Ep.17 結成! 美少女探偵団!

 皆、この中にいる人間の醜悪なところを知ってしまった。そのショックは計り知れない。特にイークさんの豹変ぶりに関しては知影探偵も理解できていないようで目を回している。

 僕はぶりっ子的なアイドルが煙草を吸ったり、未成年飲酒をしたりなんて当たり前だと思ってたからショックをほとんど受けなかったのだが。

 やはり、コトハさんには衝撃的だったのだ。今もまだ目を覆い隠して泣いている。そこをコマキ先生が涙目で慰めていた。


「コトハちゃん……こういうことも……あるんだよ。仕方ないよ」

「ぐすっ……先生にそう言ってもらえて……」


 そんな二人がこの静かな広間で落ち着いてくれれば良いのだが。そう思いながら、知影探偵に話し掛けた。


「あの、知影探偵どうします? この事件を病死だと断定しますか?」

「しないわ。やっぱり、昨日のラナさんの態度……本当に誰かに狙われてるようだし、そんな最強のウイルスだったとしたら、ここにいるみんな、もう死んじゃってるんじゃないかしら」

「ですよね」

「ううん……本当は用意したら、ほとんどの料理に毒が入ってて、ラナさんを除いた皆が食べたものに解毒剤が入っててとか、あるかしら」

「恐ろしい推理はしないでください……!」


 確かにその推理が正しいとしたら、僕達の腹にも一回は死を招くレベルの毒が入ってたことになる。そんな戦慄してしまうような話に対してコマキ先生が横から小声で教えてくれた。


「あの子、何でも食べるから……どれを食べないか、食べるかは分からないよ……カルマさんに聞いてくれば分かるけど、アレルギーも特別な体質もないし」

「あちゃあ……ワタシなりに考えてみましたけど、ミスりました……ですよね。昨日の夕食は自由で……誰が何を食べるか取るかなんて予想はできませんし」


 これにてまた可能性は消えた。

 他に毒を入れた方法を考えなければならない。

 その際、たよれる人物は誰か。

 とにかく、知影探偵は今のところ不審な行動を取ってはいないし、感情で暴走もしていない。今、探偵に頼るのは嫌だと言う僕の考えは捨てて、彼女の推理力の有無も忘れ、正しく状況を分析できる知影探偵と共に動くことを考えよう。


「知影探偵……一回、ラナさんの部屋を一緒に確かめに行ってもらっていいですか? 彼女が本当に他の物を口にしていないか確認したいですし」

「そっか……もしかしたら飲んでたものの中に毒が入ってたかも」

「そうですね。それを確かめたいですし、もしかしたら自殺のための毒が隠されてるかもだし……」

「ああ……!」

 

 そんな僕の言葉を聞いていたコトハさんが目を大きくする。泣いていた涙を何処かに消して、こちらの話に入ってきた。


「そう言えば、知影先輩、探偵って呼ばれてますよね。こっちも探偵なんです?」


 知影探偵に憧れの眼差しみたいなものを向けていた。こちらの探偵は動揺することもなく、自信ありげに言い切った。


「ええ! 最近のニュースで聞いたことがないかしら? とある学園で女子高生が刺殺されたって事件。結局は犯人は自殺しちゃったけど……それを解決したのは、このワタシ達なのよ!」

「おお!」


 解決したのは、か。最初に彼女と出逢った事件だけれど、解決したかは微妙なような。いや、まぁ、彼女のおかげで僕は刺殺されずに済んだところもあるから、手柄は譲っておこう。

 コトハさんはそれを知るや否や、僕と知影探偵を交互に見ながら、頭を下げてきた。


「これは依頼みたいなものなんです。お願いします。この滅茶苦茶嫌な雰囲気をどうにかしてください! あの人がちゃんと病死か毒殺かが分かれば、カルマさん達も落ち着いてくれますよね」


