Ep.3 探偵が終わったら、死んでやる(終)

 電話に僕が出るなり挨拶など飛ばして、知影探偵は耳の鼓膜を破るような勢いで叫び始めた。


『そういや、あの美伊子のことを教えてほしいとか何とかってあったわよね!?』

「そ、そうだけど……ちょっと興奮しすぎてません?」

『い、いや、今思い出したことだから。早く伝えなきゃと思って……。ワタシのところにアズマって有名な探偵からいきなりダイレクトメールで連絡が来て……これを伝えてったんだけど』

「あ、アズマ!? アズマだって!?」


 僕の叫びに呼応して、知影探偵はアズマのことについてとんでもない尋ね方をしてきた。


『そうだけど……貴方もアズマ探偵に憧れてるの?』

「あ、憧れる!? アイツを、憧れる!? 捜査中に人に暴力を振るったり、思念を人にぶつけたり……挙句の果てには真実を捻じ曲げようとする奴のことを、か?」

『ううん? 誰かと間違えてるんじゃないかしら?』


 寒い風が背筋に吹いた。

 違う。僕は知ってる。あの探偵に警察が甘んじ、言いなりになっていることも。だから急いで違うと言ってみせた。


「それはない……それだったら、警察も偽物だって見抜けない訳がないし」

『でも……そっか。勘違いしたのかな。あの探偵、結構過激なところもあるみたいなのよ。子供にも普通に死体の写真を見せて、これに心当たりがあるのか、とか聞いてね』

「そんなことまでやってるのかよ……」

『でも、探偵としては酷い意味でも腕がいい……でも、やり方がちょっと悪いから迷惑を掛けさせないために、ユートピア探偵団を自ら退団した……人よ』


 「ユートピア探偵団」。アズマが僕に襲い掛かってきた時に放った言葉、だ。彼が崇拝しているもの。そして、もう一人。人生を狂わせる程の巨大な宗教団体のようにも思えてしまう。

 一体、何なんだ……?

 それでも疑問が残る僕は知影探偵に質問した。そもそも彼女に言って答えが出るものとも思っていないが。


「じゃあ、何で……アイツは目の前で僕達が犯人だって滅茶苦茶な推理をしたんだ……」

『……きっと氷河くん達を試すためなんじゃない。それを覆せるか、で力量を確かめた……とか』

「と言うことは、僕や美伊子がアイツの異議を否定したせいで……!? そのせいで美伊子がこんな形に……!」

『そういうことになるわね……』


 彼女が出した声は少々どもっていた。たぶん、アズマに対して不信感を抱き始めている。そんな知影探偵にもう一押し。

 アズマが僕達にした仕打ち、そして夜の行為を伝えておく。

 彼女も危険に巻き込む形になるが……それも僕が考える。彼女も襲われないよう、僕が守るんだと心に誓って。

 もう誰も彼も傷付けさせはしない。


 手に力を入れ、願う。戦おう、と。

 たぶん、ここから様々な探偵が事件現場にやってくる。人狼学園で起きた事件により、警察は二人も容疑者に死なれてしまっている。信用はがた落ち。そこで救世主の顔をして事件現場に足を踏み入れるのが探偵だ。

 警察が探偵に頼り切る世の中になる前に。

 探偵が横暴を振るう世界になる前に。

 美伊子を助けるために。


 僕は探偵アンチの探偵を続けてやる。そして、そして、だ。

 探偵が終わったら、死んでやる。探偵として、ね。





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