Ep.12 証拠で殺陣
「桐山……僕が分かった理由は自分の服に麗良さんの血が付いていたから、だ。そうでなきゃ彼女の背が特別低くて、飛び上がった位じゃ手すりを超えられないんだよ!」
桐山は説明されて、歯ぎしりをしていた。まさか、こんなことで自分が犯した罪が発覚するとは思わなかったのだろう。僕も同じだ。彼がこんなことをしたと不信感を覚えてしまったのはこの証拠がきっかけだった。
彼はすぐさま反論を飛ばす。
「あのねぇ……その時はボンって勢いよく飛んだのかもしれないよ? 矢が飛んできて、必死の思いで飛んだら思ったよりも大きく横に飛んで」
「それは違うっ!」
「はっ?」
僕は更なる証拠を用意する。知影探偵や赤葉刑事が見つけた数々の証拠、だ。
「もし、横に飛んだとしたら、靴によって手すりの裏側に傷が付くのか!?」
「えっ?」
「つま先やかかとが勢いよく当たって手すりに傷が付くのは理解が行くが。キャットウォークの間をまっすぐ飛ぶ矢を避けようとしたら……どうしても靴が手すりに当たるのは横の部分。靴の横の平たい場所じゃあ、傷は付けられない……つまり、違う方法で飛び越えさせ、偶然にも飛び降りたように傷が付いたってことだ!」
「……その推理は甘い……単に靴についたゴミか何かのせいで、たまたまかかとやつま先が当たったように見えた傷が付いたのかもしれない……そんな、気付いた理由なんて愚論だ! ごじつけの見苦しい推理はやめてくれっ!」
見苦しい、か。さて、それはどちらか。
大切な相手を犯人として告発する僕か。殺人の罪から逃れようとしている相手か。そんなの決まっている。
僕は大見得を切って、彼を糾弾した。
「それで納得しないなら、仕掛けが施されていたって証拠を見せた方がいいんだな?」
「はっ?」
「そこに吊りが落ちているんだが……黒い糸や白い糸が引っ掛かってないか?」
「……あっ……!」
皆が吊りに注目する。
彼が口を大きく開けたところで証拠とトリックの解説だ。
「アンタのやったことは非常に簡単な話なんだよ。美空が矢を仕掛けた後、美空の計画書かを見て知っていたアンタが麗良さんのところに言って一つの糸を衣装にくっつけた。たぶん、ピアノ線か何か、だ。非常に耐久度の強いもので間違いない」
ピアノ線が付いていたら気が付くのでは、と思われそうだが。
起きたばっかの状態じゃ自分の服や体に糸が付いてるなんて気付きにくいし、舞台前でいつもとは違う衣装を着てたら、服のちょっとした違和感なんて当たり前としか考えないだろう。そんなことよりも矢から避けようとか、早く舞台の方に戻らないとか、そんなことを思考するはずだ。
そんな僕のトリック解説に知影探偵も便乗する。
「それって……もしかしてそのピアノ線を麗良ちゃんの体か何かと降ろした吊りにくっつけて……?」
「ああ……その作業を桐山は美空が舞台の前で役の練習をしている間にやったんだ。舞台の前にもう一度吊りの整備だとか、って言ってね。たぶん、美空は自分がキャットウォークのところに美空を倒して隠してあることがバレてるなんて露知らず」
「後は飛ぶ時を見計らって、吊りを上げ下げすれば吊りに引っ付いたピアノ線に引っ張られて麗良ちゃんが落ちてくってこと……? 重さを計算すれば、ピアノ線が麗良ちゃんの重さに耐えきれなくなって落ちるものもあるし……本当なら麗良ちゃんの死体ごと燃えてた訳だから……証拠もなくなってたんだし……」
美空も顔に手を当てて、「ええ……そんなことをやってたの……? それであたしが全てやったことにしようと……」と桐山をじっと見つめて不思議がっていた。
僕がそれに追加する。
「たぶん、その上で脅迫状もやったんだ。美空が捕まることを想定して……わざと平仮名で書いた脅迫状をね。彼女に殺人、そして他の罪で捕まって重い判決を食らわせるために、ね」
今の説明に納得がいかない宍戸教諭が説明を求めてきた。
「でも、何であんな平仮名の不思議な脅迫状を……?」
問いに答えられるだけの解説は可能。
「ふざけたものじゃないと駄目だったんですよ。もし、美空に脅迫の罪を更に擦り付けようとして、本物の脅迫状を書いてしまったら、貴方はどうします?」
「そりゃあ、警察に通報してた……か」
「この舞台を中止にしていた、でしょうね。そしたら美空が殺人計画を決行しなくなる……それを考えて、わざと平仮名だらけで、後から考えれば脅迫状だと分かる文章を送り付けたんだ、桐山は、ね」
「ああ……」
宍戸教諭も納得する。そんなところで桐山が横やりを入れた。
