Ep.18 フロラノベ先生
食品庫を調査するため、ダイニングに戻ってくる僕、知影探偵、コマキ先生にコトハさん。ダイニングでまだまだ口論を続ける三人と紅茶を一人啜っているキスさんを差し置いて、厨房へと足を踏み入れる。
まずは一度冷蔵庫の中をチェック。あるはずのない毒。当然、その中にはピンと来るものは見つからず、ただただ冷蔵庫にはラナさんのジュースがあった場所が空白になっている。
結構あったはずだけれど。本当に一夜で無くなってしまうとは。ジュースの飲み過ぎによる糖分過多。流石にそれで一夜で死亡するのは、不自然だ。
そんな感想を覚えて冷蔵庫を閉じる。そうしていると、コトハさんが僕に助けを求めてきた。
「おーい! ヒョウちゃん! コマキ先生を手伝ってあげて!」
「ん? あっ、はい……って」
彼女は床にある食品庫の扉を開けるのに苦労しているよう。本当に重いのかと思ってたら、その上に知影探偵が乗っている。
僕が知影探偵に指で足元を見るよう無言で示しておいた。
「どうしたの? あっ、しまった! すみません。先生……!」
「まぁ、いいよー!」
と言うことで開けると、そこには少々僕達の興味を刺激する階段が見えた。厨房の下にこんな大きな空間があるとは、驚かざるを得ない。
早速、降りていくコマキ先生の後を三人でついていかせてもらった。
階段の下まで降りた後に見える暗闇の景色に誰かが電灯を
そんな景色に知影探偵は拳を固めて張り切っている。
「さて、探そうかな!」
探索を始めようとする彼女。彼女に残念なお知らせだ。
「あっ、知影探偵。たぶん、ここには毒はないと思います。あったとしてもラナさんの死には関係ないかな、と」
「えっ?」
「埃です。この状況じゃ、誰か入っていたら埃が乱れているはずですし……ああ、コトハさんも探さなくていいですよ。コマキ先生も」
動こうとしてた美少女探偵団の三人組を制止し、引き返すよう告げた。山のようにあるお菓子を誰かが持ち出し、これに毒がなんて言い出したらややこしくなるし。そもそも賞味期限も分からないし、溶けているか腐っているかしているものを食べたくはない。
そのまま手掛かりを見つけられず、外へ出ることにした。
「病死か毒殺か証明できないし、何探してもヒントすら見つからないよ……あっ、そうだ!」
ここでコマキ先生は風呂に入りたいと言い出した。動いたことで冬でもあるのに汗だくになってしまったからだそう。
彼女は僕達へ一方的に「お風呂入って来るね!」とだけ伝えて去ってしまった。こんな状況でも立ち直りは早く、落ち着いている様子。そんなことを考えていたけれど、知影探偵は違う見方をしていた。
「落ち着きたいがためにお風呂に入ってるのかしらね」
「あっ、そうかぁ」
僕は思わず納得していた。確かに入浴はリラックス効果があり、焦った心を塞き止めてくれる。自分が病気になるのではないか、なんてあり得ない不安。これが殺人だったら、特に無差別だったら自分が次の被害者になるなんて不安。論理的には正しいと言えなくても、人はどうしても憂いを覚えてしまう。幽霊話なんかがその筆頭だ。いるはずがなくても聞いただけで足が固まったり、暗闇の中に入れなくなったり。
今回は幽霊がウイルスに変わったのだ。
たった、それだけ。僕はそう信じ込んで、進むことにした。が、その前にここにいる女子は風呂談義なんかを始めていた。
コマキ先生にも言えることだけれど、まだ午前十時前。普通の入浴には早すぎる気もする。
そう思っているうちにコトハさんなんかは僕の知らない山荘の情報を語っていた。
「そう言えば、知影先輩は入浴剤何使いました? うちは桜の匂いを」
「ゆずの香りのやつよ」
事件とは話が逸れることをツッコもうとするも、別に彼女達には謎を解くべき義務もない。僕一人だけでも良い。
別のことを考えようかと思ってたところ、コトハさんが話を振ってきた。
「で、入浴剤何入れた?」
「あっ、いや、僕は気付かなかったです。眠くて眠くて仕方なかったので……」
「まぁ、昨日はあれだけ騒げば仕方ないっかぁ。ヒョウちゃん、もう一度入ってくれば?」
「あっ、でもまだ昨日入ったままなんだよなぁ」
そう言われ、少々困惑する。バスタブの掃除がまだなのだ。たぶん、掃除に関してはカルマさんやシャルロットさんが昼間のうちにやっておくのかと思っていた。
ただカルマさんはまだ怒りを抑えきれていないのか、ダイニングで飯を食べている。イークさんはいなくなっていて、部屋に戻ったことが
シャルロットさんも少しずつだけれど、コーンフレークを口にしていた。だから、まだ風呂掃除が終わっていない、と考えていたら知影探偵が腕を組んだ状態で否定した。
「そこまで綺麗好きだったか知らないけど、氷河くん……あれ、自動洗浄機能が付いてたわよ」
「えっ? そこまでハイテクなの!?」
「ええ。意外とこの館、ハイテクなところ多いわよ。トイレだって音楽流すだとか、凄い、いろんな機能付いてるし」
外から見ると、何だか恐ろしく古風にも思える洋館。ただ中はとても科学的な山荘だった。まさに高級感
そう言って「へぇ……全く気付いてなかったよ。幾ら掛かったんだ? その何か凄いの」と間抜けになっている僕に対し、コトハさんがくすっと手で口を覆って笑っていた。
「コトハさーん……」
「ま、まぁ、ヒョウちゃん、怒らないで。何か、君朝から普通の高校生らしくなくってさ。何から何でも完璧な探偵さんかな、って思ってたけど。こうしてみるといろんなところに人間らしいところがあって」
「今まで僕をどんな生き物だと思ってたんですか……」
そんなふわふわの雰囲気に戻っていく僕達。これはあまりにも迂闊でふざけた行為。確かに気が張っていては解けない謎もある。
ただ、そんなんで良いのか。
そうしていたことが不幸を招いたのではないか。
六時から何も食べず、お腹が空いたということで僕達は厨房で封の開いていないご飯を選んで食べ始める。
その時は、まだ知らなかった。油断していた。ラナさんに続き、この事件に新たな犠牲者が出るなんてことは……。
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