Ep.19 権と麻薬の税関対策?

 朝食が終わり、コトハさんと別れてただただ退屈な時間を過ごす。これ以上、調べられる場所がない。知影探偵と今後の方針を話そうとするも、ほとんど案が出なかった。

 だから、昼飯までの時間はずっとノートに捜査で分かったことを書き続けていた。彼女は僕の部屋に入ってきて、じぃーっと横からノートを覗いてくる。自分の字について何か指摘するに違いないと思ったから、隠そうとする。

 ただ、その前に彼女は珍しいことに役立つアドバイスをしてくれた。


「そういや、まだ人間関係について詳しいことは分かってないのよね……?」

「ああ……そういや、そうですね」


 今回は毒か病死かで、誰も犯人を見ていない。証拠に繋がるものも見ていないだろうからと聞き込みを省いていた。だから完全に動機に関する調査を視野に入れていなかったのだ。

 動機。意外とこの聞き込みがヒントになることもある。例えるなら……前に起きた簡単な事件であったのが、海で友人が殺されたから、その犯人を溺死させ報復してやった、だ。この犯人の考え方は、「被害者に同じ苦しみを与えてやりたかった」なんてもの。もしかしたら今回の事件に関しても犯人は同じことを考えているのかもしれない。


「そうと決まったら、いきましょっか!」


 力強く叫ぶと、真っ先に駆け出していった知影探偵。彼女を追い掛けると、ダイニングに到着する。彼女はここでまた優雅に茶を飲んでいるキスさんから話をした方がいいと推測したらしい。

 早速、椅子に座っている彼女に事件を調べていると伝えていた。


「事件のことについて、調べてるんですが……お話いいでしょうか?」

「知影探偵……」


 僕は知影探偵の後ろであわあわ焦っていた。キスさんがもし、「探偵ごっこなどやるな」と考えれば、僕達の信用度は下がる訳で。残り四日ある中で共に生き残ろうとする仲間が邪険な雰囲気でいるのも何だかなぁ、と考えてしまったのだ。余計な油断なのかもしれない。知影探偵のように積極的に進まなければ、謎は解けないのだから。

 心配していたものの予想よりも簡単にキスさんは受け入れてくれた。


「いいですよ。事件のことに対して、何でも聞いてってください。探偵なんですってね」


 彼女はキリッとした目付きで受け入れがたいような表情を見せるも、言葉の方は弾んでいる。口調と態度が矛盾しているような。

 気前の良さに不信感を持った僕は尋ねていた。


「い、いいんですか? 普通なら高校生が探偵の真似をして、ふざけるな……と言いそうなものですが」

「コマキ先生に聞きましたし。さっき、部屋の外から自慢話が聞こえてきましたから。ねぇ、知影様」


 知影探偵、自分で誇っていたくせに、今はほんの少し恥ずかしそう。ちょっぴり赤面していた。

 彼女が動かず、僕が質問することとなった。まぁ、本人が良いと言うのだから遠慮はなしに。


「で、いいですか?」

「いいですよ。こういうやり取りを種にして、後からコマキ先生に伝えて。今度探偵が主役のライトノベルを書かせてみますよ」

「ありがとうございます。では、ラナさんってそこまで恨まれてる人だったんですか?」


 キスさんは「死んだ人のことを悪くは言いたくないのですけど」と言いつつも、迷わずバンバン答えていく。悪く言いたくは、なかったのではないか?


「ええ。仕事は良くても付き合いが最低でしたね。噂でも友人の彼氏を取っただとか、度々いろんな出版社に自分の絵を盗作したんじゃないか怒鳴り込んで他の作家の立場を奪った、だとか。悪い話が多いですね」


 知影探偵はそれに反応した。


「殺されていいってことじゃないですけど、典型的な殺されタイプの女性ですね」

「ですよね。恨む人はたっぷりいたってことです。コマキ先生も自分の作品に口を出されたりして。対応は普通だったけど、心の中ではどう思ってるか」

「他の人は……?」

「ワタクシに関してはあんまり。エミリーさんも、他の人もピンと。イークさんに関しては逆に仲良かった位だから」

「ううん……と言うことは、コマキ先生が怪しいと言うことですかね……」


 おっと。コマキ先生犯人説が濃厚になってきた。僕がもっと突き詰めてみる。


「じゃあ、他に何か思い当たることとかありますか? 何か接点でも」

「思えば思う程、逆ですね。一緒に海外へ行って、出張することもありましたし。そこでもワイワイしてた気がします。あっ、ただ」

「ただ?」


 僕も知影探偵もその怪しい言葉に反応し、距離を詰めた。彼女は全く表情を変えない。いや、彼女も椅子を引っ張って、無理に近寄ってきた。


「何か……を売ろうだとか、持って帰ろうだとかワタクシに秘密でやってた覚えがあります。最近、数か月前に行った時もそうですね……」


 何故か知影探偵は肩を上下に揺らしてそわそわ。何だかこちらに話したい事があるかのように口をパクパク動かしていたので耳を寄せてあげた。

 帰ってきた言葉がこれだ。


「ま、まさか。あの二人、麻薬の密輸でもやってて! それだったら、今回の事件も納得できるかも!」

「えっ」

「今回の事件の動機はズバリ仲間割れ。トリックについては麻薬常習犯だったラナさんしか反応しない麻薬とダメな組み合わせの食べ物を使って毒殺したのよ!」


 ……溜息しか出ない。溜息だけを耳に流してやろうかと思ったが、しっかり否定する根拠を教えておく。


「知影探偵……空港の荷物検査はそこまで甘くありません」

「えっ? 飛行機に乗ったことあるの?」

「一応何度か……って、なくても分かります。麻薬なんて通しません。それにラナさんの体を見ました? そこまでボロボロでもなかったんですよ? 麻薬なんてやってたら、美貌はテレビに出れない程崩れ、死に様も哀れなことになると思うんですが」

「あっ……確かにそうね……あはは」

「その推理を披露してたら、ラナさんの遺族に訴えられてもおかしくなかったんですからね。気を付けてください」

「う……!」


 彼女が僕の言葉に逆らえなくなったところで、キスさんの方に視点を戻す。と言っても、もう話すことはないみたい。「心当たりがないわね。厨房にいる彼女に聞いてみたら」とカルマさんの方に話題を振った。

 その声が少し高くて厨房の方にも届いたみたい。彼女から言葉が飛んできた。


「探偵なんだってねぇ! 私の方はいいわよ。どうせ解けなくって当たり前。だけど、やれるだけやってみようとすることはいいと思う。ラナさんの死体や部屋を荒らさなければ。話をするだけなら、オッケーよ。協力してあげる」


 さてさて。彼女にも色々と聞いてみたいことがある。彼女はここにいる人の情報を把握しているから、誰がどういう機嫌なのかも分かっているみたい。

 大人のお姉さんに頼らせてもらいますか。


 

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