Ep.11 阿鼻叫喚のエクスキュート

「はぁ……あまりに人数が多いじゃないか? 何だ? この事件はほぼ全員の容疑者が犯人とでも言いたいのか?」


 僕の指名に対して、あまり納得がいかない様子の狐目。いいだろう。その不満な顔に僕が見つけた真実を叩きつけてやる。


「ううん、そうですね。特に内間さんに対して、告発させていただきます!」

「待て。内間が犯人と言うのは、どういうことだ? 長谷川は首を絞められて殺されてるんだ。まさか、内間が生きていて殺したとでも言うんじゃねえだろうな!」

「そんなすっとぼけた推理はしないので心配いりません。僕は第一の事件を引き起こしたのが内間さんだったって言いたいんです」


 ぽかんとする狐目。それはそうに決まっている。今の僕の説明方法では、どうしても内間が自分を殺した犯人だと捉えられてしまう。そんなこと、警察はとっくのとんまに承知済み。狐目の女刑事こそ、それを決定づけた本人だし。

 

「何だ……それを言うために……私を呼び出した……と!」


 相手の額から青筋が浮かび上がっている。そんな彼女に言ってみせた。僕が今から説明するのは、貴方が考えている自殺説ではないという事実を。


「いえ……引き起こしたとは言いましたが。自殺したとは一言も言ってませんよ」

「はぁ!? 自殺じゃねえって……遺書もあっただろう!」

「自殺だとしたら変なんですよ。死ぬ前に他の店から砂糖を持っていったり、店をうろつき回ったり」

「そんなの自殺する前の人が躊躇ためらったり、変な行動を起こしたり。普通のことなんだよ!」

「でもおかしいです。自殺の理由って、その店で死ぬことによって店の営業に迷惑を掛けることですよね? 警察の方もそう断定したんですよね?」

「ん? そうだが……」

 

 相手が自分の考えを肯定されたことに驚いたのか、反論が来なかった。そこへ勢いよく意見を吐き出した。


「だったら、おかしいです! ドリンクバーのコーヒーや砂糖に毒を入れても、もしかしたら警察は毒はそれを利用した客が持ち込んだと考えるかもしれません。それなら運ばれていたミートソースパスタの方に毒を入れるんじゃないですか?」

「確かにあったな……それに入れれば……」

「持ってきたウェイトレスや調理人が疑われます。それもその日のウェイトレス、春木は内間さんの妹を苦しめた人物。彼女にできる限り、疑いの掛かる方法で死ぬんじゃないでしょうか」

「そんなの単に内間が何も考えてなかった……か」

「考えてなかったらもっと実害のある方法を選ぶんじゃないでしょうか。そのウェイトレス……春木をそのまま襲ったり。無理矢理、農薬を飲ませたり……それを選ばなかったってことは、内間さんはできる限り生きている状態で春木を苦しめようとしてたんだと思います……いや、春木だけじゃないかもですけど」


 そんな僕の考えを聞いた狐目。彼女は思いきり床を踏み付けた。


「さっきから警察の捜査ばかり否定してるようだが……否定だけか!? 否定するだけなら楽だなぁ。揚げ足を取ればいいんだから! それよりも考えを聞かせろ! 内間は何がやりたかったつうんだ! 内間は何で死んだんだって言うんだ!?」


 大きい音と声で一瞬、僕の脳内にある考えが吹き飛びそうになるも取り乱さぬよう意識した。頭にある推理は無事だ。

 落ち着いて、内間がしていたと思わしき行動を話してみせる。


「その前にちょっと内間さんの行動を振り返って考えてみましょう。僕の推理だと最初に内間さんが書いた遺書らしきもの。あれは、探偵や長谷川さんを呼ぶためのものだったんです」

