Ep.1 僕の清純ラブコメはまちがっている
その郵便受けに入っていたものが衝撃的で僕は一瞬くらっとなって気を失いかけた。そこで思う。僕は今、一生分の運を使い果たしたのではないか、と。
まさか何万人が応募し、その中で二人一組しか当たらない懸賞の褒美を得られるとは夢にも考えていなかった。
「……美伊子」
今は近くにいない幼馴染の名を呟く。
彼女のおかげ、と言うべきか。「FF文庫のライトノベルを十冊買って応募し、異世界体験ツアーに参加しよう」なんて懸賞、僕一人だったら興味もなかったはずだ。
美伊子が「ねえねえ、作家先生の山荘に連れてもらえて。そこで普通は会えないモデルさん達やラノベ作家の先生と話ができるんでしょ?」と応募用紙を持って、僕もライトノベルを何冊か買うよう強制させられたのだ。
その時は暇つぶしに本を買うのが目的でツアーなんか当たる訳ない。共に美伊子とライトノベル談義でもできれば……なんて夢を見ていたっけ。
しかし、現実は非情なのか。この世を作り出した神様が捻くれていたのか。
僕が考えていた美伊子と一緒にいられる未来が握り潰され、ツアーに参加できることが決まった。本当に不思議なものだ。そう思いながら、溜息をついた。
「まぁ……参加はするんだけどね」
美伊子が帰ってきた時のために。彼女に楽しいツアーの思い出を話せるようにするために。
僕は参加を決意し、要項を確認した。
ツアーが行われるのは高校の冬休みの最中。年越し前に四泊五日で異世界のような体験ができるとのこと。見出しはそうだが、本当の開催理由は宣伝のためだとか。美人のライトノベル作家やモデル、タレントが集まって、作品やコラボした会社の製品コマーシャルを作るらしい。
特にそのイベントの中では僕が重要だと言う。物語の中には異世界で女の子に囲まれ、ハーレムを謳歌するものがある。実際にそのハーレムを体験して、真ん中で僕が叫ぶのだとか。
少々恥ずかしいかもしれないが。きっとライトノベルのCMなんて一年経てば、皆忘れることであろう。一時期、有名人になるだけだ。問題はたぶん、ない。
持ち物に関してはかなり制限があった。希望するものを細かく一人一種類ずつ持っていけるとのこと。一応、応募する時に僕と美伊子は鉛筆とノートと書いた。盗撮等の恐れがあるためか、決まった人以外スマートフォンやカメラを持っていくのはダメなようで。思い出を記録をするためには筆記用具と紙を用意するしかないようだ。
暇つぶしの道具は山荘に用意してあるとのこと。衣服に関してもあちら側が四泊五日分用意してあるようで。僕と美伊子は互いの体のサイズまで書かされた。
他の情報はない。連絡したいことがあれば、今持っている紙に記されている電話番号に掛ければいいとのこと。
問題としては、美伊子のことだ。彼女は今企画に参加できる状況ではない。参加を棄権すると言うべきではあるが。企画した側も人数分の食事や着替えをもう用意してしまっていることであろう。せめて代理の人を立てなければ、失礼な気がする。
かと言って適任な人はいるのか。
着替えのことからして、必要なのは女子だ。そして美伊子と同じサイズの服が着れて、僕とハーレムツアーに行くことを了承してくれる人が……。
同じクラスや学校にはいないと思う。僕が教室で本を読んでいても、女子の喧騒に邪魔をされるだけ。それを不快に思ってそうな女子を見かけたことがない。
ライトノベルファンやラブコメ好きはいないと考えて
他に僕の周りで女子と言えば……。
僕はある人物に連絡を取った。知っている中で一番、女子と横のつながりがありそうな人のこと。その人は僕の嫌いな探偵ではあるが。探偵として、様々な人物とつながりがあるだろうし、利用させてもらおう。
彼女と対面すると、開口一番に文句のようなものを叫んできた。
「ちょっと! 何で人との待ち合わせが病院前なのよ! 以前ワタシが入院した!」
「いや、うちから一番近くて貴方と僕が知ってる場所がここなんです」
「……縁起とかなんかそう言うもんを考えなさいよ。まぁ、ワタシとアンタが集まった時点で縁起なんて既に悪いようなもんだけどね!」
縁起が悪い、そう言う彼女の名は
いや、出会った場所が事件現場になっていると言うことがトレンドになっている。彼女の言う通り、まさに縁起が悪いとしか言いようがない。
ただあくまで縁起は縁起。会った場所、全てが事件現場になっている訳でもない。気にしないでおくことにして、早速僕は近くのベンチに座って話を始めた。
「では先に座らせてもらって……。知影探偵の周りにライトノベルに詳しい女の子っていませんか?」
「ライトノベルー? 何でそんなこと? ライトノベル作家にでもなるつもり?」
「外れです。何でそれだったら女の子に限られるんですか」
「それもそっか……じゃあ、何? 最近女の子との出逢いがないから、ラノベ好きで出逢おうって? ワタシは出会い系アプリじゃないわよ?」
……否定しようともした。ただ、よくよく僕のやっていることは探偵を人探し、ある意味出会い系アプリのようなものとして利用しているのと同じだ。
僕は一旦誤魔化すように咳払いをしてから、彼女に人を探している理由を伝えていた。
「いや、違うんです。ラノベのツアーの懸賞に当たりまして。それで参加できる……女子一人、いないかなぁ……って。探してるんですよ。二人一組なのに一人欠員ができてしまって」
僕は当選の証拠である封筒を見せつつ、喋っていた。気付かぬうちに彼女が強い力でそれを握っている。
「マジで?」
「えっ?」
「偽物とかじゃないわよね?」
「えっ? えっ? 本物だと思ってますけど」
「本当に本当に? あっ、でも、これ着るもののサイズが合わないとよね……」
聞いているうちに僕は叫びたくなった。「どうして、この企画の応募用紙にサイズのことを書かなければならないことを知ってるんですか!?」と。
「知影探偵……もしかして? あの……ごにょごにょ」
僕が他の人に聞こえぬよう、美伊子のスリーサイズや体格のことについて耳打ちしておく。
先程の疑問に対する解答が言葉によって提示された。
「嘘っ!? 同じじゃない! ワタシ、外れちゃったのよ! それ! わ、ワタシをだ、代理に連れて行ってもいいのよ。ねえ……」
何故だか上から目線。少々言ってみたくなる。「どうしようっかなぁ」と。
「連れてってください! 神様仏様
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