Ep.42 幼馴染が絶対に死なないラブコメ
彼女の眼は狂気に満ちていた。僕はそんな中でも鼻から息を吸って、心を落ち着けた。そして、例え話を持ち出した。
「もしも、もしもだけど……やらないって言ったら、君の家族は殺されてしまったり?」
彼女はクスクス笑っていた。
「どうでしょうね」
自分の家族がどうなってでもいいと言うかのように。いや、どうでもいいと言うところではないのかもしれない。
たぶん、彼女は……。
最中、画面の中にいた美伊子が発言した。
『その正義かぁ……まるで皆が使う公園をゴミだらけにして、それを芸術って呼んでる人みたいね』
対するベンチに座った彼女は恐ろしく冷静に答えた。
「そうですね。芸術なんて人それぞれ分からない人がいてもおかしくないわ。でも、芸術のために使う材料は皆、等しく持っているもの。たぶん、貴方も持っている……それをコマキのために使うかどうか」
美伊子は対照的な反応を始める。
『な訳ない。そんな歪んだ材料、誰も持ってないわ。持ってるのはアンタ一人。アンタの芸術犯罪は単に犬のフンを持ち帰らないで言い訳をしている人と一緒。それを芸術だと言い張って、自分がやってきた殺人を正当化して。自分が犯したミスをただただ美化するだけ。そんな芸術に憧れた人間はどうなると思う? 間違いだらけになるわよ。アンタすらも意図していない結果に、ね』
間違いだらけになる。つまるところ、美伊子が言いたい事は芸術犯罪で人を殺めていくことが正しいと考えたとして。それを真似する人間が出てくる。その人物がコマキみたく完璧に人を消せるかどうかは分からない。もしかしたら守ろうとしている優しい人間まで殺害してしまう。その殺人のきっかけになったお前は絶対に模倣犯の責任を取ることができないに決まってる。
そんな意味ではないか。
僕も同意だ。ただ、そう言う前に相手は半目開きで薄笑いをしていた。
「それが答えね……そこの子……わたしの芸術犯罪を……まさか汚いものに例えるなんて……ね。最悪。分かった。もういい。お前には聞かない。いや、お前みたいな探偵がいるから……正義だけ口にして何もしない探偵がいるから世界は壊れていくんだ……ヒョウちゃん……君に関してはこの答えは後回しにしようか。その前に」
「その前に……何だよ!?」
察知できていた。彼女のすることは一つ。自分の目的やプライドを汚されたコマキは完全に美伊子を敵、この世に
「殺す。何処にいるのかしら……? いえ、何処にいたって。探し出して標的にしてあげる。それまでヒョウちゃんの答えはお預けね」
美伊子がこの女の怒りを買うことを承知で戦ったんだ。僕も言うしかない。
「いや、ここで言う。コマキの目的通りにはならない」
「彼女が死ねばきっと間違いだって分かるわよ。協力しない探偵がどれだけ殺人事件を止められないかを教えてあげる。無力さを。わたしに協力すれば、貴方の大切な優しい人は死なないってことを教えてあげる。そこの美伊子って子以外は、ね」
「お前よりも先に美伊子を見つけ出し、必ず守る! そしてお前を監獄の中にぶち込んでやる!」
「へぇ……! 見つけ出すってことは行方不明なんだ……! ふふ。いいわよ。見つけて上げる。そして正義を汚す悪魔に鉄槌を下した後でその場所をヒョウちゃんに教えてあげるね!」
「な、ことはねぇ! 絶対にアイツをお前に殺させはしない! お前のやってることを全部、間違いだって証明してやるよ! お前、コマキだろ!? 事件に関係がない人や優しい人を人質にするなんてお前の美学に反するだろうし。さっさと、その変装を解け!」
彼女はふふっと僕を嘲笑い、立ち上がる。煌めいた眼で僕の勘に対する答えを口にした。
「こう性格が出ちゃ、分かっちゃうわよねぇ。ええっ! ただ変装じゃなくて整形したの。こうでもしないと、アンタはわたしの話を聞く前に警察に通報するかなって思って。じゃあね! また会う日まで、わたしの正義に乗るかどうか、考えといてね!」