「……だから何だ」

「呼んで、見張りを付けてもらうことが大切だったんです。一番見てほしいのは、たぶん二階にある別の喫茶店で砂糖を持っていくところだと思います」

「それが何になるって言うんだ! 内間は自殺以外でどうやって復讐しようとしてたんだ……!?」


 僕は心を整える。死人に口なし。彼はもう反論することはできない。だから気を使って、死者の尊厳を守るために戦おうとしていた。

 しかし、彼の行動だけは許せない。

 小さい声で告げていく。


「内間さんは五階の喫茶店で食中毒騒ぎを起こそうとしていたんじゃないかって思ってるんです!」

「食中毒騒ぎ!?」

「ええ。食中毒騒ぎになったら、店は閉鎖されます。当然、困るのは店を営業する人達。妹を苦しめた報復はできるでしょう」

「待て。どういうことだ……それは本当に言ってるのか!? じゃあ、何で食中毒騒ぎは起きなかったんだ!?」


 一応、起きていた。一人の探偵を指名する。


「いえ。知影探偵。内間さんを追っていた一人の女性が食中毒で倒れました」

「その店に関係してるのか?」

「ええ。関係していると思いますよ。なんたって、彼女は家族や他の人と同じものを食べてると言ってます。もし、関係せず知影探偵の家で食中毒が起きてたら、家族も腹痛に見舞われるはずでしょう」

「じゃあ、何が原因だと……!」

「他の人と違うものを食べたのは、事件が起きた時に食べた粉チーズだけだと。それに彼女はその粉チーズの味に異変を感じてます」

「粉チーズの味に……食中毒に味なんてあるのか? 酸っぱいだとか……感じたのか?」

「いいえ。甘いです」

「甘いだと……!?」


 知影探偵はミートソースと粉チーズを口に含んだ後、「ちょっと甘すぎない?」と不思議がっていた。たぶん、チーズに砂糖が入っていた。

 僕はその状況を説明する。


「粉チーズが甘かったのは砂糖が入っていたから。で、その前に同じ粉チーズを使っていた人がいるんです」

「えっ、じゃあ、そいつも食中毒に……?」

「いえ、彼は違うと思いますよ。体から農薬だけが検出されて亡くなってるんですから」

「内間が使ってたのか!? その粉チーズを! で、砂糖……まさか……!」

「ええ。内間は入れたんです。粉チーズの中に食中毒菌入りの砂糖を、ね。彼の目的はそう。店の物に毒を混ぜて、食中毒を起こすことですから!」

「では、待て。その後に食中毒は何で起きなかったんだ?」


 一つ一つの疑問に首を傾ける狐目。丁寧に答えてやる。


「簡単です。言ったじゃないですか。内間さんが倒れた時、店の従業員や春木がこの事件をややこしくしたって。そう。内間さんが倒れたのを食中毒だと考えた店の人は我関せずをするために粉チーズの容器を洗っちゃったんですよ!」

「なるほど、だから店の中からは食中毒菌が……そういうことか……って、待て」


 僕は彼女の一言に停止する。


「何ですか?」

「待てよ、待て。結局は入れたのは食中毒菌だろ? 内間は自分のコーヒーに分かっていて農薬を入れたってことになる。結局はそこで食中毒を起こして、自分も死ぬつもりだったんじゃないか!? 自殺だったんじゃないのか?」

「違うと思います」

「何!?」

「だって、農薬入りの砂糖の袋は貴方達が持っていったんですよね。その中に食中毒の菌入りのものはありましたか?」

「ないが……!? それが何だって言うんだ!?」


 更に恐ろしい真実。最低なものだった。それを今から、僕は言う。彼の尊厳を滅茶苦茶にしていることは分かっているが、言うしかない。真実を明かすためにも。


「食中毒の菌はたった一人。たぶん、自分が飲むように入れたんです。他の人が違う毒で苦しんでる間に自分が苦しんでなきゃ、疑われますし」

「へっ?」

「つまりは、食中毒の菌は自分が飲むために用意していたものです。本人はきっと食中毒の菌入りの砂糖を自分で飲んで、あたかもそれがコーヒーに入ってるように細工しようとした。そう考えると、食中毒入りの砂糖は一つで済むんです」

「そういうと……」

「結局、内間が入れたのは粉チーズだけという結果になりましたが、食中毒の菌を飲んだ後、自由に使えるタバスコの中にも農薬入りの砂糖を混ぜるつもりだったのかもしれません……食中毒騒ぎなんて生温い。内間は阿鼻叫喚を呼び起こすような、とんでもない大虐殺を起こすつもりだったんですよ!」





 

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