Ep.7 撃って落として焼いて壊して
表の方から観客席の方に出て、事件現場である舞台上へと向かう間。
美空が何故怪しいのか、推理した経緯を適当に部長へと説明した。彼はよく分かったのか理解できていないのか分からん顔で「お、おう!」と返事して、話の答えだけを信じてくれた。
早速、美空を追い掛けようと観客席から僕は舞台の方へとジャンプしようと思ったが。届かず断念。部長が一発で登ったのを横目で見ながら、階段を使わせてもらった。
ただそうこうしている間に三人の姿はなし。焦げて黒く染まった舞台上にはカーテンの燃えカスと現場を封鎖している警官だけ。彼等には申し訳ないが、赤葉刑事の名前を出して中へと入れさせてもらおうとした。
「あの……すみませ……」
なんて僕の言葉を遮ったものが一人。
「探偵ごっこなんてするんじゃねえって!」
酷くドッキリさせられる言葉。僕がやろうとしている言動を探偵だと自覚させられるようで身が震えまくる。辺りを見回して誰が僕のことに対して怒りを抱いているのか確認しておく。
できる限り、その人の目線に入らないように意識するためだ。
ただ僕に何か感情を向けている相手はいない。刑事も苦笑いをしているが、叫んだ後の必死な顔がないのだ。
部長は先程の言葉を重く受け取っていないようで、僕の反応に「気にすんなよ」と言ってきた。
「きっと、気のせいじゃねえのか?」
「いや、部長も聞こえてたんなら、空耳じゃないと思いますよ」
「ううん……だよなぁ」
彼が黙り込むと同時に僕は耳を澄ませていた。僕にヘイトを持っている相手がいたとしたら、今もまだ何かを小声で喋っているのではないかと考えて。
しかし、今は人の声が聞こえない。カツンカツンとやけにうるさい人の足音が聞こえてくるだけ。
部長がの言う通りに気にすることをやめ、辺りを歩いていく。すると美空と宍戸教諭が共に歩いているのを見かけ、慌てて後ろをついていった。
これから証拠隠滅を図るつもりかと目を光らせる。一応焼け残ったカーテンがあるために隠れやすいものの。
横で桐山先輩が騒いでいるので、集中ができなかった。
「部長、ちょっといいです? そこの先輩にちょっと」
「ああ、話してこいよ。アイツの方はしっかり見ててやるからさっ!」
仕方なく美空の見張りを部長に頼み、僕は彼の相談に乗ってみせる。
「……あの、どうしたんです? 先輩?」
「どうもこうもないよ……舞台の道具は全部燃えちゃったんだから……」
「ああ……」
「折角、作ったものが全部全部! うわぁああああ!」
絶望して項垂れる桐山先輩。彼には酷く悲しいことばかりだろう。壊されたものは直せばいいが。人に関してはどうにもならない。彼が好意を寄せていた美空は宍戸教諭のことが好きな上に、この事件の犯人として考えていいような状況になっている。
そんな真実に耐えきれるのか分からない。もし、彼が「犯人は誰か分かってるのか」と尋ねてきた時、彼を絶望の底に叩き落す自信しかない。下手に聞かれないようにと僕はその場を離れることにした。
さてさて、すぐに部長のところへ戻ろう。そして、何か変かは合ったかと聞いてみようとしたところ。
彼の追尾が失敗していたことを知る。彼は舞台の一番後ろ。ホリゾント幕のほぼ後ろにあるキャットウォークへと昇る
思わず彼にツッコミを投げ掛けてしまった。
「部長! 美空を見失ったんですか!? あんなに自信満々に言ってたのに!?」
「あ……いや、あの人達は事情聴取で楽屋の方に連れていかれたんだよ。あの状況なら、証拠隠滅もすることもできねえかな……って」
「ああ……そうなんですか。じゃあ、何で
すぐに返答はなかった。
どうせ舞台の上で食べ物を運んでいるアリさんを見つけて応援しているとか、かな。
そんな感じで部長のそばから立ち去り、今度は美空のアリバイ工作に挑もうとした時だった。部長が立ち上がって、僕の肩を力強く引っ張った。
何をするんですかと思った瞬間、彼の手が開かれる。
「見てみろ。こんなものが落ちてんぞ?」
一見して針の破片のようなもの。僕はその正体がこの事件に繋がっているとは思わず、混乱してしまう。
「ど、どういうことです? それが何か?」
「ここが武器マニアのオレの出番だな」
