Ep.7 仲間想いの親切さん

 店長のご厚意によるものと言うか、拳銃で脅迫されてどうしようもない緊急事態の焦りから動いたものと言うか。とにかく彼の協力により、防犯カメラを見せていただいた。


「これでどうだ?」


 休憩室の裏にあるモニターから流された映像は、トイレに入るには必ず通らなければならない場所。トイレに窓はないが、商品を勝手に持って使う場所にはうってつけだ。本来は、そんな万引きを防止するために防犯カメラは仕掛けられているらしい。

 被害者の力也くんが入ってから、僕がトイレに入る前までを限定すると、モニターには四名の人間が映ることとなる。知影探偵は真正面から覗く僕の横からその映像を視聴して「ううむ」と唸っていた。

 原因はその映っていた人のこと。


「被害者の子が入った後からよね。その後にちょっと白髪交じりの人が入って。次にちょっと肩幅の大きい男……それから、命乞いの激しかったバイトの子で。ストライカーが強盗犯として入って。最初の二人って誰!?」


 この体格似ている人がいたような気がする。そして、僕が強盗犯に対して思った違和感を照らし合わせれば、真実が見えるかも、だ。

 僕は後ろから映像を見ていたストライカーに質問する。


「これってもしかして、下見に来たディフェンサとウイング、か?」

「何故そう思うんだ?」


 彼は「正解」とは言わなかった。だから、自分から正解と言わせるように情報を出してみる。


「いや、最初にお前達と追いかけっこをした時……ウイングが追い掛けてきた時だ。ウイングは何故か、僕が逃げた介護用品の通路、トイレにある、その道を通らなかったんだ。そこを突っ切れば、間違いなく僕を捕まえられるのに、ね」

「あいつ……ああ……」

「ストライカーも知ってるようだな。あそこが滑りやすいってことを。あの事実を知ってたんなら、その前に下見に来た人がいる。トイレに窓がないか、逃げ出せるような場所がないか、確認に来たんだろ? ウイングとディフェンサが」

「よく、分かったな……そうだ。仲間の顔を晒すことになるから、言いたくはなかったが。そこまで見抜かれちゃあな」


 息子のために真実を探したい割に仲間の肩を持つ。そこが新しい違和感として、僕の心に残ってしまった。

 仲間が殺人を犯していないと信じているからか……それとも。

 そんな疑惑を僕が抱く中、映像を何度も再生している映夢探偵はモニターに顔を近づけていた。知影探偵が注意している。


「そんなに顔を近づけると、眼鏡を掛けなくちゃいけなくなるわよ。映夢くん」

「ああ……申し訳ない。何だか、この顔、見たことがあるような気がしてな」

「えっ」


 知影探偵がストライカーの顔を見て確かめようとするも、その前に脅しを喰らっていた。


「捜査に関係してるのか?」

「い、いえ」

「だったらそんなの気にするなっ! 捜査に集中しろ! 警察がこのことに気付いて、ガラスを突き破ってきたりして……仲間を撃ち殺したりでもしたら……」

「あのね……そういうのは……やっぱ、何でもないわ」


 知影探偵は唇を尖らせようとしたが、何を言っても答えてくれないと思ったのか、反論を諦めていた。

 今のやりとりから推測すると、ストライカーは何か事件に関わっているという証拠がなければ、自分達のことは語りたがらないようだ。強盗に関して色々尋ねたいこともあるけれど。関係している証拠がない以上、どうしようもない。

 今は殺人事件に集中するしかない。

 容疑者が絞れた以上、聞き込みを開始しよう。僕と探偵達はストライカー立ち合いの元、レジ前に一回集まった。

 込み入った話は人質の耳にも入ってしまうが、今は気にしている場合ではないよう。心の中で容疑者、特にバイトの少年には謝っておく。

 謝りついでに彼から疑わせてもらうことにした。ちなみに知影探偵と映夢探偵はウイングに聞き込み中。


「すみません。ちょっといいですか……ええと、伊藤さん?」

 

 バイトの彼がエプロンに付けている名札には伊藤との二文字。そんな伊藤さんは僕の誘いに怯えた反応を見せた。


「ご、ごめんなさぁい! 許してください!」

「な、何ですか、いきなり」


 僕まで飛び上がって驚いてしまうところだった。彼は僕が強盗団の一味になったと勘違いしているらしい。


「強盗に寝返ったんじゃないんですか?」

「何で、です!? 違いますよ。そりゃ、そのストライカーって強盗犯の指示には従ってますけど、殺人事件の犯人を見つける上です」

「自分じゃない自分じゃない!」

「……では、トイレに行った際は何も違和感はなかった……と?」

「うん。確かにトイレに行ったけど、個室には入ってないんです」


 僕は何度も首を縦に振って相槌あいづちを打つ。それと同時に次に聞くべきことを考えていた。


「あ、あと……店長に聞いとくべきだったんですが、忘れてたことがありました。トイレ前が滑りやすくなったのって、何故なんです?」

「ああ……洗剤を自分が零したんです。あれは不幸な事故だったんです」

「不幸?」

「本当に偶然ですよ。自分が中身を切ったりとかしてませんからね!」

「そこまで念を押さなくても大丈夫です。商品に不備があって。それで転んだ、と……」

「はい。一人トイレに行こうとする人を洗剤で転ばしそうになってしまいましたよ……」

「えっ? その人は洗剤がぶちまけられてる中に入ってたんですか?」

「ええ。トイレに急いでたか、酔ってたかもですね……そう言えば、その体格……ああっ! あの小さい強盗犯にそっくりです!」


 つまるところ、ディフェンサは強盗計画のことで頭が一杯。床の汚れを気にしている暇はなかった、と。

 洗剤について、は重要な証拠になりそうだ。もし洗剤が被害者のところに付着していれば、洗剤が靴に付いていた者が犯人と言えるかも、だ。容疑者をかなり絞ることができる。

 そう考え、洗剤のことを詳しく尋ねることにした。


「そう言えば、その足で歩いたとなるとトイレの中とかはもっと汚れません? あんまり洗剤で汚れてるようには見えませんでしたが」

「あっ、大丈夫です。その人にはすぐ雑巾で足を拭いてもらったので」

「なるほどです……」


 ダメだったよう。雑巾の繊維は付いていても、洗剤は被害者に付かない、か。

 証拠が見つからず。今度は話題に出たディフェンサに尋問をしてみよう。そう思い立つもディフェンサの姿はレジ前から消えていた。

 ついでにストライカーも、だ。

 キョロキョロしていたら、近くにいた部長が一言。


「ああ、お菓子売り場に行ったぜ」

「えっ……」


 何を、と思えば、ディフェンサは覆面の口から商品である菓子を開けて食べていた。がつがつと勢いよく。これまた食われる方も幸せだと思う位にがっつり、だ。

 ストライカーはディフェンサに菓子を渡しつつ、むせた時にはペットボトルの水を提供していた。

 何故か勝手についてきた映夢探偵がコメントを入れる。


「むむむ。ストライカー、随分仲間には優しいんだな。仲間を思いやる心には感心かな!」


 僕は内心「君はウイングの方を聞き込んでいたんじゃないのか?」と疑問を抱きつつ、彼の言葉にツッコミを入れた。


「いや、あれ全部盗品だからね。仲間は思いやってもスーパーの方の損害は計り知れないからね」



 

 


 

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