「てめぇ! 待ちやがれっ!」
「待てと言われて待ちたくないよぉ、だっ!」
と言って走るも、彼女は紙袋を被り、そのまま近くに停めてあっただろうバイクに乗って行ってしまった。そのエンジンの音でさえも煽りであったに違いない。
当然、徒歩で追いつけることもなく、僕は諦めることにした。
ただ、今だけだ。絶対に捕まえてやる。そう心に誓って、美伊子との話に戻る。僕は彼女を安心させるための言葉を放つ。
「美伊子。この声は間違いなく現実から出てるものだよな。電子音なんかじゃないことは分かる。きっと、美伊子はこうやって生きている。だから、何処かにいるはずだ。僕はそんな美伊子を見つけて、絶対に見つけ出すからね!」
『……守ってくれる、か。そう言ってくれるだけでとっても嬉しいな。まぁ、たぶん見つかることはないと思うけど……』
「……うん」
そんなやり取りの中にふと不自然さを覚えていた。知影探偵が全く会話の中に入ってこなかったのだ。
何をやっているのか。そう思った途端、公園の入り口に知影探偵が現れた。
思わず疑問が僕の口から飛び出した。
「えっ!? 何で来たんです!? この場所が分かったんです!?」
「アンタ、カメラがオンになってたわよ。背景が見覚えのある公園だったから……で、あのコマキ先生は何処!?」
「あ……いや、逃げられました」
「そっか」
彼女は突然息切れして、大きな音を立ててベンチに座り込んだ。汗や髪の乱れからしても、全力で走ってきたことがよく分かる。
別にそこの乱れに関しては何も言う必要はない。但し、一つを除いて。
「あの……スカートが
「……えっ、ああ!」
「はい……」
彼女は顔をワインレッドの色にして、恥ずかしがっていた。すぐにスカートと手でピンク色のパンツを隠す。
それから今のことを誤魔化すつもりなのか、僕に突飛もない質問をし始めた。
「そ、そう言えば。パンツと言えば……アンタ山荘の中でどうしてパンツを集めたの? 別に服でも良かったような」
何か答えを間違えると、嫌なことが起こりそう。身構えながら、正しい答えを選べるよう意識した。
「服やズボンだと人によって、違いますから。知影探偵の着ぐるみのように厚着で一枚の人もいれば、何枚も重ね着してる人もいると思いまして。ただ下着は一つじゃないですか。ブラジャーは僕が使わないし、し忘れたって人もいそうですし。その分、パンツはほとんど履き忘れることもないので」
「なぁんだ、てっきり……下心があるのかと思っちゃった」
よし。ここまでは間違っていない。一応、釘を打っておこう。
「大丈夫です。下心があったとしても、知影探偵の下着なんて普通見たいとは思いませんから」
言って、知影探偵の顔が更に赤く染まってから気付く。あれ、今の発言、ある意味とても失礼ではないのか、と。
いや、別に知影探偵のことが嫌いとかでパンツが見たいと言った訳ではない。僕が下心で見たいのは美伊子のパンツだけ、ではなくて……ええと、何て言い訳をするべきかと考えている最中だった。
「……氷河くん……覚悟しなさい。今、人の心をぐさり傷付けたわよね……」
彼女はスマートフォンを振り上げている。それ、使い方違う。人を殴るために使うものではない。
命の危機を感じ、僕は自分の意を否定しつつ、逃げ出した。
「違うんです! 知影探偵を悪く言ったんじゃなくて! その、あの……!」
「問答無用よ!」
「ええ!? そんなぁ!」
焦り、恐れる僕にポツリ、僕の持ったスマホの画面に映った美伊子はこう言った。
『あらあら、これじゃあ……ハーレムなんてほど遠い。一人の異性を理解することでさえ難しいね』
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