Ep.10 知らない罪にご用心
「分かったわよ! 分かった! 罪を認めればいいんでしょ!」
美空は靴を持ち、舞台の真ん中まで動く。そして唾を飛ばしながら、観客席にいる知影探偵の方に靴を投げていた。
キャッチした靴の裏を知影探偵と赤葉刑事が覗き込んでいる。
「赤葉刑事。ありましたね。美空が殺人を起こそうとした完全な証拠」
赤葉刑事はそれを手に取ったためか、「ひぇ!?」と驚く声を出す。どうやら仕掛けのスイッチを作動させてしまったらしい。
「ええ、知影ちゃんやSNSのフォロワーさん達が言った通り、電気か何かで……もし、被害者が梯子から降りようとした時、思わず梯子から手を取って転落してしまいそうなものよ、ね」
部長までもが駆け寄って、その証拠品を解説していた。
「ああ、これビリビリボールペンのビリビリする部分を改造したって感じかな。使ったことあるぜ」
彼の説明に知影探偵は「何に使ったのかは気になるから、今度聞かせてもらうわね」との反応をして、再度美空の顔を見上げていた。
美空は手を上げ、辺りの警官にまで伝わるような大声で話し始めた。
「皆さん、見てますー? オッケー? 探偵に追い詰められちゃったから、ここはドラマみたいに動機を話せばいいのかしら?」
知影探偵は推測した動機を口にする。
「それって、アイドル活動のことかしら?」
「ええ。そうよ。あの子のせいでファンにどんどん過激な人達が増えてって。あたしも大迷惑……! 気に入らない奴はいじめみたいにコンサート会場からファンを使って追い出したわ。『帰れ』コールなんてやらせてね」
「本当に?」
「ええ、本当よ。最初は可愛い顔をして、いえ、仮面を被ってあたしとアイドルをやろうって言ってたのに。その素顔は違った。あたしを利用して好きなままに権力を得ようとしてた悪魔だったの!」
「……そんな」
「あたしは純粋にアイドル活動をやりたかったの! あの子とただただ盛り上がれたらいいなって……でも、それが叶わない。やめるって手もあったけど……そんなの後悔ばかり残って……あの子だけこれからも目立っていくのかって思って……だから、計画したの。あの子が死ねば、悔いもないんじゃないかって考えて、ね」
情報を引き出した知影探偵が
麗良さんが隠していた仮面の裏。それを見てしまい、酷くショックを受けているよう。
美空は知影探偵にある言葉を投げ掛けた。
「探偵さん、刑事さん、後はあたしのスマホの中に計画が入ってるから。それも証拠になるかしら……」
ショックだった。僕は見えてしまった。知りたくなかった裏の顔を。今まで仮面に彩られていた人物の素顔を。
もう嫌だ。
黒幕の裏に隠れるのは、ホリゾント幕。
奴は動き出す。
「もう御託はたくさんだよ……残念だよ。君がそんな犯罪をしていたなんて、ね。君のことが好きだったのに」
奴は美空にそう言いながら、口元を緩めていた。
美空はそのふとした違和感に気が付かず、奴に返答する。
「生憎ね。あたしが好きなのは自分なの。アンタのことなんて知る訳がないでしょう」
「そうか。俺もだよ。実はそんなに好きじゃなかった」
「えっ?」
「舞台への脅迫、放火、そして殺人……君は逃れられないね。きっと極刑になるかな?」
「はぁ……えっ、脅迫? 放火? 確かに矢を発射する機械には燃えるようにしたけど、まさかあそこまで燃えるなんて思わなかったから」
「さぁ、言い訳は署でして。君は宍戸教授や俺、その他の人物への殺人未遂……でも問われるかな。判決が楽しみだ」
「アンタ、変よ?」
そう言われた後に奴はまた人が変わったように、僕達に笑顔を振りまいた。
「ああ……何でもない。ちょっと仲間が殺されたことでおかしくなったらしい……情緒不安定だな」
そんな言葉に知影探偵が目を見開いて、僕に問い掛けた。
「ねえ……そう言えば、平仮名だらけの脅迫状ってどういうことだったの? 今のワタシの推理でそこが納得できる部分なんてなかったわよね!?」
「えっ……脅迫状のことは飛ばして今回の殺人事件のことに関しての推理を披露してましたからね」
「で、どうなの? 理由分かってる?」
「……いや」
嘘をついた。咄嗟に奴のことを庇ってしまった。だって怖いから。
大切な人が犯人扱いされることが恐ろしいから。犯罪者としていなくなる事実を考えると、身がぞっとして鳥肌どころか髪の毛までもが立ってしまう。
その嘘にも鈍感な知影探偵。彼女は推理を僕ではなく、美伊子に任せようと言い出した。
「そうだ! もしかしたらヒントをくれるかも……ちょっと今はライブが始まってるけど……ライブの何かがヒントになるかもしれないよ」
彼女はスマートフォンでアプリを立ち上げ、美伊子の声を響き渡らせた。知影探偵や美伊子の声を聞く度に心が騒めいた。
『そろそろお話の時間ですね。今日は演劇舞台で起きた人間関係について』
くだらない。美伊子に僕が抱えてる闇に触れられるはずがない。
僕は知影探偵の持つスマートフォンを見ようとも聞こうともせずに身を翻す。振り返って耳を塞ぐだけだ。
「ちょっと氷河くん! 聞かないの!?」
「そんなの……いいよ。聞いたってどうせ!」
僕の愚痴と同時に美空が叫び声を上げる。赤葉刑事に自分の無実を主張し始めたのだ。
「殺人はやったけど、脅迫については何も知らない! おかしいでしょ! 舞台をやめさせたら、この殺人ができなくなるんだから! そんなことするはずがない!」
「ええと、一体どういうこと?」
推理ショーが終わったと言うのに。犯人の美空が殺人の罪を認めたと言うのに、舞台上では困惑状態が続いている。
寒く苦しい雰囲気。部長すらも目を回す。
「な、何がどういうことなんだ? 殺人事件は解決したんじゃないのか? それとも単に? 愉快犯と殺人犯が一緒にいたってだけなのか……?」
そんな彼に言ってしまった。つい、口が動いていた。
「殺人事件がまだ終わってないんですよ!」
僕はすぐに口を閉じるがもう遅い。部長はこちらの話に「どういうことだよ!?」と疑問をぶつけてきている。同時に知影探偵も他の容疑者達も、興味を隠さずにはいられないよう。
今度は僕が注目されている。
こんな自分勝手な僕が推理をすると思われている。人の家族や大切な人に対しては「犯人なんて誰だってなる可能性がある。捜査に私情は禁物だ」と厳しく考えていた僕。今はそれを
最低だ。
挙句の果てに、僕は真実を否定し始めた。
「犯人が分かれば、真実なんか皆どうだっていいんでしょ?」
一瞬辺りが静まった後に僕はもう一言。宿っていた真実を見つける意思が勝手に口を操作したようだ。
「で、でも言います……桐山先輩! アンタが麗良さんを殺したんだ! これが真実なんだよ!」
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