Ep.24 探偵少女育成計画

 コトハさんと僕は、キスさんから乾いたタオルを渡され、びしょ濡れの髪の毛を拭いていた。少々水を含んだコトハさんのセーラー服が薄っすらピンク色の下着を透かせている。

 見なかったことにしようと視線を明後日の方向に。そちらには濡れた服装で歩き回り、ポタポタ顔から雫を落とす知影探偵がいた。

 彼女は何とも微妙な表情をして、僕に情報を提供してくれた。


「カルマさんと見回ってきたけど、ちょっとしたもの以外怪しいものはなかったわ。大きな袋もシャルロットさんの部屋になく……窓が開いてたからもし、シャルロットさんが犯人だとしたら、使った後、外に捨てた可能性が大きいかも……」


 そのことについて、カルマさんはシャルロットさんから話を聞いたらしい。後ろから歩いてきたカルマさんがそう語ったのだ。


「シャルロットちゃん曰く、『自分の部屋のゴミ袋が無くなっていたことには気が付かなかった』って」


 取り敢えず、無くなっていたとして。今回たまたまコトハさんが見つけただけなのか。それとも後から犯人は「袋が無くなっていた」と言えたのか。

 気になったので、カルマさんに聞いてみた。


「あの……そのゴミ袋って、元々大きいのって分かってたんですか?」

「そうね。あの子は結構ゴミを出すって言ってたから。他の人とは別に大きくしたのよ。それがどうかしたの?」

「もし、犯人がそれを知っていたとしたら。シャルロットさんに今の状況で罪を被せようとしていたってことになりますよね。今回はコトハさんが言いましたけど。後でシャルロットさんの袋のことを言ったりして」

「そっか。その事実はたぶん、一回最初に集まった時にシャルロットちゃんの動きを見れば分かったと思うわ。大きなゴミ箱をよいしょしてたから」


 つまるところ、犯人は間違いなくラナさん、イークさん、シャルロットさんを恨んでるのでは……そんな考えが生まれた。

 調べることの一つとして、僕はカルマさんに伝えていた。


「ありがとうございます。となると、シャルロットさんを含め今まで亡くなってきた人の共通点って分かります? 少しプライベートなものでもいいです。動機に関係しそうで」


 カルマさんは個人情報を出すことに一瞬躊躇をしたみたいだが。長い茶髪をタオル拭いている知影探偵が「氷河くんの話が本当だとしたら、教えてもらわないと大変なことになります」と急かしたため、言うしかなかったようだ。


「分かったわ。この三人、年はちょっと違うけど学年は全部同じよ」


 学年が同じ。そう思ったところで少々思い浮かぶ動機が見えてきた。知影探偵も同じことだろう。

 いじめの報復。クローズドサークルにて、今まで自分をいじめてきた奴に復讐をしたのではないか、と考えたのだ。知影探偵が呟く。


「動機は分かったわね。じゃあ、同じ年の人が怪しいかも。学生時代に何か」


 そう言うと残念な発言がカルマさんの口から飛んできた。


「エミリーさんが同じ年だけど……残念ながら、彼女はその時はこっちの日本にはいなかったからね……」

 

 と同時に知影探偵は口を大きく開け、そのまま「ああ……」と唸りつつ固まった。他の人は同じ年齢ではなく、こういった動機から犯人を見つけることは無理そうだ。

 ここまで情報が集まっても、僕は更なる情報を欲していた。まだまだ足りない。謎を解くためには調べられる場所があるはずだ、と今度はコトハさんとカルマさんにお願いする。


「そうだ。後、調べてほしいことがあるんです。コトハさん! さっきのケーキを作っていた人を探してくれませんか? 何かあると困りますから、カルマさんと一緒に!」


 今回も二人で調査してもらう。二人の理由は犯人の襲撃を避けるため、だ。

 カルマさんもコトハさんも僕のやることに意味を感じ、浴場の方へと走ってくれた。

 そんな僕に一人だけ、知影探偵だけが無言で見つめてくる。その理由をストレートに尋ねてみた。


「何か不満ですか?」

「いや、何で自分で調べに行かないのかしら? 安楽椅子探偵のつもり?」

「違いますよ。今、女性の何人かは浴場に入っちゃってますし。その人達の元に男の僕が直接尋ねに行く訳にはいかないでしょう」

「分かったわよ。で、でも、後、何でコトハちゃんに頼むのよ」

「えっ? 何故、そこに……」

「気になっただけよ。ケーキの話を聞きに行く位なら……」


 それは知影探偵よりもコトハさんが良かった理由がある。それを言ってもいいものか。コトハさんの透けた胸を見てはいられなかっただけなのだ。下手したら下着すらも透けて、絶対に見てはいけないプライベートなところまで目に付いてしまいそうだったから。

 知影探偵の場合は厚手の着ぐるみであるため、そこまで中のものが露わになることもない。

 そんなことを発言できる程恥晒しではない僕は、別のことで話を誤魔化した。


「確か、知影探偵何かゴミ袋以外に怪しいこととか何とかって言ってませんでした?」

「あっ、そうね。そのことについて聞きたかったのね。……頼られなかったってことじゃなかったんだ」


 何かよく分からない言葉が最後に聞こえてきたけれど。他の発言より小さな声だった。たぶん悟られたくない何かだろうからと、そのことについては触れずに話を進めることにした。

 タオルを近くにあった洗濯機に放り込みつつ、知影探偵に問い掛けた。


「で、何を見つけたんです?」

「新しい手掛かりよ。もし、シャルロットさんが犯人じゃなかったら。犯人は別の容器を使って上から油か何かをぶっ掛けたってことになるわよね」

「そうですね。体を覆う位大量じゃないとあそこまで燃えそうにないように思えますね。人間って水でできてますし」

「そうよねそうよね! その場合、こっちに来なさい」


 知影探偵の案内により、三階のラナさんがいた部屋にやってきた。この部屋はラナさんが死亡した後に一回、彼女の死因となった毒を探しに訪れたはずだ。その時は何も見つけられなかったのだが。

 彼女は何を見つけたと言うのだろう。


「知影探偵?」

「これよこれ!」


 僕は思わず口から「へぇ!?」なんて声を出してしまった。彼女が持ち示したものは、何本かのペットボトルだった。


「これだけ大量にあれば、油をぶっ掛けることができるんじゃないかしら?」

 

 それは無理だと反論しておく。


「そんなにちまちま上から油を流してたら、その間にイークさん逃げるんじゃないんですか?」

「ああ……」

「しっかりしてください」


 この探偵少女は、またもとんでも推理を披露した。もう少し思い付いたものを思考してくれれば違うことも分かるはずなのだが。

 そう思ったものの、彼女は違うところに思考力を使っていた。


「残念。このペットボトルが洗われてたから、油を入れたんだと思ってた」

「えっ!?」


 僕は彼女とは別のペットボトルを拾って、中を確かめた。中身は今や水滴だけ。ジュースが残っているペットボトルは何処にもなかった。

 

 

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