Ep.5 ワガママな生徒会長

 知影探偵との会話を終えて、赤葉刑事に頭を下げた。


「では、すみません。学校の方へ送ってもらっていいでしょうか?」

「分かったよ。で、どうする? 彼」


 彼女は苦笑して、川遊びを続けている部長を心配した。ここに置いていく訳にもいかないので、仕方ないが連れて行くことにする。

 しかし、濡れた足はどうするつもりなのか。

 そもそも赤葉刑事の車を汚すのも如何なものか。部長の常識に今一度疑問を持ちつつ、彼を呼び掛けた。


「部長、次の場所行きますよー! それとも、どうします? ここにいます?」

「行くぞー!」


 元気だけは百点満点。それ以外は零点だ。彼は川から上がって、駐車場の方へと歩いていた。僕も赤葉刑事もそちらへと足を進め、三人が集合する。

 そこでハッとさせられたことがあった。

 部長が足をタオルで拭いていたのだ。まず、そこに指摘を入れてしまった。


「部長がちゃんと足を拭いてる!?」

「タオルはちゃんと持ってきたぞ!」

「と言うことは川遊びする前提で来てたってことですか……!? ってかズボンも濡れてないっ! 何でそんな」


 僕がわなわなと震えている間に部長は彼が持っていた本当の意図を説明し始めた。


「そりゃあ、川に落ちたものを探そうとしたんだよ。もしかしたら、その黒川さんって人が被害者を止めた方法からして、何か川に落ちてると思ってな」

「えっ、部長……? 止めた方法って何ですか?」

「いや、簡単だろ。脅して止めたんじゃないか。もしかしたら、何本か川に撃ってみせて。今度は当てるぞみたいなことをしたんじゃないかな、と」

「ああ……そうだったんですか……」


 赤葉刑事も「なるほど……」と言っていた。残念なのは、もしそうだとしたら、とっくに捜査員が見つけていると言うこと。川に不自然なものが落ちていたら、目に付くであろうから。

 それでも部長の努力には感動させられたから、余計なことは言わないでおく。彼でも意外と事件のことを考えてくれていたのだ。

 彼は申し訳なさそうな顔をしてポケットに入れてあった僕へ二つのゴミを渡してきた。石ではない黒く丸いゴミ。欠けているのは石に押し潰されてしまったからか。


「これしか見つからなかったんだよなぁ。どっかで見掛けたような気がしたんだけど……」


 たぶん、ゴミなら何処でも見掛けるでしょうね。そう言いたいのをぐっと堪え、どう処分しようかを考えていた。

 そんなものを赤葉刑事はハンカチ越しに受け取って、「一応、これが何なのか。調べてみるね」と言っていた。赤葉刑事はお優しい人である。

 部長とのやり取りを終え、僕は次にすることを部長に伝えてから車の助手席へと乗り込んだ。部長も赤葉刑事も続いて乗っていく。

 それから、赤葉刑事はハンドルを握って僕達に今後の予定を告げた。


「取り敢えず、達也くんが必死で探してくれたこのボロボロのゴ……じゃなかった証拠をみんなに見せてくるね。で、その間に二人は面相高校で話をすると」

「はい」


 僕はそれでいいと頷いた。また要件が終わったら、学校の前で落ち合いましょう。確認を取った後に、学校へ着くまで少々時間ができた。

 部長が退屈だったのか、赤葉刑事に質問をする。


「あの……結構焦ってます?」

「そうだよ。犯人が捕まらないとね。一部の人はこれが通り魔でまた犯行が起きるんじゃないかって、心配してる人もいるし、いち早く解決させないと、ね」

「そうだよなぁ……でも、それ以外の理由もあるんじゃないですか?」

「達也くん?」

「早く解決しないと、赤葉刑事と彼氏の約束が遅れてしまう……とか?」

「からかわないでよ。彼氏なんていないよぉ。一応、もう一つあるのよ」


 僕が今度は彼女の方に首を回し、反応させてもらった。


「どんな理由なんです?」

「海外に逃げられてしまう可能性があるって理由だよ。張り込んでた刑事が言うには、犯行の後から身の回りのものを処分することが多くなったそう。本を売りに出たり、家具を引き取ってもらったり」

「海外によっては我々の手の届かない場所に逃げられてしまうこともありますね……」

「そうなる前に何としてでも逮捕しないといけないから、ね」

「そりゃあ、急ぎますね……早くしないとですね!」


 その数分後に学校の前へと到着した。お出迎えはいない。まだ部活の最中か。校門のところで下ろしてもらった僕と部長は赤葉刑事を見送ってから、学校の敷地内へと入っていく。

 さてはてと部長は辺りを見回しているようだが、何処にも手伝ってくれる人の影はない。彼は僕にどういう人なのか、と聞いてきた。


「なあ、氷河……そいつの顔とか、姿とか、どんな部活に入ってるかとかって聞いてなかったのか? まさか帰ってたりして……」

「ああ……すみません。聞いてないんですよ。ヒントがあるとしたら……そうですね。21HRの27番ってこと位しか。たぶん帰ってないとは思いますが」

「なるほど……じゃ、ちょっと待ってな」

「はい?」


 部長は駐輪場らしきところへ行き、すぐに戻ってきた。


「あったぞ。自転車が。たぶん、まだ帰ってねえと思うぞ」

「よく……って、あっ、シールがありましたね。出席番号を示すシールが」

「ああ」


 自転車の後ろに貼りなさいと言われていたシールがあるから、いるかどうかは分かったってことだ。

 後、するべきことはいるであろう場所に。

 そんな探そうとしていた最中、ポロシャツを着た男子が現れた。彼はスマートフォンを見つつも、僕達をじろじろと観察していた。その後、声を掛けてきた。


「君達だね。滝川くんの死を調べてるって子達は……探偵さんから聞いてるよ。別に問題はないし。ここで全部話しちゃおっか」


 僕達二人はすぐさま頭を下げた。「よろしくお願いします」の挨拶と名前を教えるのも忘れずに。

 ただ、彼の方は名前も言わず、事件の情報を口にし始めた。今から彼のことをポロシャツ男子と呼ぼう。

 ポロシャツ男子は僕達に被害者の基礎的な情報を提供してくれた。


「滝川くんはまぁ、変なことは言いたくないけど。まぁまぁ素行がいい方ではなかったかな。大人の前ではいい子ぶりっ子タイプだったけどさぁ、結構マナー悪かったかも。地面に唾は捨てるわ、購買で横入りはするわ」


 何か札付きの悪ではあったみたいだ。そうした彼が何故、生徒会長に……?

 質問しようと思ったが、ポロシャツ男子はこちらの発言を許してはくれなかった。


「まぁ、生徒会長になってからもそこは変わらず。と言うかもう暴走してたかもだなぁ。いきなり今の私服制度をもっとだらけたものにするだとか、授業中の携帯電話の使用を緩くするとか……ううん、でもまぁ、君達が聞いてきた、突然通学路で立ち止まるような癖は……聞いたことがなかったなぁ……学校に遅刻する訳にはいかないだろうし。立ち止まる理由……分かんないんだよねぇ……」

 



 

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