Ep.34 異世界チート推理ショー

 知影探偵が僕の頭を一発小突いた。「へぼ探偵って何よ」とのことらしい。ただ、怒るのはそれっきり。

 ただ茫然としている容疑者四人に、この状況の説明をし始めた。


「皆さん、こいつの奇行にさぞ驚かれたことでしょう。でも、それはどうやら大事なことらしいのよね」

「ええ。その話を紙に書いて、知影探偵に渡して。こうしてもらうよう、お願いしました」

「ワタシが協力して一芝居打たないと、まさか女性の今履いてる下着なんて見れないからね。とんだ策士よ!」

「ははは。本当話が伝わっていて良かったです。言葉だと勘違いがあるかもってことで紙にしたんですが、知影探偵、いきなり破るから」

「他の人に見られると困るでしょ? それに別れ際に言ったじゃない。『忘れないから』って」

「そうでしたね。内容、全て覚えててもらってましたね」

「さて。ワタシはできることをやったわよ。これで証拠は全て揃ったみたいね」


 そんな知影探偵の言葉にカルマさんが耳をピクリと動かして反応した。


「ちょっと、証拠って何!?」


 決まっている。連続殺人が起きている状況下で揃う証拠と言えば……。今度は僕が立ち上がって、疑問に応じた。


「この山荘を中心に起きたラナさん、イークさん、コトハさん、シャルロットさん四人の殺人事件。その犯人を追い詰める証拠、ですよ」


 その言葉に皆が僕のやってきた犯行などどうでもいいかのように、震撼した。互いが互いを見合わせて疑心暗鬼にもなっている。本当にそれが正しいのかとコマキ先生が問い掛けてきた。


「は、犯人は死んじゃったシャルロットちゃん……じゃ、ないの?」

「ええ。シャルロットさんの自殺は偽装であり、真犯人に殺されたんですよ。立場上、最後の標的として、ね」

「……え」


 そんな殺人疑惑に根本的な違和感を抱くエミリーさんが口を出してきた。


「ちょっとストップ! ウイルスじゃないですか!? あれが元凶じゃ」


 さて、最初に説明するべきことはウイルスに関して、だ。それがあると思っているエミリーさんにどんな殺人犯の可能性を話しても納得はしてくれないだろう。その考えを根っこから否定するのだ。


「エミリーさん、ないんですよ。そんなものは。犯人がただ演出しただけなんです。動物を何かの毒で殺し、病気が蔓延しているように」

「ホワイ!? 何のため?」

「たぶん、幽霊と同じ原理でしょう。信じ込む人や恐れてる人。エミリーさんみたいな人に関してはあると思い込んで、大騒ぎしてしまう。ただ、その温度差に『そんな非現実的なものはないだろう!』って考える人がいる。後者が目的だったんです」

「えっ?」

「後者はウイルスの存在を否定するがためにその場にあった最も現実的な真実に目を向ける。で、簡単な偽装の証拠を疑いもせず、『こっちの方が現実的だから』と信じ込ませてしまうってのが犯人の目的だったんだ!」

「えっと」


 ここまでの推理を丁寧に要約しておいた。


「つまるところ、ウイルスの存在によって皆を間違った真相『シャルロットさんがウイルスの存在を偽装して、行った連続殺人の犯人だった』ってことに導こうとしていたんだ。たぶん、その後に証拠は全部隠滅しようとしたんだと思う。事故か何かを装って、エルフの森を焼くように……森にでも火を放ち。それで後は警察は皆の証言を聞いて、推論だけで事件の真相を考えることしかできなくなる」


 その証拠に皆が死体が発見された後、すぐ真実を見つけようとした。空想を吹き飛ばすため。怪談よりも現実味があるからこそ、否定したくなる真面目な人間の心理を利用したとのだと思う。

 そんなウイルスを否定する僕にエミリーさんは反論した。


「ウェイト! ウェイト! ウイルスがないんだったら、ラナさんはどうして? あの人は病気で死んだはずじゃあ」


 そう。この説明の中で一番重要になってくるのが第一の殺人。ラナさんはウイルスによって亡くなったか、シャルロットさんがこそっと少量の毒を入れた以外に説明できない状況だ。

