていて機会を逃した、とか? 下手に告発して。もしディフェンサがこっそりレシートを入れてたのを知ってたとしたら」
「確かに、な。分かったぞ」
「じゃあ、そこまで考えたところでウイングのところに行こうか」
他の容疑者にも聞き込みをしておこうとレジ前にいる知影探偵とウイングの方に向かってみることにした。
今は部長が見張ってくれてもいるから、ウイングの奇行もない。ストライカーと同じく危険な奴で、殺人もやりかねない人間だ。
そんな彼から知影探偵は様々な情報を得ていた。
「あっ、おかえり。二人共、どうなの? こっちはまぁまぁ。強盗計画の目的については聞けなかったけど。被害者のことを、ね」
「被害者……?」
「力也くんのことよ。強盗を計画する際、ストライカーの家に行って。被害者を見たんだけど。ストライカーと強く口論しているのを聞いてたらしいわ」
「何のことで?」
「家計とか、そういうことみたいね。実のところ、ストライカーは会社の上のミスを全部押し付けられ、理不尽な形でリストラされたらしいわ」
その情報は初めて聞いた。強盗の動機がストライカーにあった、と言うことか。ならば、ウイングは。ならば、ディフェンサは。
そう考えている間に映夢探偵もただただ黙って何かを考えていた。
僕はもう一度ウイングに話をしてみようかとするも、何を聞こうか思い付かなかった。それに僕が「あれ、ウイングは何処に?」と聞いてみると、知影探偵は「菓子コーナーの方に」とのこと。
三人強盗が集結しているらしい。僕、映夢探偵と知影探偵もそこへと向かうことにした。
ううん、今、特に思い付くこともない。謎だらけ、だ。ディフェンサが犯人ではない証拠もない。
それにしても疑問だ。本当に真犯人がいるのだとしたら、何故ディフェンサを犯人役にしたのか。ストライカーか、ウイングに擦り付けた方が皆、「こいつが殺人犯だぁ!」と納得すると思うのだ。
ストライカーは拳銃、ウイングは包丁で僕達を脅してきた前科がある。それに対し、ディフェンサだけは大人しい。それどころかヒョロヒョロした体つきからは、被害者に反撃されて逆にやられてしまいそうな程、
もう、それ程時間も残っていないのではないか。
恐怖が僕の思考を回転させるも、答えを見つけてはくれなかった。誰が犯人だ。
「ヤバい、このままじゃあ、無実かもしれない人を犯人にすることになるかも……」
そんな僕の悩みに別の思考で呼応した人がいた。
「ヤバい、見逃してた。こんなところに売ってたんだ。SNS映えするフーセンガム」
知影探偵が地面に落ちているゴミを見て、絶対しなくて良い話をしている。確かにこの店に来た理由がそのお菓子だとは聞いていたが。
こんな緊急事態で話そうとしている話題でないと僕は知影探偵にツッコミを入れた。
「何を気にしてるんですか! ふざけてるんですかって、前に誰かに言ったなぁ」
責める僕に対し、彼女は反論する。
「いや。でも、そのためにわざわざ、ここに来たんだから。全く、このフーセンガム! 後で買えないかな」
「ってか、もうディフェンサがまとめて食べてましたから……」
「ガムが好きなのかしら」
「そうみたいですね。他のガムも……えっ……」
そのガムの一言で僕の頭がまた動き出す。まさに悪食を象徴しているディフェンサ。彼の姿から真実が見えてきた。
犯人の取った行動は分かった。後は、犯人だけ。それさえ判明すれば、事件は解決する。
そう焦った瞬間、映夢探偵は大きな声を上げた。
「あっ! ああっ!」
僕の耳元でやられたものだから、不愉快な感情が湧き上がる。
「……おい……一体、どうしたんだって言うんだよ」
「いや、ディフェンサのことでちょっと」
「ちょっと?」
「ガムが好きって言うから、思い出したんだ。あの人の正体を」
「えっ?」
映夢探偵が見つけ出した真実。それが明かされた。
「あの人、ホームレスじゃないか? 駅近くにいるんだ。ガムが好きな……」
「何、それは本当なのか!?」
「防犯カメラで見た姿と声……服とか、匂いとかがだいぶ変わっていたから、最初は気付かなかったが……でも、まぁ、こんなんで」
彼は「犯人が分かる訳ないだろう」と言おうとしていたのだろう。僕のやる気を前面に押し出した顔が彼の発言を邪魔してみせる。
彼は「何でそんな顔をしてるんだ」と言わんばかりに口を開け、異様な表情を見せている。
「分かったんだよ。お前の推理をぶっ殺す方法がな」
「えっ、ボクの推理を殺すだと……!? えっ、一体!?」
「まあ、謎が消えていったってことだ……ストライカー達に後は二つだけ確認を取って、それが合ってれば……。犯人も分かるんだ」
そう言ってすぐさまストライカーの元へと僕は走る。知影探偵や映夢探偵が「ちょっ、待ってよ」と叫ぶのも気にしていらえない。
僕はストライカーの前で質問を言い放つ。これは事件に関係のあること、だと説明しながら。
「ストライカー。最後の質問が二つ。犯人を知るためには面識のことを確かめたい。犯罪の場合、犯人と被害者は顔見知りという関わりがあることが多いって統計がある。強盗だとしても、な。顔見知りの方が狙いやすいらしいんだ」
顔見知りの話は本当だ。今まで僕達が関わってきた事件もほとんどが知り合い同士以上の関係。
「それが何だ?」
「作戦会議は毎回、ストライカーの家で行われたんだよな?」
「ああ? ああ。それが事件に関係あるのかよ」
「ああ、それで一つ目の質問だ。喧嘩とかはなかったのか?」
「ねえよ。ウイングやディフェンサが犯人とでも思ったのか? 残念ながらアイツにはほとんど見られてねえよ。アイツは学校に行ってたからな……たぶん、ギリギリ家の中にいるのは見られていないはずだ」
「……ギリギリ?」
「いや、あいつがその後、すぐ帰ってくることがあったからな。あの時はヒヤヒヤしたぜ……バレたかと思った。アイツは『知らねえ』って言ってたし」
取り敢えず、一つ目の情報はゲット。もう一つの質問も投げてみる。
「じゃあ。ディフェンサと息子さんは遭遇することはなかったか? あの人、ホームレスだったんだろ?」
「……あってもディフェンサ自身が外で言いふらすことはしねえって信じてたし。それはねえと思うぞ。だからトラブルにもなんねぇと思う」
「ほぉ……」
さて。だいたい目ぼしい情報は入った。
「おい。下らねぇ、意味のねぇ質問ばかりしやがって。そんな時間はねえだろ」
ストライカーは僕の長ったらしい質問に苛ついたのか、こちらに銃口を向けて来る。理不尽だ。殺人に関係のある事柄なら聞いて大丈夫と言ったのは、彼だ。
まぁ、良い。今の奴には僕を殺せない。この言葉を吐けば良いだけ。
「謎は解けたんだ。今から推理ショーを始めようと思ったんだが。このまま僕を撃ち殺したら、事件は迷宮入りだぞ?」
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