Ep.13 犯人は知っていた

 なんて格好良く決めたところで加納教頭がこちらの方に出る。彼が何か言ってくるかと思ったのだが。その彼を押しのけて我先にと意見する野郎が一人。

 僕がついでに容疑者にした石井部長だった。


「ちょっ!? 何でオレまで容疑者になってる訳だよ!? 警察になんつーこと言ってんだ!? オレ、逮捕されたら部活なくなんだぞ! そこ、分かってんのか?」

「大丈夫です。跡形もなく潰しときますから」

「てめぇ!? 後、美伊子が悲しむんだぞ!」

「美伊子は前に言ってました。兄貴なら捕まっても大丈夫だって!」

「嘘だろっ!?」


 部長はショックのあまり、腕に力が入らなくなったようで。無表情で腕をぶらぶら揺らしていた。

 可哀想だから少々種明かしをしてやるか。女刑事も首を擦りながら、本当に呼んでいいのかと迷っているし、ちょうど良い。

 何故僕が指名した人達が容疑者なのか分からないはずだから、教えないと。


「で、冗談はさておき。部長も刑事も思い出してみてください。被害者の周りに落ちていたもの。弓矢、本、狐の仮面だけでなく、もう一つ。ボールです。それも近くにありましたよね?」


 先に部長が答える。「ああ」と重く頷いていた。


「それがどうかしたんだ? あれは結局人狼……ボールが水晶と言うことで、占い師。……浦川とそんな話をして。浦川が犯人に仕立て上げられた訳じゃないってところで終わったろ?」

「ええ。でも、犯人がボールを置いた。たまたまなのか、分からないんですけど……」

「犯人が占い師を意識してたから、どうなんだ?」

「神原先輩と占い師を関係づけようとしてたんじゃないか、って思います。で、同時に僕は昨日の人狼ゲームを思い出しました」

「昨日の人狼ゲームだ……と? お前が勝った?」


 そう。神原先輩が放ったあの言葉。これが犯人の手掛かりになるのでは、と思った。


「確か『折角、初めての占い師だったのに……覚えてなさい。ゲームだけじゃすまされないこと。教えてあげる……!』だったはず。これしか、占い師と神原先輩を繋げるキーワードはない……と思うんです」


 つまり、神原先輩にボールを置けるのは彼女が占い師だったことを知っている人だけ。パソコン部で叫んでいたから、たぶんパソコン部内にいた人は聞こえていた。

 だから、人狼ゲーム終了時点でパソコン部にいた神原先輩以外の人が考えられる。

 僕と石井部長、浦川先輩、村山先輩。後は、近くで神原先輩を見張っていたかもしれない人物、加納教頭も入るであろう。

 狐ヶ崎教諭は人狼ゲームが始まる前に教室を離れてしまったから、犯人から除外しても良い。

 僕自身が犯人でないことは自覚しているので、僕もなし。後は、他の四人となる訳だ。

 そう伝えると、女刑事はすぐさま警官に放送室へ行くよう、命令していた。これで集まる。

 これでかなり犯人は絞れたな、と胸を撫でおろし満足しそうになるも、問題が頭の中で回り巡っていた。

 何か、何かが引っかかる。

 僕が壁に直面して、考え始めると隣から声が聞こえてきた。


「おいおい。でも、オレを少しは信じてくれても良かったじゃねえか」

「いや、でも、探偵みたいなことはしたくないですから」

「探偵?」

「大事な人を除外して、結局その人が犯人だったってなると、大事なものを見逃すでしょう? 普通じゃだいたいは無条件で探偵の家族や友人は犯人じゃないって刑事さん達からも認められるけど、それっておかしいですよね。その人達のことも疑って、ちゃんとしてから捜査するべきだと思うんです。そうしないと、真実は見えない」

「あ……ああ……」

「それに石井部長だけ言わないでおくと、あの部屋にいた人達が犯人だって言う推理の説得力も半減してしまいますし。だって、後で何で石井部長は……いれなかったって聞かれるでしょう。その時、僕は何でかなんて答えら」

「ストップストップ。分かったよ。結局はオレも自分が無実だって証明できるようにすりゃ、いいんだろ?」

「そういうことです。部長にしては物分かりが早いです」

「相当、舐められてんだな、オレって」


 部長が頬を掻いている間に僕は腕を組んで、もう一考え。そんな中、部長の言葉が頭に舞い降りた。


『無実だって証明できるように』


 そうだ。あの置かれたボールは犯人が自分の無実を推理させるために置かれたものかもしれない。と言うより、その方が辻褄が合う。

 人狼ゲームの見立てにしたのも、その理由である可能性があった。弓矢等々を置いておけば、誰かが人狼ゲームの見立てと気付く。

 当然、神原先輩が占い師だと言うことが分かれば、警察はこのゲームを知ってる人を疑う。それが犯人の狙い。僕とは違う方法で神原先輩が占い師だと言うことを知って、この犯行を思いついたのかも、だ。

 しかし、それも少々おかしい気もする。

 加納教頭は生徒を帰らそうとしていた。たぶん、外部犯のせいにするつもりだった。僕がいなければ、自分が無実になるどうこうの前に、学内の自分に疑いの矛先が向くことはなかった。

 ううむ。訳が分からなくなる。取り敢えずは、あの四人。四人の中に犯人がいることを信じて、事情聴取の結果を待つしかない。

 そう思ったところで、男の声で校内放送が流れ出した。


『二年の村山、二年の浦川、至急一階の校長室まで来なさい。繰り返す。二年の村山、二年の浦川、至急一階の校長室まで来なさい』


 体育館ではなく、一階の教室隅で行われるようだ。呼び出されたものはたまったもんじゃない放送だな、と思いながら、その場に行こうとしたが。

 加納教頭が女刑事に囁いた。

 そのせいで女刑事は僕に言う。


「す、すみません。プライバシーの関係で事情聴取に他の生徒の参加はダメだそうです。ご、ごめんなさいね」

「あ……はい」


 仕方、ない。

 僕が疑われるのは後になるだろう。同時に事情聴取も後となる。その前に急いで、確かめたいことがある。

 狐ヶ崎教諭のことだ。

 彼女がもし、盗聴器か何かをパソコン室に仕掛けていて。たまたま聞いてしまった情報を活用した可能性もある。

 それを証明できれば、一発で犯人が分かるし。

 ただそんな期待を証明できるか分からない。校舎二階の職員室に入ろうとしたところで一人の男教師に追い返されそうになった。

 ただでさえ緊張して膝が震えているのに、睨み合いをしないといけないなんて最悪だ。


「あ、あの……」

「今は忙しいんだ! 他校の生徒を職員室に上げる訳にも」

「い、いえ。そういうことではなくて。警察の人から聞いてこいって話で。ちょっと手伝いをしてるだけです」


 相手が少々こちらに耳を傾ける。警察には逆らえないようで。ホッと一安心。


「何だ?」

「狐ヶ崎教諭のことです。彼女は昨日、ええと十四時頃でしたか。戻ってきましたかって」

「ああ。戻ってきて。ずっと私と話をしてたぞ。パソコン部がどうたら、こうたらって。それがどうか?」

「何かイヤホンとかは」

「してないぞ。ちゃんと目の前で喋ってたんだし。それがどんなことに……」

「あ、ありがとうございます!」


 一応、これで狐ヶ崎教諭が占い師のことを知ってた可能性は低い。誰かが話したとなれば別だが。誰が彼女に話したかなんて、容疑者の人達に聞けば、分かるだろう。たぶん、ね。

 後はそのまま猛ダッシュ。そう言えばと後で気付くが、鍵のチェックを忘れていた。

 犯人は頑丈であった体育館の扉を壊せなかった。だから他の扉はともかく、体育館の扉だけは鍵を使って開けている。

 もしかしたら体育館の鍵に犯人の痕跡が残っているのかも。さて。今は職員室の扉も閉め切ってしまってる。今は警察の、と言ってももう入れてくれないだろう。

 どうするべきか。

 困っていた最中、冷たい視線が僕の背中を刺激した。

 

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