Ep.5 探偵が集まって

 強盗犯、ストライカーの言葉は重く、この中の誰よりも決意を持っていた。復讐をする。息子を殺した犯人を必ず殺してやる、と。覆面を取った顔から力強いまなこを光らせていた。

 この人は今まで出会ってきたどの犯罪者よりも恐ろしい威圧を掛けてきた。

 間違いなく犯人は死ぬ。

 犯人が分かる前に殺人犯を見つけないと、法に基づいた罰を与えられない。それどころか、もし誰かが間違って違う人を犯人としたら。それでその人物が犯人として射殺された後に、推理が間違っているなんてことが判明したら。無実の人が殺される上に一人二人、そのうち犯人ではなかった人質達で死体の山を築くことになってしまう。

 強盗犯の一人であったウイングが告げた。


「警察に頼ったら復讐はできんなぁ……警察ではないけど、あの探偵ってちゅう輩がいたはずや。アイツに頼んでみるか? アイツの拳銃に対する行動力だけは完璧や。そこそこ頼れるんやないか?」


 ストライカーは絶望と怒りに交え、「ああっ! そうしてもらうかっ!」と頷いた。その反応に僕は危険を感じずにはいられなかった。

 探偵が見せた判断。僕もそうではあるが、他の人質にも危害が加わるかもしれなかった。そんな探偵が収集する真実、信用できるものか。

 だから、嫌ではあるけれど。やるしかない。

 僕の探偵行為がどれだけ人に迷惑を掛けてきたか、分かっている。どれだけ人の不幸を呼び寄せ、人生を滅茶苦茶にしてきたのかも。

 しかし、僕だからこそ解ける謎もあるだろう。

 一人も犠牲を出さないためにも、探偵と立候補させてもらった。


「あの! 僕も探偵だ! 調査に参加させてくれっ!」

「なにぃ!? お前が、か?」


 ストライカーは悲しみと怒りの涙でくしゃくしゃになった顔を僕へと近づける。疑いはあると思う。死体を見つけた第一発見者が探偵だなんてミステリー小説のよう。

 頭が硬そうな奴のことではこんな空想事を信じそうにない。だから、僕は実績も付け加えた。


「ニュースでやってたのを知ってるとすれば、この前、とある学校で起きた女子高生の殺人事件を解決したのは、僕です」


 自慢するような言い方。他の客や強盗から集まった視線。これぞ、探偵という嫌な感じ。その後に知影探偵も話に入ってきた。


「ワタシも探偵よ。何度も特番でやってた山荘で起きた有名タレント連続殺人事件の犯人を暴いたの! 役立つと思う!」

「あっ、それ……僕が……いや、何でもないや」


 知影探偵が功績を口にしたおかげで皆の目は僕の方から去っていく。少しだけ緊張が解れていった。だから、一応彼女が僕の手柄を奪っていったことに関しては不問にしておこう。

 彼女は自分が探偵役として立候補したのを加え、ストライカーにアドバイスをした。


「まず、ここにいる人達、全員レジへ。そこからトイレには来ないように。もし、トイレがしたかったら。女子トイレに、と言うことで」


 他の客や残りの強盗犯もトイレから出るよう促してから、レジ前に戻らせた。事件現場を誰も荒らさないように、とのこと。

 ストライカーは「ううむ」と唸りながらも、自分についてくるよう僕達に指図した。


「後、人質! ウイング! ディフェンサ! 探偵の輩の邪魔になんねぇよう、レジ前に行けっ!」


 一旦、僕達もレジ前に来る。そこには目が覚めた部長と映夢探偵が地べたに座り、互いを見合っていた。部長が彼に対して何か言っている。


「何か、見たことあるような……お前」

「奇遇ですな。ボクも君をどっかで見たことがある。それに、さっきの男子! 彼は……」


 と何かを話そうとした際、素早く動いたストライカーが彼の後頭部を掴んだ。


「立てっ!」

「何をするっ!?」


 抗おうとする彼に銃口を突き付け、事件の経緯を話し始めた。自分の息子が殺されていたことを、だ。

 脅し文句は銃口を突き付けているのだから逆らえないと踏んで、何も言わなかった。

 映夢探偵はどう反応するか。


「本当かどうか見ないと、だ。そこへ連れていけ! 緊急事態だ。強盗の命令に従うことも止むを得ない!」


 すんなり受け入れた。何の葛藤もなく。何の悩みもなく。ある意味とっても羨ましい。

 部長にレジ前で他の強盗二人が変な事をしないように「見張っていてほしいです」と頼んでおいた。それから僕も知影探偵もストライカーについていく。

 

「何っ!? まさか、本当に死んでいるとはっ!? ううむっ! これはこれはっ!」


 トイレの中で映夢探偵の大袈裟な反応だけが響いている。驚いているだけでは何の手掛かりも得られないぞ、と彼の横を通り過ぎていく。

 ストライカーは後ろの方で僕達に不正や捏造がないか、見張っているから下手なことはしない。

 ただただ、調査するだけだ。

 死体を見させてもらった限り、いきなり犯人が分かるような証拠はない。だから別の物に注目だ。

 被害者である力也くんが何を持っているか。僕は証拠品に指紋が付かないよう、小さなレジ袋を使わせてもらう。そうしてから彼が買ったものを考える。

 と言ってもたいそうなものではない。胃薬だ。


「何だ、胃薬か……」


 映夢探偵は何でもないと言うように吐き捨てた。そこがまだまだなのだ。大したものでないから、十分に考査する必要がある。


「胃薬だから問題です。これって何処でも売ってますよね。知影探偵」


 いきなり質問を飛ばされた知影探偵は一瞬口を閉じるも、すぐに答えてくれた。


「ええ。普通に。『中林なかばやし製薬』の胃薬よね。ワタシもよく使うわよ」

「何処で買います?」

「そりゃあ、近くの薬局か。スーパーでも医薬品を取り扱ってるところがあるし、コンビニでも」

「そうですよね。だからこそ、おかしいんです」

「何が?」


 知影探偵もピンと来てないのか。

 僕は彼女達におかしいと思う理由を説明するため、ストライカーにあることについて確認を取った。


「ストライカー。息子とは別々に暮らしてるってことはないよな?」

「そんなことはないっ! 一緒に暮らしてたんだっ! 中学生なら普通だろ?」

「ああ、普通だと思う。と、考えて。もう一つ質問。ストライカーは捕まる気はなかったんだろ? だから、通報されないようにとスーパーの出口を全て閉めさせて、スマホを集めたんだから」

「そうだろ!? それが強盗として普通だろ!? だから、何だっ!?」


 ストライカーが声を荒げている。音量が更に大きくなる前に、僕の考えを伝えていく。


「普通、バレないようにってことは家の近所のスーパーを強盗のターゲットとしては選ばないだろ? もしかしたら来てる人の中に近所の人がいて。声を聞かれたりする危険性もあるし」

「ああ、家から遠いなっ! だからっ、何が分かるんだよ!?」

「ストライカー。落ち着いてくれ。何故、息子が遠くにあるこのスーパーまでわざわざ胃薬を買いに来たのか……もしかしたら……もしかしたら……だが」 


 



 

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