Ep.36 チカゲちゃんはサイダー缶の中
「第二の事件って何なの……だって。第二の事件って、みんな、どういうことか思い出せるでしょ?」
コマキの反論からキスさんが口を開けた。
「確かにどうやって、イーク様を殺害するのか。先生では分かりませんね。シャルロット様なら、大きな袋に入れた油を被らせたって言うことができますが」
「そうだよ。シャルロットちゃんしかできないじゃない」
そこにコマキはまた小さくなって僕に無実を主張していた。そして、そうしながらもきちんとシャルロットさんに罪を被せているのだ。
今の僕には彼女の影が悪魔のようなものに思えてならなかった。喉元へ更に力を入れて、否定した。
「それは違うことが証明できてしまうんだ。ここのスーツケースに入ったもの……僕がとんでもないことをした理由の一つが分かるんだ。コマキ……四十一! この意味が分かるか!?」
「四十一って何なの!? 分かんないよぉ!」
コマキに加え、他の皆も分からないと言っているから教えてやる。スーツケースから全員分のパンツを放り出し、口に手を当てているカルマさんに告げた。
「カルマさん! 全部で四十一になっているはずです! でしょう? この館には替えの下着が他にない。そして、ここには用意されたものと皆さんが付けてきた下着しかないと!」
カルマさんは一つ一つ並べて数えながらもコメントしてくれた。
「そ、そうね……。流石に下着を隠し持ってきた人は見てないし……うん。四十一……あるわね。これが……あれ?」
彼女が気付いたであろう疑問を僕が言葉にした。
「四十一。ええ。最初にあったのは、十人分、で、四泊五日。つまりは四回お風呂に入り、下着を変える訳で、それプラス最初に履いていたので、五つ。合計五十あるはず。で、先程、皆が履いているのも確認させてもらいました。ここにいる六人で、僕も履いてますから、六つはある訳です」
知影探偵が少々苦い顔をして、僕の行動に納得していた。「それを確かめるためにわざわざ……酷い策士ね」と。
その言葉をスルーし、説明を続けた。
「で、五十引く六、四十四。四十四引く亡くなった死体の分が四で……おかしくないですか?」
知影探偵が今度はこそと存在をアピールしようと試みたのか、首を縦に振って大袈裟に反応した。
「ちょっと待って。誰よ!? ノーパンなの!?」
「……知影探偵、僕はここにいる人のパンツを全部見ましたし。死体の分も、三人分ちゃんと履いてるのを確認してきました」
「後の一人は……まさか、イークさん? えっ? 彼女の下着……あっ!」
これで皆もしっかり脳裏に真実が焼き付いたことであろう。
イークさんがもしパンツを履いている状態で亡くなっていたのであれば、パンツごと燃えて、数は四十になっていた。
つまるところ、イークさんは燃えた時下着を履いていなかった。
その事実を介して、コマキに詰め寄った。
「言いたいことはこうだったよな? イークさんが外を歩いてるところ、シャルロットさんが窓から顔を出したかで、頭上から油をぶっ掛けた。館の中でなきゃ、館が油塗れになってたし。直接油をぶっ掛けたら、間違いなく犯人も油が掛かるし。それがなかったと言うことは、今の推測で間違いないだろ?」
「あっ……」
「でも、それだとイークさんは下着も履かず、外を歩いてたってことになる」
「そ、それはそういう趣味じゃ……」
「趣味だとしても、今は冬だ。そして、ウイルス感染の危険を叫んでいたのは彼女じゃないか!? 体を冷やしたら、ウイルスへの免疫が下がること位、常識なはずだ! シャルロットさんが犯人だとすると、矛盾するんだよ!」
そこでエミリーさんが眉を下げ、僕に真実を要求した。
「じゃあ、一体……? どうやって被害者にオイルをビシャーンと?」
その疑問に自分の推理と異なる部分が生じた。だから、僕は指摘しておいた。
「たぶん、ビシャーンじゃないです。僕はイークさんは自ら油の中に入ったんだと思いました」
僕の一回聞いただけでは滅茶苦茶な推理に知影探偵が大声で異論を放った。
「ねぇ……アンタ、自分で言ってることが分かってる? どうしたらそんな発想になるの? 催眠術でもあるって話を信じてるの!?」
「……そんなの信じちゃいませんよ。ここも知影探偵からヒントを貰ったんです」
「えっ?」
ヒントが女体盛りにあったとは言えないので、別の話を出してみる。
「ほら、知影探偵は缶のサイダーをぶちまけたんですよね?」
「なっ! 今それ言うこと!?」
彼女は真っ赤な顔をして、僕の頭にチョップをしようとしてきた。サッと彼女の動きを読んで、横に避けてから推理を話す。
「だから、それで思い付いたって話です。イークさんはそれと似たような形で油の中に入れさせられたんです。そう、手掛かりは殺されたコトハさんの言葉にもあったじゃないですか?」
「えっ? サイダー……サイダーは」
「甘いです。甘いは……?」
「ケーキ……!? そう言えば、コトハちゃん……ケーキの匂いがするって……言ってたわね!?」
その発言に今度はエミリーさんが過剰な反応を示した。人差し指を立てて、ケーキらしき匂いの詳細を語ってくれた。
「ねぇ、それって……チョコ!? 確かにイークさんが殺される前にそんなスメルが……!」
そこからがどんな発想になるのか。キスさんは頭が固かったのか、理解に苦しんでいる。
「自らチョコの中に入っていった……?」
このまま僕が事実を伝えれば更に理解しがたい状況になることは間違いないが。今は「これが真実だ」と話すことにした。
「ええ。アイドルがたまにやる、チョコ風呂……その中にねっとり感を出すためにオリーブオイルを混ぜておけば、ちゃんと油の中に入ったことになります。後は……彼女を一回入らせて。大きなバスタオルで一回拭かせてから、窓元で『あれは何?』だとか騒いで、呼び出した。そこでコマキ、アンタは彼女が悲鳴を上げないよう何かを口にツッコんで、窓から落としたんだ。後はライターを使って炎上させた……これが二回目の犯行、イークさん殺人事件の全貌だ!」
皆が目を点にしているのは分かっている。チョコレート風呂だなんてとんでもない発想。
まだ説明しきれていない矛盾点がある。
その一つをコマキが叩いていた。
「……ちょっと待ってよぉ……何でイークさんは人を部屋に入れるって前提からおかしくないかなぁ……だって、だってだよ。ヒョウちゃん、よく考えて。ヒョウちゃんが言った通り、彼女はウイルス感染を恐れてたんでしょ? 自粛最中に人を入れるかなぁ?」
「ああ、確かに恐れていたかもな。但し、それはウイルスなんかじゃない! ウイルス感染が怖いフリをしているのがバレることがな!」
またまた推測された真実に皆が息を飲むばかり。僕ですら驚いているんだ。数々の計算し尽されたトリック。それを見抜けたことですらも、奇跡なのだ。
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