「ちょっと待ってくださいよ。教授……! 俺はそんなことしてません! それは完全に違う意味の脅迫状だったんでしょう……俺は犯人じゃないんですから」
「往生際が悪いぞ、桐山!」
「そもそもどうして、俺が犯人だと思うんだ? この宍戸教諭だって舞台の点検をするふりをして仕掛けをすることができる!」
「火が舞台に出た時のことを覚えてるか? アンタはその時、『幕を落とさないと』ってことで、舞台全体が操作できる機械の前にいたんだぞ? そして、その後すぐに麗良さんが落ちてきた……あそこで吊りを移動させられるのは桐山しかいないんだよっ!」
「……そんなのピアノ線を仕掛けた根拠にはなんない! 吊りなんて慌てて触れただけだっ!」
まだ抗う桐山。まるで鬼の如し。彼を倒すためには、僕も鬼にならなければ。
「じゃあ、一つ目の質問だ。今日は暑い……特に舞台は……。宍戸教諭の話によるとアンタも役を貰ったみたいだな。お喋りの役を……」
「暑いのとお喋りの何が関係してるんだ?」
「水はどうする? 僕が知影探偵の推理ショーの前に給水所を探したみたいだが、なかったぞ……? ってか、ないからお茶を僕に買いに行かせたんじゃないか……」
「だから、それがなんだ!?」
「桐山は僕が買ってきたペットボトル以外で何で給水するつもりだったか……桐山はたくさん炭酸ジュースを買って、鞄の中に入れてたなぁ。持ってきたってことは飲むつもりだったんだよな?」
「炭酸ジュースを飲んだ位……!? ううっ!」
美空も宍戸教諭もその意味に気付いたようで、攻撃的な視線を向ける。その理由を僕自身が喋っていく。
「舞台に立って役者がげっぷでもしたら……綺麗なお芝居が一気に下品になる……炭酸ジュースはそんな危険性が
同時に美空が一言。
「じゃあ、どうして持っていたか……」
それに僕が答えた。
「知ってたんだ! この舞台が滅茶苦茶になることを! 自分の出番が来ないってことを知ってたんだ!」
桐山はまだ炭酸ジュースでは追い詰められていないよう。皆が視線を集中しているが、慣れているみたいで微動だにしていない。
「……炭酸ジュースは良かったな。それが決定的証拠、かな? 何を飲んだって何を持ってたっていいじゃないか。そんなに皆、怒るものかね?」
「まだだ」
「まだ証拠はある?」
「ああ! さっき落ちてきた吊りに黒い糸と白い糸、黒い糸はピアノ線、白い糸は何だと思う?」
「……? ああ、軍手か!? 軍手だね!? この軍手! やだなぁ、こんなの誰でも持ってる奴だって。それにあれは、昼休みはどっかに放置してあったから……誰かが使ったかも……」
先に答えられてしまった僕。知影探偵も部長も赤葉刑事もこれ以上手があるのかと僕の方を心配していた。
「大丈夫なの?」
「これを言い訳されちまったら、手詰まりじゃねえか?」
「他にあるの……?」
ある、と言うしかない。これこそ、本当に懸けることしかできない。本当にあるかどうか、分からないが。全てを証明するのだ。
「……いいえ、その糸が問題です。その糸の仕掛けは昼休みの前まではなかったのを僕自身が確認してます」
桐山は一回唾を飲む。
「それがなんだ」
僕も唾を飲み込ませてもらう。
「つまり昼休みにピアノ線を使って、作業して。ピアノ線があまりにも頑丈すぎて……軍手の糸がところどころほつれてしまったんでしょう。ほつれた糸がピアノ線にくっついて」
「それがなんだって言っている!」
「と言うことは間違いなく昼休憩時にピアノ線を持って、舞台に入った! その時にどうやって持ってきたか……鞄に隠すとなると少々目立つ。だからと言って、舞台に隠しても誰かに見つかってしまう可能性がある。一番いいのは自らその時、体に隠して持ってくことだ」
「あっ……」
「ピアノ線の痕がお前の体に付いてたら、終わりなんだよっ!」
との言葉でしゅいっと知影探偵が動く。桐山が次に反論する暇も与えず、もう拒否も何もできぬまま。
捕まった彼の腹にピアノ線の痕は見つかった。
知影探偵に捕まりながらも、彼は苦笑いをして。僕達にこう告げた。
「何で、こんなことをしたかって……? 俺も教えてやるよ。二人に振られたから……だよ。へへっ……」
予想もしなかった最低な理由。
僕が唖然として、動けない。誰もが彼に圧倒されて、無言でいた。
そんな中、一発。ビンタの音だけが舞台に反響して消えなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます