Ep.12 犯人はこの中に!
知影探偵はこちらの発言がハッタリだとでも思っているのか。一旦目を丸くしていたものの、少しずつ顔に笑みを浮かべるようになっていった。
「面白いわね。何がSNSじゃ手に入れられない証拠なの? そんなものがあるなら、早く出してみなさいよ。素人探偵さん」
「ええ。そのために、ちょっと来てもらいたい場所があります。取り敢えず、ここにいる皆さん、現場保存をしてる警官以外の方々は、体育館の方へお願いします」
そんな発言の意図が探偵にはよくわからなかったようで。「何をどうやって証明する気なのよ」とぶつぶつ口に指を当てながらぼやいていた。
考える暇もなく、僕は体育館の弓道場前へと皆を案内した。
一度、僕達が確かめに来たボロボロの扉。ところどころ血が付着している。知影探偵も僕の行動の理由をやっと飲み込めたらしい。
「そういうことなのね……!」
一人、加納教頭は「だ、誰だ!? 学校の設備を壊したのは!?」と叫んでいる。情報を求めているようだから、彼にも教えてあげようか。
「加納教頭。これを壊したのは、弓矢を取りに来た被害者でしょうか」
「そ、そうなのか……?」
「いや、それだったら扉に血が付くでしょうか?」
「ううむ……? 付いてもおかしくないだろう!? 彼女は刺されて血だらけだったんだから!」
「いえ。神原先輩が呪いの準備をしてたとしたら、犯人に襲われる前にここに来るんじゃないですか。刺された時に彼女の持っていたものが現場に落とされたんですから。そしたら、ここに血が付きますかね? 彼女は刺される前は怪我なんてしてなかったんですよ」
「ふむぅ……!?」
加納教頭は血眼になって考えている。どうやら、これ以上思考は動かないみたいだ。
「こう考えれば辻褄が合うんです。神原先輩の返り血を浴びた犯人が呪いか人狼の見立てをするために、弓矢を欲してこの弓道場にやってきた、と! 刺された後の神原先輩が死にそうになりながらも、扉をぶっ壊せる程、動ける訳がないですし。犯人で間違いないです」
犯人が神原先輩を刺殺した後に弓道場へ来たことに間違いはない。
そこまで告げると、知影探偵は拳を勢いよく床へと振り下ろす。大きな音は出なかったが、少々迫力があった。
だからなのか、またも身構えてしまった。アズマのように拳が飛んでくるのではないかと思ったから。
しかし、そのような心配は無用。ただ、彼女は震えているだけだった。
「しまったしまったしまったぁ! こ、こんな証拠があるのに見逃して。SNSだけに頼るなんて! やっちゃったぁ! ああ、もう恥ずかしい!」
少々叫んでもいるが、攻撃性はなさそうだ。僕を恨んでいると言うよりは、捜査を怠った彼女自身に怒りを向けている。
「ち、知影探偵?」
彼女は自分の髪を一本引っ張りながら、僕の呼びかけに反応した。
「し、素人だと思って油断してたわ。つ、次はちゃんとした立証をしてあげるから覚悟しなさい!」
「あの……僕が覚悟する必要ないですよね。立証されて嫌なのって犯人じゃありません?」
「……失礼したわね。そうね。何て言うべきかしら。次はアンタの証拠に打ち負かされないわよ」
「それは逆に犯人ですよね。知影先輩が証拠に負ける犯人だったんですか?」
「ち、違うわよ……あれ? えっと?」
探偵が指を回して困っている。いい気味だ。
探偵に勝った優越感に浸ろうとしたところ、一つ違和感にぶつかった。おちょくるためだけに、彼女の意見に反抗したのではない。
警察に自分の推理を注目させるため、でもある。
警察が頼りにしている探偵よりも巧く証拠を提示できるとなれば、自然と僕に目が行く。そこで僕が捜査方針を伝えれば、かなり変わってくるはずだ。
だとしても、僕が言える捜査方針はあるのか。
内部犯か、外部犯か。加納教頭が保身のために外部犯と語る。それに次いで、知影探偵は被害者自身が道具を持っていたと推理したから、内部犯以外の可能性も高いと考えられてしまった。
しかし、今は探偵と加納教頭の話に説得力がない。
内部犯であることも十分伝えられるはずだ。
ただ、本当に外部犯でないのか。散々否定はしてみたが。それは皆が内部犯説を完全に除去しようとしていたから。
噂に左右されすぎて、本当の真実を見誤らないように。やり過ぎたら、知影探偵のような失敗を自分も犯してしまう。人のふりみて我がふり直せ、だ。
考えてみよう。
脳内に事件現場の様子を映し出し、外部犯である証拠を探してみるのだ。
「しっかし、何で、壊されてるのか。ワタシ、見てきます。体育館の鍵は開いてるのに……どうして壊す必要があったのよ……」
知影探偵は立ち直った後、何かを探し求めて刑事の元を去っていく。体育館から出ていった。
早くしないと刑事もいなくなってしまう。
何か、外部犯が置いた証拠でも良い。例えば絶対外からじゃないと持ち込めないものだととか。
人狼の見立ての仕方が、その地域独特のものだとか。
他の人には知らないものだとか。警察には分からなかったもの。しかしながら、僕には分かるものだ。
そんな、都合の良いものはないと切り捨てようとした最中、頭にとある言葉が過る。
「あれ……待てよ」
僕が顔を上げて声を出した途端、怪しい人物の名が浮かび上がった。素早くメモに書き留めていく。
この三人、だ。
僕の考えが間違いなければ、三人の中に、いや、可能性としてはもう一人いる。あの場にいたかもしれない人物。
計四人。加納教頭も可能だ。学校の不正を隠すふりをして、自分の犯行を有耶無耶にしようとしていたのであれば、外部犯のせいにしようとしたことも他の人の口を封じたことも、納得がいく。今までの行動に筋が通っているのだ。
怪しい四人を特定し、気が付いた時には女刑事に言霊を飛ばしていた。胸が高揚していた。
「すみません! とんでもないことを思い出しました!」
後ろから声を投げ掛けられた女刑事はぴょこんと背中をへこませ、相当酷い驚きぶりを見せた。
「ちょ、な、何ですか? と、と、とんでもないって、何なんですか……何か?」
「今すぐですっ! 今すぐっ! この学校から帰ろうとしている、被害者と同じ部活の村山先輩と浦川先輩、そして、加納教頭、そこにいる石井部長に事情聴取をしてください! それで真実が分かるはずですからっ!」
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