Ep.10 探偵がやってきた!
僕は思いきり顔がねじれそうな気がした。ねじれる程、呆れていたのだ。
女刑事にしてる話が滅茶苦茶である。僕が聞いてきた情報と全く違って、一瞬頭がおかしくなりそうだった。
ただ、彼の狙いはこの高校の私立と言う仕組みに関係していることは推測できる。だから落ち着いて考えれば、この男がやりたいことも見えてくるのだ。
殺人事件があったことはニュースで世間の人達が知ることになるであろう。殺されたのが若き女子生徒となれば、犯行方法や動機について様々な人達が注目する。そこで犯人が「この学校のいじめを止めたくて」や「いじめで殺された子の復讐」なんて供述をしてしまったら、学校側は困ることとなる。
この学校にはいじめがあった。いじめがある学校なんかにうちの子を入れたくない。私立という学校は保護者の支援金なしではやっていけない。だから、今や未来のスポンサーにいじめのことを疑われることを避けたいのだ。
そのためには、外からやってきた気の狂った不審者が生徒を襲ったことにすれば良い。学校に問題がないと言い張ることができれば、学園閉鎖の危機から逃れることができる。
それにちょうど良い証拠も存在している。白猫が殺されていること。血だまりの上に人狼に見立てるためのおかしな道具が散らかっている。それもまた異常者だからやったことにすれば良いと考えているのだろう。
こんな理論で男がやりたいことは理解できた。しかし、納得はいかない。それでは真犯人の思うつぼ。神原先輩が死んだ真実を追い求めることすらできない。
僕は男達に近寄って自分の正義感をぶつけることにした。
「すみません! それはおかしいんじゃないんですか!」
そう言い放った途端、男は怖い顔を向けてきた。吊り目で酷く僕を睨みつけている。当然、怒鳴りつけてきた。
「生徒は集まって帰るように言ったじゃないかっ!」
隣にいた部長が咄嗟に近くにあった倉庫の裏に隠れていた。それ程の強さであっても、僕は怯まない。
おかしいのはこの男だと分かっているから。僕は間違ってないと信じているから。自分で説明するのも変なのかもしれないが、強い正義感が僕を支えていた。
「すみません。まず、僕とそこでちっちゃくなってる人は、この学校の人じゃないんです」
男はその言葉に対し、頭を揺らしながらいかつい顔を近づけてきた。
「何だ……他の学校の生徒なら今は来るべきじゃないなぁ」
僕達を一番邪魔な存在として認識したのだ。
「成績を落とすぞ」とも「有名大学に進学させないぞ」とも、どの脅しも通用しないし、学校の人にとって一番都合の悪い存在で間違いない。
であるからして僕も変な顔には屈しない。
「いえ。でも、昨日、僕は神原先輩のことで凄い怪しいと感じたことがあったんです。そこの刑事さんにはお話ししたいことがあるので」
「どうせ、変な噂だろ? 刑事さん! 外の連中から変なことを吹き込まれたんでしょう。構わんでくださいな」
「いえ。間違いなく、犯人の手掛かりです。噂とかじゃなくて、神原先輩に対しての情報なんですが」
とここまで言うと、眼鏡の女刑事さんは大人しそうな様子でこちらの姿を捉えてきた。頬を赤くして、指と指を合わせながら可愛らしい話し方を始めた。
「あの……これについては……知っておきたいのです。彼にも事情聴取をしてもいいですよねぇ……」
随分舐められそうな仕草の女刑事である。こういう場でなかったら、たぶん女刑事は怒鳴られていたであろうが。公務員らしき、その男は警察に対して強く出られなかったよう。
狂犬は突然、雨に濡れた子犬の如く、弱弱しくなった。
「うう……」
「いいですよねぇ。
女刑事の言葉で気付く。この禿げ頭が浦川先輩の話していた加納怜太だ。
教頭と呼ばれたことで更に僕の考えていたことに説得力が付く。学校の中では校長や副校長の次に世間体を気にしなければならない存在だ。
前に見たドラマだとあったいじめを「うちにはそんなものはありません」と言うのは、こういった教頭だったかな。
僕は彼に敵意を向けてから女刑事の方に顔を見せる。事情を女刑事に伝えていった。
