Ep.2 探偵が終わっても、仲間はいるから(終)
それからとても明るいトーンで話を続けていく部長。
「でもな。お前の疑えって言葉で何とかなったんだ。ばっちゃんも周りのみんなも悲しまずに済む道を選べたんだよ」
「部長……」
悲しい話をしていたはず。彼にとって信じていた身内の悪意など「嘘だ!」と糾弾して否定したくなるはず。
そのはずなのだが、彼の顔は綺麗なまま。僕にグーサインなんかも向けてくる。
「信じることも大切だが。何か危険だな、悩んでるなって思ったら……すぐさま疑う……その人の優しさを疑えってだけじゃねえ」
「その人が抱いてしまった過ちを疑うんですね」
「ああ……今、お前は大事な人の過ちで大切なメモリーを消そうとしてるかもしれねえ」
「うっ……そうでした。痛いところ突きますねぇ」
「オレ、エスパーだからさ!」
「エスパー……それだったら、事件の全貌を一瞬で暴いてもらいたいものだけど……まあ、いいです」
「それより戻るぞ。綺麗な思い出は消しちゃいけねえよ。消すのは悪い思い出。そいつが悩んで悩んで苦しんで悪くなっちまったことだけでいい」
最もだった。綺麗な思い出は綺麗なまま、心の奥底に仕舞っておこう。悪くなってしまったことは取返しのつかないことだ。しかし、それを糧にして本当に大切な人を失わないようにすることはできる。
例えば、ここにいる部長。親友の死を無駄にしないよう、必死で戦った知影探偵。真実を探るため、一生懸命業務をこなす赤葉刑事。
彼等を守ろうと心に誓う。
そう思っているうちに部長は隣で電話を始めていた。
「こっちだこっちだ」
誰と話してるのか、と思ったら電話を耳に当てていた、ご本人が登場。知影探偵や赤葉刑事だった。
彼女達は夕陽の背にし、息切れをしながらやってきた。
最初に赤葉刑事が僕に言う。
「吐いたんだよ! 桐山くんが吐いた!」
人の嘔吐について連絡しなくても良いと思う。そう思い、顔を歪めるも知影探偵がすぐに訂正した。
「赤葉刑事……それだとちょっと誤解を招くかも……えっと、そうじゃなくて! あの後、ワタシも赤葉刑事も桐山の取り調べをやったんだけど、本当の動機を吐いたのよ」
「動機……?」
そこを正常に戻った赤葉刑事が一から説明してくれた。
「彼に休学している親友がいるってことは知ってる?」
「ええと、聞きました。美空にフラれてって。そのショックで……?」
「まあ、そういうことなんだけど。その後に被害者の麗良ちゃんが……そのことを言いふらしそうになってトラブルになったみたいなの」
「それがこの事件にどう繋がるんですか?」
「ちょっと複雑……で、トラブルになって。最中、麗良ちゃんが夜道で襲われる事件に発展したの……で、その麗良ちゃんはファンを使って、犯人と断定した桐山くんの親友を襲い返したの……」
「えっ?」
「その嫌がらせが続いて、その親友は心身がどんどん衰えていって……手首には切り傷の痕、首には縄の痕が絶えなくて……それに見かねた桐山くんが助けるために……って何度も泣きながら、話してくれたのよ。あの時、美空がフラなければ。麗良が悪意を持って、その話をバラそうとしなければ……って」
では、僕に放った「フラれただけ」と言う発言はどうだったのか。自分でその答えがすぐに見いだせない中、知影探偵が話し始めてくれた。
「ああ、最後の言葉とあんなに冷たい態度で反論してきた理由は……自分を完全に悪者だと思って欲しかったから、だそう。もし証拠がなくても、自首はするつもりだったとか何とかって言ってたわ」
「……先輩はただただ人を殺した悪い人物……じゃなくって、最後まで僕のことを考えてくれた人だったんですね……逆効果だったけど……」
「ええ。そうみたいね。ワタシはまだ納得がいってないけど……この気持ちも整理をつけなきゃね……」
そんな知影探偵の背中を赤葉刑事が優しく撫でていた。僕の方はパンパンと部長が強い力で叩いてくる。
「氷河! 先輩は最後までお前を想ってくれてた。誰だって正しいことをやってるお前を憎めねえよ! 自信持てって!」
「痛いですよー! 先輩! もっと赤葉刑事のように優しくやってください!」
「ああ、すまんすまん!」
「でないと、またバラしますからね。性癖のこと」
「ちょっ! 今は知影先輩と赤葉さんがいるんだぞ! それはやめぃ!」
そこまでが僕達の優しいお話。これで終われば、何とも心地よいミステリーの終わり方であったに違いない。
その夜、僕のスマートフォンに突然現れた美伊子が口にした。本当に突然。寝る前に間違えてアプリのボタンを押してしまったのかと考えた。
そんな僕の悩みお構いなしに画面奥の美伊子は語っていく。
『アズマ……ユートピア探偵団から外された一員をご存知ですよね……』
アズマは、美伊子をこんな電子世界の住人にした一人の探偵。
ユートピア探偵団は、アズマという最低な探偵がいたグループ。連絡しても「アズマは関係ない」と隠されるだろうし、電話でこちらの身元が割れる恐れがあるので全く関わってはいない。
今はまず事件を何回も解いて、アズマやその他の探偵をおびき寄せることに集中している。
そんな奴等の名前が今……どうして提示されたのか。
「うん……それがどうか……」
『あるアイドルの襲撃事件でアズマ自身が起こし、その事件で違う人を犯人と指名することで自分の知名度を上げようとしたとの情報が入ったので、お伝えを……』
「えっ!?」
アイドル、襲撃、事件、それらの単語から今回の事件を想起せずにはいられなかった。何故、そこにアズマの名が……? いや、何故ではない。アズマの目的は自分で事件の真実を知り、世間体を良くすること。その中でたまたま今回の事件とくっついただけ……。
そうだったとしても……アズマの身勝手な行動。違法な手段が桐山先輩の殺人に繋がったのだとしたら……。
完全なる僕への嫌がらせか。運命が彼と僕を引き合わせようとしているのか。
いや、そんなのどちらでも良い。
美伊子を殺したアイツを必ず見つけ出す。僕の大切な人間を
絶対に、絶対にだ!
「お前より優秀な人間になるから文句を言いに来い! 探偵! その時は、僕達の力で倒してやる! 覚悟してろよな!」
これ以上、誰も傷付けないように僕は強くなってみせる。布団を蹴散らしながら、そう心に誓うのであった。
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