Ep.33 下ネタという概念が存在しない退屈な時間
急所はギリギリ外れ、まだ立っていられる僕。すぐに身を翻して、脱衣所を出た。知影探偵は手をグッと握り締め、犯人よりも恐ろしいであろう形相をして追っかけてくる。
「待ちなさい! 何をするつもりなのよ!」
そんな彼女が転んで怪我をしないよう、距離はそこまで離さない。後ちょっとの余力を出せば、捕まえられる位の位置を意識して。階段を上り、僕の部屋へやってきた。持つのはノートと鉛筆だ。
彼女が入ってくると共に僕はすれ違う。その瞬間彼女の手が届くかとヒヤヒヤしたものの何とか避けることはできた。
「まだまだ、ですね。知影探偵」
「何を言ってるのよ!?」
一旦、外に出る。パンツを盗む前に一つ確認したいことがあるのだ。そこで一回シャルロットさんの死体がある場所まで走る。
「白か」
確認はした。興奮してくるとは、このことだ。気分がどんどんと高まっていく。そんなことを思いながら、今度はラナさんの遺体の場所へ急いだ。知影探偵に掴まってはいけないと全速力。森の中にある平坦な道ではそこまで意識せずとも転びはしないだろうと考えて。
「待ちなさい!」
そんな彼女への答えを鉛筆でノートに書いていく。少々
それを渡す前にラナさんの遺体の場所まで来た。
不謹慎で失礼なことは承知している。それでも確かめられずにはいられない。
「水色か……」
とあるものを目から離した途端、知影探偵の顔が目の前にドアップで現れる。攻撃される前にノートから破り取った一ページと鉛筆を無理やり押し付けた。
怯む彼女の隙をついて、また逃げ出した。
そんな彼女は僕の書いた文を目にして、更に顔を
当然のことか、彼女はそのノートをその場で破り捨てると、僕に向かって怒鳴り始めた。
「この……絶対に忘れないから! 覚えてなさいよ!」
ああ、勿論。そう心の中で返事して、山荘へと戻る。忘れていけないのがコトハさんの遺体に関する調査。スカートをめくるだけで終了だ。
「……ピンク、か」
最低なことは分かっているが止められはしない。心の中で眠っていたものが目覚めたのだから。後は燃やすことだけを考える。
僕は自分の部屋にもどり、スーツケースから上着やズボンを外に出す。後は二階の部屋から探索開始。
お宝と称して、パンツを回収だ。このまま興奮していては自分の気が休まらないし、残った罪悪感が動きの邪魔をすると心は止めておく。
知影探偵の部屋に入って物色させてもらう。今履いてるものと洗濯機に入れたもの以外、スーツケースに全部入っていたのだから楽だった。感触がふわふわだ。一般的な女子のものと見て間違いないだろう。と考えて、何をコメントしているのかと自分自身にツッコミを入れた。
時間はない。誰かが部屋に入ってしまったら、お終いだ。そう考え、カルマさんやコトハさん、シャルロットさんの部屋から素早くパンツを回収させてもらった。三人はクローゼットの中で整理してあったから、とても盗みやすかった。
そのまま僕はスーツケースを担いで、三階へと向かった。まず、進むべきは引き籠っているエミリーさんの部屋だ。
彼女はこれを殺人事件でないと考えているから、こう言えば出てきてくれるはず。
「エミリーさん! 緊急事態です! もうすぐ迎えの車が来るかもしれないって話なんです!」
「えっ?」
扉の向こうから良い反応が聞こえてきた。僕はコマキ先生の部屋にスーツケースを隠してから、何度かエミリーさんと僕を隔てている部屋の扉をノックした。
「だから下に来てください! 何とかウイルスから逃げられるかもしれません!」
「……オーケー」
「先に行っててくださいね。僕は他にも部屋に引き籠ってる人を呼ばないといけないので!」
ひょいと出てきたエミリーさん。僕が何を考えているのかも知らず、彼女は急いで下へと降りていった。さて、嘘をつくのは心苦しい。彼女がいなくなった後でも胸の騒めきは止まらなかった。
ただ、今はそれを癖にするしかない。気持ちよいと感じ、行動するしかない。
エミリーさんはほとんど外に出てなかったため、使用済みの下着も置かれていた。構わず手にしてポケットに詰め込んでいく。
後はこの階にいた四人全員のものを集める。コマキ先生意外と可愛いものを履いているんだとか、キスさん刺激的だとか感想はどうでもいい。
大事なのは量だ。
部屋にある全てを集め終わったら、次のターゲットは脱衣所だ。そこにあるもので全て。
広間にいた生存者全員の前をすすっと、スーツケースを手にして抜けていく。知影探偵はしどろもどろな推理ショーをしているみたいで、「ええと」だとか「それが」だとか、曖昧な言葉の連続を繰り返していた。
そんな彼女の話よりも僕の動きが注目されたようだ。
ギクッとした僕は急いで脱衣所にあるパンツを回収した。洗濯機から出してはスーツケースに押し込み、中はパンツで満たされた。
「おい」
重いカルマさんの声。汚物を見るような視線を向けてくるキスさん。若干引いているコマキ先生。訳の分からない展開に目を回すエミリーさん。
この山荘内は怒りで包まれていた。
知影探偵が何処からかシーツを持ってきて、縄の形を作っていた。僕には呆れたと言わんばかりの声で言い放つ。
「本当にやったのね。信じられない。冗談だと思ってたのに。人が死んでるって時に、こんな馬鹿で不謹慎な事、やるような人間だったんだね。最低よね」
知影探偵の力に僕は抵抗できず、すぐさま拘束された。皆が騒めいている。僕を今後、どうしようかと言う話題で盛り上がっているのだろう。エミリーさんは「話が違う! 帰れるんじゃないの!?」と僕を嘘つき呼ばわりしていた。
そんな中、僕は言ってやった。
「……ねえ、これって僕、警察に捕まるんです?」
カルマさんが返答した。
「当たり前でしょ!? ここから帰れたらすぐに引き渡すわ。こんなことするなんて思ってなかった!」
コマキ先生は僕に疑問を投げ書ける。
「何でこんなこと、やっちゃったの……? 君のこと……もっといい人だって……」
皆が僕を憎んでいる。そんな威圧感も悪くない。逆に興奮したから言ってやった。
「……性欲が有り余ってるんで仕方ないですよ。ねぇ。皆さん、パンツを見せてくれませんか?」
キスさんから蹴りが一発。無言でかなりきつい一撃を腹に食らってしまった。これ以上、変態的なことを話したらどうなるか、と言う合図だろう。
ただ、僕は諦めない。
絶対に見せてもらうと、皆に怖がられる覚悟で駄々をこねた。こんな探偵、今まで出版されてきた推理小説を探しても見つからないであろうな。
「お願いしますよ。これって、たぶん、僕殺人犯としても疑われますよね? どうせ死刑にされるんですから。最後に。最後に幸運と言うことで見せてください!」
そのお願いにとうとう乗った人物がいた。足を限界まで上げて真っ白なブリーフを示してくれる。その正体とは、知影探偵だった。
彼女は果敢にも皆に告げる。
「ねぇ……! どうせそれで満足するんならいいわよ。さっさと、コイツを。氷河を黙らせて死刑台送りにしましょ!」
ここまで彼女に言われるとは。僕が心の中でくすりと笑うと同時に皆は渋々動き始めた。
早速、コマキ先生が動いてくれた。こちらも滑らかで清純な白いもの。
キスさんはスーツのズボンだったため、コマキ先生がずり落としてくれた。
「きゃっ!? コマキ先生!?」
「ここはもう遠慮しないでいこっ! 最後なんでしょ? 彼の!」
エミリーさんも仕方なくとじめっとした表情で見せてくれた。同じワンピース、スカートのカルマさんもご拝見。彼女だけ白い下着が少々明るい赤で汚れていた。
さて、これで終わり。合計、四十一、僕のを除外すると三十六個の素敵なものを手に入れさせてもらったし。その上、他の人の大切なものまで見せてもらった。
この大いなる喜びを表現するため、僕は最低な言葉を吐き出した。
「ご
皆が一回足を後ろに遠のけている。この反応で恐怖を覚えてしまったようだ。だからこそ、隙ができる。
その中で一歩足を踏み出した知影探偵は、皆の前で僕の縄を解いてくれた。
「これでいいのかしら? ド変態探偵さん?」
「いいに決まってるじゃないですか! へぼ探偵さん。最高の演技、ありがとうございます!」
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