Ep.29 とある事件の証拠目録
シャルロットさんが犯人でないかもしれない説。まず、ラナさん殺害からコトハさん殺害までの行動に道理が合っていないのだ。
もし三回目の犯行で自分の犯行だと思われないために事件現場を血塗れにしたのだとしたら。今までの二回の疑われるような殺害方法は何だったのだろう。
皆の推理によると、隣の席にいるラナさんをこそっと毒殺したと言うことになる。そのせいでラナさんの両隣にいるシャルロットさんとイークさんの二人が疑われたのだ。それなのに、だ。
何故もう一人の重要な容疑者となるイークさんを次のターゲットにしてしまうのか。しかも、自分が疑われるような状況をわざわざ作ったのか。それも油を入れたであろう袋を持っている状態で。
もし、それしか殺害方法の手順がなかったとしても、だ。それだったら袋を外に飛ばさず、誰かの部屋に置いておけば良い。外に袋をそのまま放り投げ、自分以外は使えなかったことにする理由が分からない。
ここまでについては、たまたまだと反論される恐れがある。
もっとシャルロットさんが犯人であると奇妙な理由は存在している。洗われたペットボトル。あれが犯人の仕業だとすると、ペットボトルの中にまた毒が残っていたからだと考えられる。ただ、シャルロットさんはペットボトルの中に毒を入れる意味はない。殺されるのを予期していた犯人が封の開けられたペットボトルの中身を飲むはずがないのだから。
この矛盾がシャルロットさんが犯人だと考えると、説明できない。
僕は今の推理を皆に話すも、聞き入れてはもらえなかった。僕の口が閉じると同時にコマキ先生が否定する。
「……そんなのどうだっていいじゃない? それでこれが違う犯人だったとして。まだ殺される可能性を皆に言ってどうするの……怖いよ……そんなこと、考えたくないよ」
キスさんもだいぶ参っているようで血で汚れた眼鏡を拭きつつ、頷いていた。
この二人を納得させるためには真犯人を示す証拠がないと、ダメみたいだ。それまではシャルロットさんが犯人であると信じ込み、安心したのだそう。
知影探偵は渋い顔をしながらも、僕の話に耳を傾けてくれた。「そうね」としきりに呟いている。
カルマさんについては首を吊っているシャルロットさんについて、指を差す。
刹那、彼女の死体が樹から落ちてきた。枝が耐えきれなかったみたいだ。皆がびくびくして、コマキ先生はキスさんの後ろに隠れていた。
カルマさんも驚いたのか、最初は口を動かすも声が出ていなかった。途中から声が戻ったようで、様々な考えを僕に伝えてくる。
「……この落ちてきたシャルロットちゃんだけど……もし、この上に首を吊ったんだとしたら、犯人は幹を登ってあの子を枝に括りつけたってこと?」
そう言う論理でシャルロットさんが自殺だと思っているらしい。人を背負って樹に登る位、力自慢な人間がこのメンバーにはいないはず。そう思っているのだろう。
それに対し、僕はシャルロットさんが首を吊っていた高さと今の地面を見比べて発言した。
「たぶん。燃えた車ではない方。まだ壊れていない車を運転して、踏み台にすればギリギリ彼女を吊れると思います。車の上に乗って」
「あ……そっか」
カルマさんはそこで僕の他殺説にも納得してくれた。しかし、こう考えると犯人は何故ちょっと高い位置にシャルロットさんを吊ったのだろう。もっと低く首吊りを偽装できる場所は幾つでもあるはずなのに。
今度はカルマさんが服を脱いで、シャルロットさんの遺体に掛けた。それから皆に告げる。
「一旦、あの場所に戻りましょ。そこで皆で生き延びるしかないわ」
そうしてから僕達は山荘へと戻っていく。そこでじっと固まって助けを待つしかない。ただ、そこに恐怖があった。
真犯人は分かっていない。
犯人が自殺したように見せかけられたから殺人は終わる。そう思っていたら、大間違いだ。真実に近づいた人に殺意は向けられる。
イークさんに火を放ち、殺害した犯人だ。不思議な毒を使って、ラナさんの殺害もした。今のところ、被害者達とはイベントに参加していること以外で何の関連もないコトハさんの殺害もしている。
容易く事故死に偽装し、生き残りメンバーを更に減らすこともできるのではないか。
そう震え上がり、刺激を通して更に強い決意を持った。タイムリミットはもうない。今日だ。
僕達が起きている間に全てを終わらせなければ、また誰かが殺害される。
自分の頬を叩いて、やる気を増進させた。
山荘に着くと、皆が血塗れの衣装を洗濯機に放り込む。それから別の汚れていない服を各々の部屋で着替えてくることにした。勿論、事件現場には容易に手を触れないようにしてもらい、行動は二人以上で一組を意識して。
コマキ先生とキスさん。
カルマさんと知影探偵、僕の三人組で分かれる。ただ僕はカルマさん達の着替え時は目隠しをさせられ、何故か僕の着替えはじっと見られたと言う。何だか腑に落ちないけれど、気にしている場合ではない。
僕が最後にスーツを着る。カルマさんと知影探偵も爽やかな色の服にスカートととても良い組み合わせの服を着用していた。着替えた後にすぐ、僕は知影探偵とカルマさんに提案した。
「あの。今から三階のイークさんの部屋に行ってもいいですか?」
カルマさんが手で丸を作って許可してくれた。
「いいわよ。もうこんな状況、止めてられないわよ。ほら、知影ちゃんも!」
知影探偵もやる気満々。意気揚々と僕についてきた。
イークさんの部屋に訪れた僕達。中は皆の部屋と同じ。早速新たな発見があった。目の前にある窓、だ。
今までの考えでは、イークさんは気絶させられた状態で油の中に入れた後、外へと運ばれたという話になっている。
窓があれば、違う。更にここはイークさんの死体がある真上となっていた。導かれる推理は一つ。
僕が呟こうとするのを知影探偵が遮った。
「これは間違いなく、気絶した彼女を持って落としたわね。そうすれば、他の人に見られることはなく……一気に外に……」
これで良しか。
いや、昨晩を思い出すと違うことが分かってしまった。
「違う」
「えっ? 氷河くん……何が……結構いけてる線だと思うんだけど!」
「だって、昨日油で汚れてる人はいなかった。もし、抱えたんなら……油で犯人の服がぎっちょりのはず。そこから燃やして、服を着替えてなんかいる時間はあるかなぁ。焼死死体の元に集まった時、僕達の中に油で汚れた服を着る人なんていなかったよ」
「犯人は早着替えの達人だったの……かな?」
知影探偵が僕への反論を探っているうちにカルマさんが喋り出す。彼女は頭に指を当て、何かを考えていたようだ。
「……確か、服の……順番とかを考えると。あそこで間違った服を着ていた人はいなかったはずよ。今日着るだったはずの服。三日目の服を皆ちゃんと着てたわ。で、まだ洗濯機を動かしてなくって……その中にも油塗れの服はなかったわね。それで……ちょっと待ってね」
「は、はい」
知影探偵が返事をすると同時にパタリと外に出て、カルマさんは大きな声でキスさんとコマキ先生に質問した。同じく部屋に引き籠っているエミリーさんにも、だ。
「ねぇ! 二人の衣服の中に汚れているのってあった? エミリーちゃんもどう? ある!?」
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