 知影探偵は自分が褒められたことに気が高潮したのか、その依頼を請け負った。


「分かったわ!」

「ついでに一緒に調べさせてください。うちも助けたい!」

「オッケー!」


 そこにもう一人。


「わたしもいくよ!」

「オッケーオッケー全員来て! 美少女探偵団結成だよ!」


 僕は「え」の声も出さずにいたが、しれっと美少女探偵団結成してなかったかな? 僕は完全に少年なんだけれど。最悪、美少年にはなるけれど。探偵団って……。


「じゃ、ちょっと待ってねぇ」


 コマキ先生の引率まで許可する始末。僕が心の中で美少女探偵団のことを狼狽うろたえている間にコマキ先生はダイニングに一階戻り、ペットボトルのジュースを持ってきた。


「ああ、いいなぁ! ジュース! 飲んじゃっていいんですか!?」


 コマキ先生の持ってきたものを羨ましがるコトハさん。コマキ先生は「単にラナさんが死んじゃって飲む人もいないし、昨日全部持ってったみたいでさ。これが最後の一つみたいだし……飲む?」と言って、コトハさんにちょびっとだけ飲ませていた。コトハさんいわく「美味しい」らしい。

 ラベルを遠くから確かめてみると、今話題のオレンジソーダだ。ジュース自体が一瞬で毒になる訳でもないので、注目しなくてもいいだろう。

 全員が落ち着いたところで三階のラナさんがいた部屋へと向かう。扉を開けた瞬間に異様な視界が僕の目の前に広がった。


「……これは酷いな」


 自然とぼやいてしまう。

 ただグロテスクな惨状を見たのではない。彼女が夕食の後に持っていったジュースのペットボトルが四方八方に転がされている。

 この掃除をカルマさんかシャルロットさん、他のスタッフに任せるつもりだったのだろうか。ついてきたコマキ先生もコメントを入れる。


「この汚さについては家で飲み会やってた時も……そうだったかなぁ。すっごーい、汚くって……ううん……何とも言えなかったなぁ」


 コマキ先生も絶句してしまうレベルだったと言うことか。

 知影探偵達には何か変なものが落ちていないか三人組一緒になって探すよう伝えた。一応、ラナさんの死が殺人によるもので、この中に犯人がいる場合、自殺だと勘違いさせる証拠を放り投げる危険性もあるから。三人で見張り合ってもらうのが一番だ。最初に指紋を付けないよう、全員に言っておく。


「そうそう。始めますけどあんまり触らないように。僕は袖を使って、指紋を付けないようにするから。後から来た警察に迷惑が掛からないよう……」


 僕はそう言ってから、落ちているペットボトルの確認を始めた。ペットボトルに穴が開いていて、そこから毒を注射された痕跡が見つかるかもしれない。

 そう思い、一つ一つチェックしていく。

 犯人が毒を入れたとして、本当にラナさんだけが飲むとは限らない。この山荘には自由に人の物を貸し借りしている人がいるから、勝手にラナさんのために用意されたドリンクを飲むことだってあるだろう。

 ラナさんだけを狙うなんて、本当にできるのか。

 考えながら、全てのペットボトルをチェックしてみるも手掛かりはなし。いまだラナさんの死因も特定できず。 

 ただ一つ分かることと言えば、今開けたトランクの中に彼女の着替えが綺麗なままで四日分入っている。

 確か遺体になった彼女が着ていたのも昨日の服と同じもの。彼女は服を着替える前に森の中へと出掛けて行った、ということだ。

 そんなことしか分からない状況。僕は頭を掻きながら、「毒は何処に……」と口にした。と同時にコマキ先生は手拍子をして、「あっ!」と大声を出していた。

 それから僕達に珍妙なことを伝えてきた。


「キッチンの下の食品庫! 地下室みたいなものなんだけど。あの中に大量のお菓子やらジュースが前に貯蔵したまま残されてたんだ! もしかしたら、あの中の何かに毒が入っていたのかも! ラナちゃんだけは下見の時にその辺りを見てたし!」


 秘密の地下室があった、か……! 未知の場所に重要な証拠が隠れてることも多い。一度、調べる必要が出てきたな。


 

 

  



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