 今までは、ね。

 シャルロットさんや病気が原因でないのであれば、毒の存在を証明するよう求められるのは当たり前。キスさんがそうしていた。


「氷河様。説明してください。毒はどうやって入れたんですか?」


 勿論、胸を張って説明する。この状況は洗われたペットボトルや知影探偵のスマートフォン中毒から推測できた。


「毒は……たぶん食事の中にもペットボトルの中にも少量ではなく、大量に混入していたんだと思います。そうでなきゃ、ペットボトルの中身を洗う必要なんてないですから」


 そんな推理にブーイング。特に、彼女の料理やペットボトルの中身を口にしていたコマキ先生が腕を振り回して騒いでいた。


「ちょっと……! それ、わたしも飲んじゃったんだよぉ? ってか、どうして料理にまで使われてたって」

「ああ。だってコーンフレークにはコーヒー牛乳。フルーツポンチにはソーダ。それぞれ、ペットボトルとかの中身が使われるじゃないですか」

「えっ、でも、コーンフレーク食べちゃったよ。ってか、フルーツポンチはヒョウちゃんも食べてたよね!? ペットボトルの中身に毒が入ってたなら、あそこでわたし達、ラナちゃんのように……」

「ならないでしょう……だって」


 皆が「だって……?」と復唱する。知影探偵が僕の推理についていぶかしげな顔でコメントする。


「亡くなったラナさんにアレルギーとかはないはずでしょ? どういうことなのよ」

「……彼女が死んだ理由がカフェイン中毒だから、ですよ。そっ、皆が恐れていた病気はカフェイン中毒ですよ」


 騒めいた。誰もが気付いていなかった真実に。

 当たり前過ぎて意識もしていない毒だ。カフェインはコーヒーなどにも身近なものに含まれているし、あるものを飲まない限り、ほとんどの人が意識しないだろう。

 その、あるものを説明させるような流れをカルマさんが持ち出した。


「カフェイン中毒って。カフェインの入ったものを飲みすぎるとって奴よね……コーヒー牛乳にはちょっと入ってるかもだけど、ソーダにも入ってないし。持ってきたペットボトル飲料に関してはジュースばかり。死ぬことはないと思うけど!」

「ええ。少量では、ね。ですが、あれには入ってますよね。エナジードリンクには!」

「はぁ!? あ、あの!? エナジードリンク!?」


 それがあるもの、だ。カフェイン中毒を引き起こすだいたいの原因がカフェインの入ったサプリか、エナジードリンクだ。

 今では現代の社会人が使う眠気覚ましには欠かせない一杯ではないだろうか。そう考えて話を続けていく。


「ええ。僕の睨みではエナジードリンク……が入っていたんだと思います。そうですよね。コマキ先生やエミリーさんなら、分かるんじゃないですか?」


 コマキ先生はそう言われて、頭を縦に振った。少々泣きそうな顔でとある事実を語り始めた。


「……そうだよね。エミリーちゃんやわたしは海外で買ったエナジードリンクをひっそり売りに出してたのよ。海外のって日本より多く売ってるし、大きなサイズもあるし。製造元が多いから安いし、日本にないフレーバーもあるし、で」

「では当然、ソーダのもあるでしょうし。コーヒー牛乳のエナジードリンクも?」

「……ある。でも、知らなかった。ラナちゃんが売ろうとしてたのを黙って自分の物にしてたってのは……それを知っていれば……キスさんに怒られるのが怖くて言えなかったけど、言っていれば……」


 キスさんはコマキ先生に「当然です。コマキ先生をカフェインの摂取で死なせたくはありませんから。それも禁止していました」と厳しい口調で反応していた。

 ならば、とここでおかしいことに気が付く人がいるだろう。いち早くカルマさんが口を動かした。


「で、でも確かにそこまで味が変わらないなら、フルーツポンチやコーンフレークに入れられるけど。今回のイベントの場合はエナジードリンクを入れられないんじゃないの?」


 ただ予想外ではない。その反駁の理由もだいたい分かっている。


「それって。危険なものはこの山荘には持ってこれないってルールがあるからですよね。だからお酒も煙草もこの山荘には存在しない」

「そうよ。それにもし仮に二つがその料理の中に入ってたとして。まだカフェイン中毒に達する量としては足りないじゃないかしら」


 この質問を待っていた。僕は堂々とおかしな答え方をした。


「ええ。その難関を犯人はチートを使って突破したんですよ! チート、所謂ズルって奴を使ってですね!」

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