Ep.8 上の階から問題児が来るそうですよ
まずは一階。広い玄関をまっすぐ進むとホールがあった。そこから階段が幾つか伸びているのに加えて、一階にある様々な場所へと進むことができるようになっていた。
やはりゲーム内のマップを探索しているようで心が踊らされる。カルマさんもニコニコしながら、隣の部屋であるダイニングへ誘導してくれた。
テーブルには十人分の椅子が用意されており、名札もきちんと用意されている。僕の席が右端であり、その正面が知影探偵のもの。彼女は早速座っている。
そんな彼女にしょうもない疑問を抱いた。
「知影探偵、もうお腹が空いたんですか? 夕食まではちょっと時間がありますが……」
「そ、そういうことじゃないの! クッションとかの座り心地を確かめてただけよ! あっ、ワタシの隣が編集者の人なんだ」
「……そうみたいですね。僕の隣は……あっ、コマキ先生だ……この二人、睨み合いながら食べるのかな……まさかね」
食べながら楽しい談義も進みそうで何より。食事の時間が少しずつ楽しみになっていく。ついでにシャルロットさん達が彼女自身の席の場所も教えてくれた。
「ええと、自分の席は一番左側の手前に自分で、カルマさんと対面してるの。もし、食器が足りなかったり、落としたりした場合は自分達を大声で呼んでね」
シャルロットさんの場所も分かった。ただ隣を見て、少々苦笑い。シャルロットさんの右手すぐに、気の強い女性、ラナの名札があった。彼女に文句を言われるのだろうか。代わってあげたくなる程、気の毒に感じてしまった。
僕がラナさんの名札に注目していることでカルマさんは何か勘違いをした。たぶん、僕が彼女に興味を持っているとでも思ったのだろう。
「ほら、ラナさんって分かってるわよね……」
「ええと……ううん、どっかで名前を聞いたような」
その前に知影探偵が自分の知識を誇るかのように喋り出した。
「いやねぇ。ラノベ読者ならすぐに分かりなさいよ! コマキ先生の作品読んでるんでしょ?」
それでやっと思い出す。表紙に彼女の名前が出ているのだ。
「ああ……! イラストレーターの人か!」
「ええ。コマキ先生の作品を良く担当してる人よ! 思い出した?」
「はい。あんな人だったんですね。あんまりピンと来ませんでした。確か、もっと繊細な人かと思って……」
「まあ、人と作品なんて全然違うわ。あのふんわりしたコマキ先生がしっかりとした感動話書けるんだもの」
「なるほど納得」
話が終わったのを見計らったカルマさんが厨房のことも教えてくれた。厨房ではまだ人はおらず、大きな冷蔵庫に四泊五日分の食料と飲み物が入っているということだ。わざわざ冷蔵庫を開いてくれた。
そこで目立ったのが僕達が飲むものとは別に用意された大量のジュースのペットボトルやコーヒー牛乳。そこにもラナさんの名札がある。
僕が先に予想をしてシャルロットさんに尋ねた。
「これがラナさんの要望したものの一つ?」
「そうだよ……」
「運ばされたんです?」
「あっ、そう言えばこれだけはラナさん自分で運ぶって言ってましたよね。カルマさん」
カルマさんも不自然に思ったよう。
「そう言えば、そうね……? 何でも人に命令口調な彼女が何で……ああ、もしかしたら自分の飲むものは他の人にベタベタ触られたくなかったのかも」
ただ彼女は彼女が出した答えで自己完結していた。もう疑問に思わなくて良いみたいだ。
それを考えた上でシャルロットさんが「あっ! 忘れてた!」と言い出した。
「カルマさん、すみません! 車の方に忘れ物をしました! まだ足りないって文句を言われるかと思ってジュースを買い足してたんです」
「車の助手席に忘れたのね。はい。車の鍵」
「ありがとうございます!」
シャルロットさんが駆け出していき、僕と知影探偵とカルマさんで部屋を見ていくこととなった。
厨房とダイニングを出た後は、一階のトイレと浴場に案内された。かなり広く使いやすそう。その隣には洗濯機も付いていた。ここで一応、汚れたものは洗濯できるみたいだ。
「下着の代えはないからね。もし汚れたら、自分で洗わないと!」
カルマさんが僕を見て、何かほざている。僕が何をやると言うのだ。僕が……。知影探偵が妙な視線を僕にぶつけてくるものだから、様々な疑いを否定しておく。
「悪いけど、覗きとかもしないから! 汚れるようなこともしないから! で、カルマさん! 二階に行きましょう!」
問題は僕達が寝泊まりする部屋、だ。浴場から出て、二階への階段を開ける。すぐ正面に一つ。右の方に一つ。左の方に一つドアがある。どうやらこの階に五つ分。最上階である三階にも五つの部屋があるとのこと。
正面のドアが二階にある寝室に続くもので、左がトイレ、右が三階への階段だ。
僕達が寝泊まりするのは、スタッフと同じで二階とのこと。こちらは奥に一つ、コトハさんの名札が掛けられたドアがある。
僕はその一つ前の右手。やはり、正面には知影探偵のものがあった。その隣がスタッフの寝室。こちらは何かあった時、僕達の方が彼女達に知らせやすかった。
僕は一つカルマさんに提案をする。
「では、今から中を見てきてもいいですか? 一人で……色々確かめたいものがあるので寝る場所とか……着替えるものの」
知影探偵も同意らしかった。僕も見ておきたい。着替えるものでどれだけ靴情的に感じるのか。先に一応覚悟を決めておけば、少しは楽になるはず。
「いいわよ!」
快く、許可を貰えたので僕は自分の寝室に飛び込んだ。
「では!」
シックな部屋だった。高級そうなマットにふかふかの大きなベッド。前に聞いた話によると、ここは作家が合宿する場所としても使われているようで。所謂、VIP専用の寝室みたいなものだ。
ホテル、いや、それ以上の寝心地は保証されることであろう。
非常に寝ることも楽しみと言えよう。ついでに金髪の女性までついてくるとはいいサービスだ……。
「って、えっ?」
僕は部屋の中の状況を納得しかけたので自分で自分の頬をビンタした。そうして気を取り直し、ベッドに座る存在を確かめた。
見間違えでも何でもない。金髪の女性。彼女が顔を見せたことで誰だかは分かった。キスさんと同じ車に乗っていた外国人だ。
しかし、何故!?
彼女は僕の方に振り返ると、口を手に当てた。
「オー! これはすまなかったデスね! エミリー、つい勘違いしてしまったみたいねー。わははははは……!」
「へっ? へっ? へっ!?」
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