Ep.6 殺人現場から消えた謎

勿体もったいぶるなぞ、ちゃんちゃらおかしいぞ。早く言いたまえ」


 僕を急かす映夢探偵。見かけの割に不思議な口調の方が不可思議だと言いたかったが、ぐっとこらえておく。

 今は推理を話すべきだから。

 被害者の家から遠いから何か、説明しなければ。


「今のところ考えられるのは、二つ。被害者が何者かに呼ばれて、このスーパーにやってきた。もう一つ、被害者が何かあると思い、止めるためか、協力するためか、このスーパーに来た……」


 今度は知影探偵が尋ねてきた。


「その何かって……もしかして」


 少々彼女も気付いているよう。そこを僕は的確に教えていった。


「たぶん、前者、力也くんは何か重要なことを知ってしまって呼び出され、強盗に関係する誰かに殺された……後者の場合、強盗に関わろうとして殺された。この場合、たまたま強盗殺人、通り魔や無差別殺人が起きた……って考えるより」


 僕が発言する途中で知影探偵は頷いた。


「氷河くん、この殺人は強盗が関わってる可能性が高いってことよね!」

「そうです。と言うことは……」


 またも僕の発言が遅いためか、ストライカーは怒鳴る。


「おい! それが何なんだっ!?」


 もう怖がっている心の余裕もない。無心になって、推測した可能性を語る。


「つまるところ、強盗犯の中に殺人犯がいるかもしれないってことだよ。ミステリードラマで言えば、この中にまだ犯人はいるって奴だっ!」


 ストライカーは自分が疑われたことに腹を立てたのか、血走った目をこちらに向ける。


「おい……おれが犯人とでも言いたいのか!?」

「そうじゃない。可能性があるってだけだ。無実なら堂々としてればいい! 後……映夢探偵にお願いがあるんだ」


 映夢探偵は突然指名されたことに対し、首を傾けていた。


「何か用か?」

「犯人がこの中にいる可能性が高い。特にこの数時間だな。トイレ近くの防犯カメラで撮った映像が見たいってことを店長に伝えてくれ。ストライカー、これで犯人をだいぶ絞れるかもしれない」


 僕の組み上げた論理が信用を成したのだ。


「探偵、行ってこい!」

「承知した!」


 ストライカーは素直に僕の命令に従い、映夢探偵をトイレの外に出してくれた。

 後、トイレの中ですべきは彼が入った時間を調べること。


「さて……じゃあ財布を調べてみようか。時間を調べたい」


 胃薬を買っていると言うことは、レシートがあるかもしれない。バイトの少年が言っていたことを振り返ると、レシートを打ったのはトイレに入る直前であるはず。

 そこに刻まれた時刻を確かめれば、防犯カメラの映像を巻き戻す時に役立ちそうだ。と彼の財布を確かめてみるも、小銭やお札は入っておらず、レシートがお札を入れるスペースや小銭を入れる場所に入っていた。

 随分ずいぶんとずぼらな性格だったよう。そう思うも、後ろにいたストライカーが財布を見て否定した。


「レシートはちゃんと取っておくように言っているからな。ちゃんとやってくれてたようだな。これが何か事件に関係してるのか?」


 一応、様々なレシートがあることからストライカーが言っていることの信憑性は高い。信じて良いだろう。


「……ああ、だから胃薬を買った時間から考えれば、死亡推定時刻が分かって。犯人も絞れるんだ。でも、あれ……おかしいなぁ。知影探偵も見てください」


 彼女も手袋をして、僕が見た後のレシートを確かめていく。ただ、何処にも胃薬を買った時のものが見当たらないのだ。ストライカーの話が正しければ、レジ近くで胃薬のレシートを捨てることはあり得ないし。

 知影探偵も顔をしかめている。レシートを犯人が持っていったのだろうか。知影探偵は彼女自身の推測を口にしていた。


「死亡推定時刻を分からなくするためかしら。お馬鹿さんね。そんなことしても防犯カメラの映像で分かっちゃうのに……」

「そうですよね」


 今のところ、殺人犯が偽装工作のために持っていったという説が濃厚だ。財布を見ていると、もう一つ。他のレシートを見る限り、この店に来る前に近くのコンビニで水を買っているようなのだ。

 たぶん、来る前に喉が渇いたのだ。店内にゴミ箱があるからペットボトルはそこに捨てたのだと思う。

 そこのレシートからすると、五千円払ってお釣りを四千九百十円貰っているのだ。

 おかしい。

 そんな僕が感じている異変とは違うことを知影探偵は発言した。


「そう言えば、払うお金が結構な量よねぇ。よく中学生がたくさんのお金を持っているわね」


 ストライカーが顔を下に向けつつ、彼の事情を話していた。


「あいつには母親がいないんだ……小さい頃に病気で死んじまってな。で、おれは仕事探しで忙しかった。だから買い物とかやりくりはあいつに任せていたんだ。だから、多く持っててもおかしくはないな」


 被害者の身の上話を聞いて、更に怒りが湧いてきた。絶対に犯人を許さないと言う気持ちを心に、僕は別のおかしな点についても話をした。


「じゃあ、その四千九百十円。いや、まぁ。胃薬を買ったとして。四千九百十円ピッタリってことはそうそうないよな?」


 知影探偵もストライカーも「そう」と首を縦に振って、反応した。つまり、被害者は幾らか犯人に金を盗まれているのではないか、と思う。

 そこから異変の答えを見出そうとすると、ついでにレシートの行方も分かりそうな気がした。

 僕はここで状況をまとめておいた。


「ええと、トイレで犯人と何かあった犯人は一旦他の人に見られないよう、この個室に鍵を掛け、それから被害者を殴ったか何かして気絶させ。それでトイレの便器に顔を突っ込んだ。殴ったって証拠は、被害者の首筋を見れば分かると思う」


 僕が死体発見時に見つけた証拠を知影探偵は「本当だ!」と確認してくれた。続きを話していく。


「それでその間に犯人は財布の中身を奪った」


 そこにストライカーが可能性を口にする。


「と言うことは、その際にレシートも間違えて、か?」

「そうだと思う。つまるところ、犯人はレシートを持ってる人の可能性が高い」

「じゃあ、人質を全員脅して……」

「待て。そんなことをしたら、調べてることがバレてこっそり捨てられるかもしれない。ここは大人しく、こっそり調べないとだ。強引には調べられない……」

「ううむ……!」


 奴を落ち着かせた後に、犯人はどう鍵の掛かった個室から逃げたのかを話す。こうすることで皆が状況を理解し、調査を円滑に進められると思うから。


「その後、便器の端に乗って、もう一つの個室に飛んだんだ。そうすれば、ここを強引に開けるまでは被害者が死んでるとは分からないから。そうして、何喰わぬ顔でこの店から出ていったか。まだとどまっているか……さて。殺人者のゲス顔が防犯カメラに映ってるかも、な。行くぞ。防犯カメラの映像は確か関係者立ち入り禁止の場所で見れたはず……」

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