そう言われて以前彼の家で見せてもらった模擬刀やら、槍やらを思い出した。
「そういや、先輩集めてましたね。危険なの……えっ? って、これ何かの武器なんですか?」
「アルミの矢の先端だ。この質感は間違いない。よくネットショッピングでも売られてる奴だ……それが何かにぶつかって転がって落ちてきたってことだろ……」
「もしかして、その破片が……?」
僕は早速矢の本体がありそうな場所。そして、被害者である麗良さんが落ちてきたであろうキャットウォークの高さに梯子を使って移動する。
まず、右に移動。キャットウォークの一番右端に矢が数本落ちている。一本が壁に当たったせいか、先端が欠けている。矢の破片は手すりの下をくぐって落ちたのだ。
この事件の流れ、だいたい読めてきた。
部長の発見が手柄だとキャットウォークの上から僕は伝えておく。
「部長! ありがとうございます! これでもうほとんど解決じゃないですかね」
「おっ! やったな! おう! ついに役に立ったな、オレ! よっしゃああ!」
格好つけて、顎に手を当てる彼の姿を視界から外す。
それから、今自分のいる位置から左に移動してみる。たぶん、ここが麗良さんが落とされた場所になるだろう。そこからだと黒幕とホリゾント幕の間、麗良さんがもよく見える。それに麗良さんが落としたらしきスマートフォンも落ちている。
彼女はここから落とされたに違いない。
僕が本気で飛び越えたら乗り越えられてしまいそうな手すりを掴み、舞台の下を眺めさせてもらう。
犯人はアリバイトリックを使いながらも、この方法で美空を突き落としたのだ。
しかし、その点には幾つか謎も残るし、立証などできやしない。一番左に何かあったような跡があるも、燃えてしまっている。きっと犯人は時限式の発火装置を付け、矢を放った証拠を消したのだ。
数本残っている矢もかなり小さく、指紋がうまくついていないと思われる。
トリックはだいたい分かったのに全くとして、美空に繋がらない。これだと美空を追い詰めても「それ、あたしじゃなくても桐山にも宍戸教授にもできるよね」と言われてしまう。
どうにもこうにも見つからないんだよな、と頭を悩ませる。舞台の上で座禅のような恰好をして。
頭を抱えていた。
「どうしたの?」
「あっ、やっとこっちに来たんですね」
「あらら……もう君の方は調査を終わらせたってこと? 一応、警察の方でも写真を撮ったりするから、ちょっとどいてくださいな」
そう考えている間に赤葉刑事がやってきた。どうやら転落した場所がここであると断定して、こちらの調査をしに来たみたいだ。
この細い道で邪魔にならないようにと足場の隅に寄る。そこから赤葉刑事と他に来た刑事、そして最後に続いてきたメンツを見て「おっ」と声を出してしまった。
「知影探偵……?」
ちょっと複雑な気持ちになる。彼女は麗良さんが亡くなって、相当ショックを受けたはずだ。そんな探偵が安定した状態で事件捜査に臨めるのだろうか。
と思ったら、彼女一人だけの力で動いているようではないらしい。知影探偵はこちらにスマートフォンの画面を見せて、こう言った。
「安心しなさい。もう思いっきり泣いてスッキリしたから。それにSNSで応援してくれる皆もいるし。事件と戦わなきゃ」
「そうなんですね」
「後、事件のことも安心して。ここまで見てだいたい何が起こったか、どんなアリバイを使ったか。そしてそのアリバイトリックを使った犯人は誰なのか……見切ったわ」
「頼もしいですね」
いつものへっぽこ推理が見られるんだと少々安心してしまった。自分の敵である探偵の元気なところを見て、何故心が休まっているのだろうと思っていた。
油断していた。
「このアリバイトリックを使った美空の残したとんでもない証拠も全部見つけちゃったわ!」
「へぇ」
「あれ、あんまり驚いてないわね」
だって証拠を見つけた位で何だ。犯人を断定する証拠なんて見つかる訳が……と頭の中で整理している間に自分の考えが矛盾していることに気が付いた。
証拠。証拠だって!?
「ええええええええええええええええええええええええええええっ!? 知影探偵!? 証拠をもう見つけたんですかっ!?」
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