Ep.10 真相究明のリクエスト
またも不穏な流れになっていく。今まで聞いたことのあるミステリーの話でも実際のことでも、兄を殺された女の子が原因を作ったのに反省していない男と出逢ってしまったら……何が起きるか想像することは
『この男は全く反省していない。警察も誰も彼を捕まえない。ならば、彼に反省させる方法は一つだけ。女の子は考えてしまったのです。この男は殺して兄と同じ思いをさせれば、反省するんじゃないのかと』
「……本当にそうなの?」
『いえ……本当は消したかったのかもしれません。自分自身の兄を殺した相手が笑っているのが許さない。ただただ生きているのが不愉快。その気持ちだけだったのかもしれない』
動機はどうであれ、本当にそれでいいのか。そう思う。僕が思考している間に彼女の話はどんどん進んでいく。
『その女の子はナイフを取り出し、暗闇の道でにっくき男を刺し殺してしまいました。彼女はそれで良かったと思いました。自分で復讐を果たせて、満足したと思いました』
「でも……」
彼女が言いそうなことを予測しながら呟いた。
『しかし、その男には妻も生まれたばかりの子供もいました。後に女の子はその妻が夫の後追いをしたと知りました。復讐を終わらせた女の子は思います。ああ……私は悪くない。兄を殺した人を慕う人なんて同罪だ……と』
画面の中の美伊子はその女の子の真似をしてるのか、眼の黒いところを回している。
『しかし、子供は……本来育ててくれるはずの両方が自分の復讐のせいで滅茶苦茶になっちゃった……子供に罪は……ない。そう気が付いた時には遅く……』
「破滅したと……」
『復讐に関してはまだまだ考えないといけないことは多い。復讐したい位悔やんでる人に、怒っている人を治めることはできない……だけど……考えて。その復讐が誰かを巻き込んでないか……』
プツリ。
配信画面が黒くなり、美伊子の姿かたちはなくなってしまった。
今日はこれまでか。しかし、何で復讐が話題になったのか。
何がヒントになるのか。
「……あっ!」
誰かを巻き込んでいないか。そこに重点を当てて考えると、とんでもない事態が頭の中に過る。
まるで雷光のように光る脳内。くらくらしそうな最悪の真実。
これなら動機も分かるのだけれど。ちょっと待てと家まで帰り、玄関で熟考した。夜の闇が窓から入り、辺りが見えなくなっても思考だけは動かした。
僕がぶち当たった最後の謎はどうして犯人は内間さんを殺さなければならなかった、だ。
第二の長谷川さんが殺された事件の犯人はもう目星がついている。犯人が残したと思しき痕跡から第二の事件でしたかったこと、目的も
内間さんの残した遺書の本当の意味ももう何か判明していると言ってもいいだろう。事件のほぼ全てが見えているはず。それなのに後一つの部分だけがもやもやと
何か、と思い付いたところで分からなくなって倒れ込む。その時だった。僕と共に横になった鞄の中からシャープペンシルが飛び出した。
「……あっ」
そういや、クラスメイトに筆箱を落とされたような記憶がある。その時に鞄へと入ってしまったのだろう。
僕がシャープペンシルを拾った、その時。
見つけた。犯人の行動が、被害者の行動が全て見えてくる。勢いよく映像が僕の頭に流れ、事件の流れを再現していく。
途中で犯人が残した大事な証拠も丸見え。気付かなかった警察は相当焦っていたか、職務を放棄していたかと思えてしまう位に。
しかし、少々危険だ。ゆっくりしていたら、証拠が消されてしまうかもしれない。
思い立ったが吉日。
僕は赤葉刑事にすぐさま連絡した。事件が始まった百貨店でとある証拠を持ってきてもらうこと。それと狐目の刑事にも来てもらうことをお願いした。すると、彼女はこんなことを早口で僕に告げた。
『何か、真犯人が分かったの!? もう事件は春木、あのウェイトレスが犯人だってことで捜査も終わるところなんだよね。それを覆すとなると……』
「どうなるんです?」
『ヤバいことになると思うけど、心の準備は大丈夫? トイレは済ませておいてね。後、彼女に探偵として責められた時、守り切れなかったとしてもいい?』
「問題ないですよ。単に証人の話として聴いてもらうだけですから」
本当に探偵らしい行為をやろうとしている僕。彼女は探偵が嫌いである僕にしっかり忠告はしてくれた。
それでも真実のために戦う。真実で戦う。事件の全貌を知っている状態で間違った真実だと分かっているのに、不当な判決で苦しめられる人を見過ごすことはできない。その不当な判決を受けるのが悪だとしても、ね。
学生服を脱いで、私服に着替えると家を飛び出した。
僕が自転車で百貨店に着く頃には、狐目の女刑事も赤葉刑事も待っていた。何だか、僕が悪いことをしているような心持ちになるのだが。今は気にしない。
正しいことをやっていると胸に誓い、狐目と目が合った瞬間、こう言ってみせた。
「狐目の刑事さん……貴方の出した推理の真相に納得できないところがあり、ここで話をさせてもらう所存です」
そんな僕に対して怒りを向ける狐目。
「警察に対して何て口を利くつもりかな……探偵風情共が捜査に口を出すんじゃねえ。で、探偵にのうのうと従う……あれ、赤葉は何処に行った!?」
そう言えば、いなくなっている。しかし、誘拐されたと言う訳でもないだろうから、普通に会話を続けていく。
「きっと尻尾巻いて逃げたんでしょうね」
「うん?」
「そんなことより、
僕がここまで言えば、あまり否定はできまい。この証言を無視して春木を殺人犯として逮捕したとなれば、「どういうことか」とメディアから警察は叩かれることになる。狐目の女刑事も自分が不利になるスキャンダルは避けたいはずだし。
逆にここで聞いて、馬鹿な話だとしても後で証人の勘違いだったとしても狐目の女刑事が責められることはない。
「分かった……ただ、そのお前の推理を私が滅茶苦茶なものだと判断したら、今後事件現場には絶対入れないからな。入ったら、赤葉と共に執行妨害で逮捕してやる!」
「……赤葉刑事……多分大丈夫ですけど、すみません」
心配したことよりもとんでもないことを言われた。刑事まで執行妨害で逮捕できるのだろうか……。
ここにいない赤葉刑事に謝ってから、そんな条件を飲み込んで、ハッキリと言ってみせた。
「分かりました。では、ここで長話も何でしょうし。単刀直入に言います。これらの事件は……内間、春木、そして、カフェの従業員によってややこしくされたものなんです!」
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