Ep.24 全てが裏返る
僕はすぐさま自転車を走らせた。途中から横道から出てきた車と並走し、浦川先輩の元へと向かう。どうやら、こちらにいるのは浦川先輩の警護をする羽目になった女性、赤葉刑事だった。
浦川先輩の家の前まで来て車を停めた彼女は、窓を開けて、きょろきょろと辺りを見回した。他に誰もいないと分かるや否や、僕へ語り掛けてくる。
「あれ……一人だけ?」
「ええ。そうですよ。赤葉刑事も?」
「そう。上からここの子を見張るよう頼まれちゃってね。今晩はこの辺りで張り込みかなぁ。で、君は?」
「ちょっと浦川先輩に聞きたいことがありまして……」
「そうなんだ。で、本当に誰もいないんだよね?」
「ええ。どうしたんですか?」
どうやら、警察が他の人に情報を漏らしているのを誰かに密告でもされると、面倒なことになるらしい。
彼女は僕にそのことを伝えてから、警察が調べた情報を提供してくれた。
「あのね、被害者がコンビニであの出前の紙をコピーしてるのを店員が見てたそうよ」
「なるほど、です。間違いなく、あの紙は神原先輩の持ち物だったんですね……でも、それが何だか分からない状態ですが……」
「そうよねぇ」
彼女はハンドルに肘を付けて、悩み唸っていた。このまま迷わせていても仕方がないので、警察に聞いてみたかったことを告げておく。
「あっ、そうだ。警察って事件に使われるものが売ってる場所に心当たりがありますか? 首吊りの縄とか……包丁とか」
「包丁は普通のホームセンターで買えちゃうけど……首吊り用のものだったらだいぶ絞れるかも。ある程度、頑丈じゃないと切れちゃうし。……それが……どうかしたの?」
「あれ? 知らないんですか? 村山先輩が襲われた事件……現場主任でしたよね?」
「ああ……ちょっとね……」
口元をひくひくさせながら答える様子。まさか、赤葉刑事、一般人に答えを求めるばかりだから、主任を外されたのだろうか。
それだったら迷惑を掛けてしまった。一瞬、謝ろうとも思ったが、それよりも今は頼みごとの方が先決だ。気を取り直して、彼女に告げる。
「ああ……で、その縄なんですが、特徴は知影探偵から聞いてください。出場所は一応確かめてもらっても……」
「分かったよ。他の刑事にあたってみるね」
「お願いします……!」
僕は一礼してから、ここに来た目的を思い出す。浦川先輩に話を聞きに来たのだ。彼に寝られたら、謎を解くのが遅れてしまう。
一刻でも早く事件を解決するためにも、と僕は浦川家のチャイムを押した。そうすると、浦川先輩が現れた。
「先輩、いきなりで無礼だとは思いますが、話を失礼します」
早く真実が知りたくて、僕はこの場で推理をぶちまけた。浦川先輩は挨拶代わりに突き付けられた僕の話を無表情で聞いてくれた。大変、ありがたい。
「で、どうなんですか?」と彼に問い掛けるところまで終わると、彼はついに頬を緩めだした。
そして、大きな声で笑いだした。最初、彼が顔に手を当て酷く豹変したものだから、僕の推理が間違ったのかと勘違いしてしまった。ドギマギする心臓を左手で抑えながら、確かめてみる。
「えっ、何か、変な推理をしてしまいましたか?」
そうしてみると、彼はハッキリ口にした。
「いや……違う。合ってる。やはり……見込んだ人間だったか」
「見込んだ、人間?」
「ちょっと待ってろ」
話の脈絡が合わないことに僕は唖然としながら、廊下の奥へと消えゆく彼の背中を見送っていた。
数分も経たぬうちに再びやってくる浦川先輩。今度の彼は、一つの紙を手にしていた。僕がそれを指さした瞬間、彼が説明をする。
「神原に言われたんだ。これを預かって、と。で、もし、自分に何かあったら探せ……と」
「ああ……神原先輩は自分に何かが起きると分かってたんですね」
「で、信用できる人間にこれを相談しようと思ってたんだ……ほらよ。受け取れ」
「は、はい!」
僕は彼から一枚の紙を貰った。ついでに心が騒めく心のまで投げ掛けられた。
「達也……と何かトラブルが起きてるらしいな……」
「あっ……それは……先輩見てたんですね……僕達の」
「何があったかは知らんが、仲直りはしとけよ……アイツは馬鹿だけど……」
「馬鹿だけど……?」
「他の人にはない馬鹿なところがある」
「結局、馬鹿呼ばわりなんだ……ですね……頑張って……みます……」
「困ったらアイツを呼んでやれ。アイツはお前を助けたいと心から思ってる。きっと、仲直りできるさ……」
そこまで言われて、無理だとは言えなかった。だけれども、仲直りできる保証も何処にもなかった。
彼の大切な妹を守れなかったのは僕だ。そして、その守れなかった事情すら話すことができない僕を彼が許すだろうか。
僕は浦川先輩が持つ期待に応えられそうになくて、急いで「さよなら」と別れを告げる。そのまま走って自転車に乗って、帰路に着く。
赤信号で止められたところで、浦川先輩から貰った紙について確認を取る。
正面には出前だけ。
そう。死んだ神原先輩がポケットの中に潜ませていたものと同じだ。たくさん折り目がついているし、たぶん、これがコピー元の用紙だと思うのだが。
何になるのか、全く分からない。
裏には何も書かれていないだろうな、と考えつつ、そちらも確かめる。
「えっ……」
あった。
全てのピースが埋まる証拠がここにあった。
あの人は、このために殺人を犯したんだ。
今まで考えてきた推理と、この用紙さえあれば全て終わる。後は、気になる証拠だが。こちらも僕の間違いがなければ、真実は見えている。
「……このことについて、話して……みないとね」
警察が真実を知るまでに、犯人が自分のことですと言ってくれれば、自首になる。
犯人に自首を進めよう。
そう決意して、僕は一夜を過ごす。
朝になって、僕は自分の学校ではなく、仁朗学園へと向かった。
この腐った人狼ゲームに決着をつけるために。
探偵よりも早く事件を終わらせて、他の探偵がどれだけ役立たずなのか証明するために。
そして、探偵に殺された美伊子の復讐をするために。
何重もの複雑な思いを胸に抱き、犯人が登校するのを校門で待っていた。狙い通り、奴は堂々と入ってくる。
声を掛けて「聞きたいことがあるので、校長室の前まで来ていただいていいですか?」と告げておいた。一応、校長室前は人が通る場所なので口封じに犯人が襲ってくることもないだろう。
十分後ろに用心しながら、校長室の前に置いてあった椅子に腰を掛ける。
「待たせたね」
犯人は済まし顔をして、来てくれた。自分は絶対にバレるはずがないと確信している様子。
それに僕はこう返す。
「今から、神原先輩が殺された事件の確認を取りたいと思います。そこでちょっと聞きたいことがあるので、ご協力ください」
最初に名指ししてしまうと、犯人が狂暴になって話にならないこともある。だから少しずつ。ゆっくりと。
別の話から犯人との会話を試みる。
ただ、犯人の様子は少々変だった。
「うん。いいけど、ぼく、そこまでアイツが殺された事件のことを知らないんだけど」
「ん? どういうことです?」
「だって、ぼく、岸です。アイツに殺された、岸ですから。事件のことは天からでしか見てないんですよね……話し相手になれるかなぁ……」
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