「あの。見たと言うよりは昨日の昼間、部活の事情でこの学校に来て。神原先輩に会ったんです」
「なるほど。それが他の生徒が……何で、今日はいるの?」
「いえ、彼女と同じ部活の人から彼女が家に帰ってないから心配だと言う声がありまして」
「ううん。となると、殺されたのは夜中ですかねぇ……で怪しい人と言うのは?」
「時間を巻き戻して、昨日の昼間のことです。彼女と会った時、怪しい人が彼女と僕をつけていたんです」
「怪しい人? 殺された日にその子の後を……怪しいね」
僕が説明しようとすると隣から頭を掻きむしりながら横やりを入れた人がいた。加納教頭だ。
「き、気のせいだ。そんな人を付け回すような無礼な奴はいない……!」
そんな彼に真実をぶつける。
「でも、いましたよ。神原先輩はいつものことだから気にしないでと言ってましたが。普段のことだから、たぶん他の部員も追ってる教員が誰だか知ってると思いますが」
「教員」というワードに女刑事が肩をぴくんと震わせ、反応した。
「きょ、教員?」
「ええ。神原先輩が言ってました。いつものこと、なら他の部員も知ってるんじゃないですかね。加納教頭、不躾なお願いですが、その教員を連れて事情を説明してもらえませんか?」
僕は威圧に怯える加納教頭をしかと見た。前に足を踏み込んで、どれだけ本気なのかも示しておく。
「う……」
「加納教頭が言わないのであれば、神原先輩に近い人から聞きます。その教員が誰なのか」
「わ、わしだ……」
「えっ?」
教頭は答えた。自分自身が神原先輩を追っていた人であると。だけれども、それが故意であることは、おどおど辺りを見回しながら否定する。
「か、勘違いだ。勘違いなんだ。わしゃ、パソコン部の副顧問でもあるから、よくパソコン室にも行く。数学の担任でもあり、彼女も数学の教科委員。自然と近くにいるのは当然なんだ。たまたま、近くにいることが多いんだが……ちょっと」
「ちょっと?」
僕の反応にまた本当かどうか分からない言葉を並べる。
「神原さんはちょっと警戒心が強いと言うか……そのせいでつい、わしに変な勘違いをしたようでね……ほ、ほら、別にアンタには関係のないことだろ? 分かったろ? さ、帰った帰った!」
「しっ、しっ」と手で僕を追い払うような行動を取る。だが、負けない。彼の何としてでも外部犯にしたい主張を通す訳にはいかないのだ。
「ちょっ、ちょっと待ってくださいよ。何でそれで関係ないと? 事件現場は見ましたよね! 外部犯がわざわざ猫を殺したとしても、死体の前に弓矢や本やボール、狐のお面を置く必要が分かりません!」
僕のちょびっとした発言。外部犯にしてしまうと矛盾する発言に反応してくれたのが女刑事だった。
「そうですねぇ……あの、それについて加納教頭は心当たりは」
「あ、ありません! が、外部犯……が」
「ですよね」
僕がこの流れに安心した束の間。
裏切りは歩いてきた。一歩一歩。
「そうですよね。それが分からない限りは絶対外部犯だなんて話は……」
「どう思いますか? 探偵さんは?」
「へっ?」
女刑事が突然尋ねてきたかと思って、探偵のことに対して否定しようとしたが。彼女は僕のことなんて気にしてもいない。明後日の方向に話し掛けている。
違う探偵がいる。
まさか、アズマか。あの最悪な探偵か。
渾身の恨みを以てして、探偵がいる場所へ殺意を集中させた。
だけれども、そこに男の姿はない。ふんわりとした茶髪のウエーブを持つスマートフォンを持った女性だった。
高い声で自分の推理を語る探偵がいた。
「ワタシがこの事件を解きますから、ご安心を。不可解に落ちていた謎はもう見えているわよ。狐の仮面にオカルトの本。ここから導き出すのは呪い。いや、この真実は刑事の貴方達にとってどうでもいいことよね。大切なのは、その呪いを誰がやろうとしていたか。そう。被害者じゃないかしら! つまり、被害者の神原
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