Ep.2 事件クイズ
赤葉刑事が事件の概要を語り始めた。
「まず、亡くなった子の情報なんだけど。滝川宗一くん十七歳。面相高校の生徒会長をやってた子なの……」
部長は期待されていることが嬉しかったのか、余計な口を挟む。
「まさか……生徒会でトラブルが起きて、その中で殺人事件が発生したって言うのか!?」
赤葉刑事は冷静な様子で首を横に振る。「犯人は生徒会とは全く縁がなさそうな人物」だと彼女は言う。
「違うのよ。その少年がボーガンみたいな矢で後ろからパンッと撃たれて、その後被害者が怯んでいる隙に思いきり車で歩道に乗り上げ、
僕は更に詳細を求めさせてもらった。
「ええと……何でそんなことが分かったんですか……?」
「目撃者が何人か。朝の道路でそこまで多いって訳じゃないけど。犯人が何をやっているか、分かる一部始終は……ね。結局、その後は歩道に乗り上げたまま、無理に橋の上を進んで小道を逃げてたってことみたい」
「……もう一ついいですか? よく、その目撃証言が巧く繋がりましたね。車が橋の上を通り過ぎるなんて、渋滞でもしてなきゃ、数十秒のことです。朝急いでいる人もいるでしょうし……数十秒の間に横を見た人が何人も……ってまるで橋の上を通る前に何人もの人が歩道の方で何か起こるのを知ってたみたいですが……それって理由はあったりするんです?」
「あるんだよ。ちょうどその橋を登る前に大きく邪魔な車があったの。皆、それを避けながら進んでいた後、すぐ近くでボーガンを使って被害者を襲ってたみたいだから」
「そうなんですね」
この話を聞いている限り、僕も部長も出番がないように思えた。部長なんて「別にないじゃん。オレ、必要ないじゃん」と自身の活躍を想像していた分、ショックを受けていじけてしまった。
指をいじっている部長に呆れ笑いしながら、赤葉刑事は「ここからが本題だよ!」と告げる。
「で、二人にお願いしたいのはここから、ここからよく聞いてて! その子の身長は君達よりも高くてだいたい百八十センチ位あるんだよ」
「だいぶ大きいですね」
「ええ……こぉんなに!」
僕は百六十七センチ。部長はそれより大きく百七十五センチあると言っていた。赤葉刑事は背伸びをして、そんな僕達よりも遥かに高いところに手を上げた。一応、僕がツッコミを入れてあげた。
「赤葉刑事。それ、たぶん二メートル位あります。まぁ、それだけ被害者がでっかいイメージだったってことですか」
「理解が早くてすっごく助かるな。じゃあ、この後も理解できるかどうか確かめるために部長の達也くんに小手調べのクイズ行ってみようか。その方が分かりやすいと思うし」
部長は不意を突かれて、「えっ」となっている。問題を言われる前に頭をガシガシ掴んで、悩んでいる。大丈夫なのだろうか。こちらまでヒヤヒヤさせられてしまう。
「一問目。その子が自転車に乗るとだいたい座高が九十五センチ。被害者の使っていた自転車……だいたい座っているサドルから地面の距離がだいたい八十センチ。さて、その子の後頭部に垂直に刺さるよう、矢を正面から撃つとなると、撃つ人物はどれ位の大きさでないといけないかな?」
簡単すぎる計算問題に僕は思わず、失笑してしまう。これは部長でも簡単だと思ったのだが。彼はまだ考え込んだまま、目を閉じて動かない。
いや、寝たのだ。赤葉刑事の話が長く眠くなったのか、難しくて頭の回線がショートしたのか。
部長を揺らし起こして、僕が尋ねていた。
「部長、聞いてましたか?」
「あ、ああ……聞いてた! 間違いない。百七十五センチは必要だろ! 舐めるなよ!」
「部長、だったら寝ないでください」
「……うう……」
赤葉刑事は「正解!」と言ってから、微笑んで次の問題を出した。
「じゃあ、第二問。その目撃証言から割り出された人間。黒川守さんは百五十センチ行くかどうか、この方法で被害者の頭へと垂直に当たるように矢を撃つ方法ってあると思う?」
ここは一旦、落ち着いた。すぐにでも分かるような問題ではあったのだが。もし、この答えから導き出される方法が予想通りのものであれば……たぶん黒川さんには犯行ができない理由がある。
「そんなのちょっと操作に関しては練習が必要かもだが。ボーガンを飛んでから撃つ! それで問題ないはず! 武器マニアのオレにそんな簡単なこと聞いちゃダメですよ!」
部長はたぶんまだ知らない。この後に来る赤葉刑事の発言を。僕が推測していた通りのものだった。
「……そのはずなんだけどね。黒川さんには重い腰痛を患っているの。例え飛べたとしても、痛い中、ちゃんと命中させられるかしら。被害者の頭ど真ん中に」
たまたまそうなった可能性もあるかもしれないが。と思うも、部長は「無理」と空気が抜けた声で言って同時にボーガンの解説をしてくれた。
「ボーガンの矢は意外にも風や重力に左右されちまう。体が痛くて集中できない状態。それでいて飛び上がりながらと言う状況の中、偶然だとしても動いてるそいつを狙ってしっかり当てられることなんてできない……んです」
赤葉刑事がその言葉に応じて第三問目を出した。
「そう。そのボーガンは指紋が拭き取られた状態で捨てられてたんだけど、他の刑事の話からしても達也くんの言う通り、命中率は低いらしいわ。もし、それが撃てたのなら、黒川さんはオリンピック級のスナイパーよ! 問題、腰が痛い黒川さんはどうやって頭へと垂直に矢を撃ったのか!」
とその質問が出た後に僕は状況を確認させてもらう。
「あの……飛んで撃つところは目撃者が見てたんですか? それともその殺害シーンは見ている人がいなかったんですか? 飛んで撃ってたら、黒川さんが痛みに耐えた方法、ボーガンに仕掛けがないか、などを探します」
「ああ……残念ながら、見てないのよね。誰も……。つまるところ、何か凄い方法があったんだと思う。何か……被害者を自分の真正面までに持ってくる方法が……」
「でも、そんなんだったら被害者逃げますよね。僕だってそう考えます。知らない人が自分に対してボーガン構えてたら、自転車必死に漕いで」
「そうなのよね。決してそこで降りて『おはようございます』なんてこと、しないでしょう」
「ですね」
そこで赤葉刑事はちょっと恐ろし気な雰囲気を出して、呟いた。
「幽霊が見えない力で足を引っ張っていたなんて、ことはないでしょうし……ねぇ」
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