Ep.10 仲間も謎も切り捨てて

 強盗犯に頼み、店の休憩室に集まろうと提案したのだが。ストライカーは「レジ前でいいだろ。そこに強盗犯の容疑者を全員移動させたら人質が逃げる可能性があるからな」とのこと。

 あまり人前で推理ショーをしたくはないのだが。拳銃で脅されているからには仕方がない。

 僕達探偵と強盗犯全員がレジ前に集まると、ストライカーが宣言する。


「今からこいつが推理を見せてくれるそうだ。おれの息子をむごたらしく殺した奴を……見つけてくれるそうだぜ!」


 一つだけバイトの伊藤さんがお願いした。


「そ、その推理ショーの前に拳銃を置いてく、くれませんか? もし、推理が間違ってたら犯人指名した際に無実の人間がう、撃たれてしま、しまうかも、だから……」


 確かに彼の恐れている通りだ。僕も後から言っておく。


「そうですね。拳銃は一旦、その場に置いてください。犯人の名前を聞き間違えて、違う人が撃たれるという悲劇は避けたいですから。今のアンタは冷静じゃない。拳銃を持っていると危ないんだ」


 勿論のこと、犯人が撃たれるのも避けておきたい。口に出しては言えないが、これが本当の狙いだ。

 拳銃の恐怖に対し、怯える人もいたけれど。ここまでのやり取りで強盗犯に対し、哀れみの目を向ける人。憎しみの視線をぶつける人。人質である客の中でもだいぶ考えることが変わってきた。


「大事な人を亡くした気持ちは分かるわ。落ち着いてちょうだい」

「……そうだ。拳銃を置きなさい。気持ちをたかぶらせてもいいことはないぞ。自分を傷付けることにもなるかもしれない」


 人質の客から掛けられていく言葉。ストライカーは予想外だったであろう。その上、強盗に対して温情を向けられるとは思ってはいなかったのだろう。

 強盗「うるさいぞ! うるさい……うるさい」と少々弱い声で吐き捨て、拳銃を床に叩きつけた。

 ハッとして、映夢探偵の行動を確かめる。彼は僕の隣から拳銃を奪おうと駆け寄っていた。しかし、僕は腕を彼の前に出して制止する。当然、疑問が投げつけられた。


「何で止めるんだ」


 冷静になるよう、言っておく。


「ここで拳銃を取っても、ぎくしゃくするだけ。今はああやって落ちていた方がいいんだ。皆さん、拳銃は取らないように。そこに置いてあるだけでいいんですよ」


 ついでに他の人も野蛮な勇気を出せないように、伝えておく。まぁ、取る気力がある人は映夢探偵以外にいないような気もするが。

 その忠告の後にストライカーから、命令が来た。


「おい……そろそろ教えてくれよ。犯人は誰だっ!? 誰が力也を殺したんだっ!」


 湿った空気の中。強盗犯に注目されているという事実に緊張を隠せない。鼻が詰まり、冷や汗が出てきた。

 だからギャラリーはいないものだと意識する。ここにいるのは、知影探偵と部長。イレギュラーとして、容疑者達だけ。

 そこで推理を話すのだと思い込んでから、今一度口を開く。


「では、まず……皆さんが気になってる犯人探しを始めよう。この事件、犯人を突き止めるために強盗犯の計画を知ることこそが重要だった」


 その発言にウイングがいち早く反応した。


「何やて!? 誰か強盗犯の計画バラシたんか?」


 そこでストライカー達が口論にならないよう、素早く僕が話しておく。


「いえ。コードネームや強盗犯のやっている行動からして判断したんだ。ストライカー。アンタ達がどうやって逃げるか、を考えたら犯人は一発で分かる」

「何だと……!?」


 ストライカーが驚いてこちらを睨んでいる中、僕はコードネームから考えた疑問とその推測を語っていく。


「ストライカー。ウイング。ディフェンサ。まぁ、最後はディフェンス。これって映夢探偵。サッカーの用語だったんだよな?」

「そうだぞ!」

 

 映夢探偵から聞いた役職を元に今回の強盗で現れた一人一人の行動を振り返る。


「ストライカーは拳銃を持って。リーダー的な存在として、どんどん前へ出てきた。で、ウイングはストライカーを援護するように補佐していた。コードネーム通りなんだ。やっていることは。でもディフェンサだけは違う。何やら菓子をバクバク食ってるだけだった」


 知影探偵は今回も受け身になって聞いている。


「そうよね……見てたけど。菓子を食うはディフェンスとは何の関係もないわよね。どういうことをするの?」


 スマートフォンが取り上げられてしまった今、やる気が急激に落ちているのか。理由を考えはしなかった。

 まぁ、良い。余計な口出しをしないので問題はない。


「ただ、強盗犯の逃亡方法を考えれば見えてくる。あのまま普通に強盗が成功していれば、警察を呼ばれていない状態で強盗犯はそのまま消えることとなる。だけれども、その場合、拳銃で脅しながら逃げたとしても、扉を開けた際に後ろから追ってくる人は間違いなくいるだろう。その際のディフェンスじゃないか?」


 少々の沈黙の後、部長が「はっ!?」と声に出してから僕の言葉について確かめた。


「それっておとりってことか?」


 映夢探偵はその発言に信じられないと告げる。


「仲間想いのストライカーがディフェンサを……!? 何かイメージが……だって風呂に入れてやったんだろ? 菓子を食わせて喉が詰まるとか、そういうのを心配してたろ? それなのに、か?」


 彼はストライカーの行動に矛盾を感じるのではないか、と僕に訴えている。どうやら、映夢探偵は全く気付いていないらしい。

 僕が事件を最初から振り返り、気付いた不可解な事実のことを。しっかり説明しておいた。


「覚えてないか。君が今後は安泰だって言った時、一番大人しいディフェンサだけが妙に考え込んでいたんだ」

「えっ、そんなことが?」

「ああ。つまるところ、ディフェンサはこのまま帰っても安泰はないと考えたんだろ」

「……安泰が……ああ、そういうことかっ!?」

「ああ……その通りだ」


 ディフェンサの正体を直接知っている映夢探偵だからこそ気付けたのだろう。知影探偵の方はまだ分かっておらず、「説明求む!」と叫んでいた。

 僕が話そうと思ったら、先に映夢探偵の口が動く。


「ホームレスなんだ……あのディフェンサは。つまり、こういうことだ。この強盗に参加するのは逃げて大金を得ることじゃない。ストライカー達に協力し、この店にあるお菓子を腹一杯食わせてもらって、警察に捕まることだったんだ!」


 言われてしまった。先に推理を取られたのが不満なのではない。ディフェンサのプライバシーを守るためにも「ホームレス」の言葉をどう誤魔化そうか考えていたのだ。幸いディフェンサは何も気にしていなかったのか。


「まぁ、そうじゃの……見抜かれてしもうた」


 素直にその言葉へと反応していた。次の瞬間、納得のいった知影探偵が喋り始めた。


「そうか! 警察に捕まれば、家がなくて収入がなくて路上で野垂れ死ぬなんてことは避けられるわ。留置所や刑務所で普通よりはいいご飯が食べられるし、そこには仲間がいるから、差別的な目は向けられない。路上よりは間違いなく、ハッピーな生活ができるでしょうね」


 そんな事実を明かしたところで僕に対してストライカーが詰め寄った。


「おい……ディフェンサのそういうところが分かったとして、犯人の何が分かるんだっ! 強盗計画の何が犯行に関係してるっつうんだよっ!?」



 


 

 

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